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[総体]2度追いつかれても「四中工だったらこれくらいやってくる」“楽しんだ挑戦者”三重が延長V!:三重

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[5.30 総体三重県予選決勝 四日市中央工高 2-3(延長)三重高 三重交通Gスポーツの杜 鈴鹿]

 平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(広島)への出場権を懸けた三重県予選決勝が30日に行われ、四日市中央工高三重高が激突。延長前半10分に交代出場の10番FW稲畑颯斗(3年)が決めた決勝点によって三重が3-2で競り勝ち、3年ぶり3回目となる全国総体出場を決めた。

 2度のリードを追いつかれる展開。特に2-1から後半ラストプレーで喫した失点は精神的なダメージを受けてもおかしくないものだった。だが、三重のFW紀藤隆翔主将(3年)は「四中工だったらこれくらいやってくるだろうと思った。(この状況を)『楽しもう』と声を掛けました」。延長前半、一気に畳み掛けようとする名門の白いユニフォーム。3分にはオフサイドの判定で取り消されたものの、四中工FW村上涼(3年)に頭でゴールネットを揺らされていた。それでも三重の選手たちは声を絶やさず、“楽しんで”戦い続ける。そして延長前半10分、相手CKから高速カウンター。FW川北敦史(2年)が右サイドを大きく駆け上がると、このパスを受けた稲畑が中央へ持ち込んでから鮮やかな左足シュートをゴール左隅へ沈めた。

 大興奮の三重ベンチ。延長後半には相手のキーマン・MF寺尾憲祐(3年)に決定的な左足シュートを放たれるシーンもあったが、GK紙島晨(2年)のグッドセーブで阻むなど集中力を切らさなかったチームは、“2度目の”後半アディショナルタイムを今度は無失点で切り抜けて歓喜の雄叫びを挙げた。紀藤は「最高です!」と声を弾ませ、ヒーローとなった稲畑は「監督、チームメート、みんなに期待されていた。最高です」と笑顔で優勝を喜んだ。

 全国高校選手権出場32回、全国高校総体出場28回の名門・四中工は、三重の高校生選手たちが夢をかなえるためには必ず乗り越えなければならない壁だ。その四中工と対峙した三重は試合開始直後のファーストプレーで臆するつもりが全く無いことを印象づける。左中間でボールを持ったMF南出紫音(2年)が「ボクはドリブルが得意。三重のレベルだったら行ける」と相手守備網のど真ん中へドリブルで突っ込んでいく。対応がやや後手となった四中工はファウルでストップ。これで得たFKを三重の守備の柱・世古拓摩(3年)が右足の弾丸ショットでゴール右へ突き刺す。四中工と対戦した昨年の選手権予選で開始10分間に2点を奪われて敗れているという三重。他の高校同様、四中工に先制されたら勝つ確率が低くなってしまうことは分かっていた。だからこそ、伊室英輝監督は「前半から足攣るくらい100パーセントで!」と選手たちを鼓舞。そして電光石火とも言えるアタックによってわずか2分でリードを奪った。

 三重はその後も伊室監督が「ビビらずに剥がしていく」と語った通りに、ともに存在感を示した1年生MF藤村祐世や左MF榎本響(2年)らが四中工のプレスをキックフェイントなどで落ち着いて剥がしてボールを進める。そして南出の突破や紀藤のアーリークロスなどから2点目を狙った。一方、徐々にファーストDFとセカンドDFの呼吸が合ってきた四中工も中盤での厳しいチェックから反撃。相手のミスを誘って決定機を作り出すなど流れを変えると、32分にMF藤井渉(3年)の左足FKが相手オウンゴールを誘って同点に追いついた。

 そして四中工はMF神崎奨太(3年)のチャージからMF野呂彦士(3年)がシュートを撃ちこむなど勝ち越しを狙うが、次の1点を奪ったのは三重だった。後半開始直後の2分、素早くボールを動かすとMF水牧真常(3年)がSBの背後へ抜けようとした南出へパスを通す。これを受けた南出が思い切り良く縦へ仕掛けてから左足一閃。DFの足に当たったボールはGKの頭上を越えてゴールへ吸い込まれた。四中工は柔らかいボールタッチで存在感を示す寺尾やFW小川幹太(3年)を中心に反撃。そして21分には長身FW村上を送り出す。村上投入によって空中戦で優位に立った四中工はスペースへの配球や競り合いからルーズボールを収めて三重にプレッシャーをかけ続ける。

 だが、三重は世古やDF山岡優大(3年)、DF奥村和暉(1年)が頭でボールを弾き返し、相手のシュートには2、3人が反応してコースを消す。そして幅広い動きでチャンスメークしたMF久保拓摩(3年)や前線で身体を張るFWジルマ・イバン(3年)が隙あればゴールを狙い続けた。四中工は後半ラストプレーで寺尾のスルーパスから小川が同点ゴール。“四中工魂”を見せつけるようなゴールで意地を見せたが、この日は特にカウンターに対する対応で苦戦。延長戦で奪われた3点目を奪い返すことはできなかった。

 三重は新人戦でベスト8敗退。今大会も2次リーグ最終節で宇治山田商高に1-2で敗れている。紀藤が「ボクらは1回死んでいる。チャレンジャーということがはっきりした」経験を経て自分たちの立ち位置を理解し、準々決勝以降では終了間際に追いつかれても、何が起きても諦めることなく、自分たちの全力をぶつけてきた。そして掴んだ笑顔のタイトル。伊室監督は全国大会へ向けて「ウチのサッカーを貫くだけ。一戦一戦全国を知ること。(全国までの約2か月間で)ミスの回数を減らしていきたいと思う」。四中工に“殴り勝った”イレブンは切り替えて、日々のトレーニングから全力で次の勝利を目指す。

(取材・文 吉田太郎)
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