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[総体]周囲のイメージ変えた「強い」慶應義塾、激戦区・神奈川突破して全国初出場!

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[6.18 総体神奈川県予選準決勝 慶應義塾高 1-1(PK6-5)湘南工科大附高 等々力]

 18日、平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(広島)への出場2枠を懸けた神奈川県予選準決勝が行われた。第2試合では慶應義塾高が1-1で突入したPK戦の末、6-5で湘南工科大附高に勝利。悲願の全国総体初出場を決めた。

 黄色と紺のユニフォームが等々力に舞った。100分間の激闘で決着のつかなかった「代表決定戦」はPK戦でも互いに譲らず、6人目に突入。先攻・慶應義塾は中盤の要であるMF平田賢汰(2年)が右足で右隅を射抜いたのに対し、湘南工科大附は後半終了間際にゴールマウス直撃の超ロングシュートを打ち込んでいる左SB春木拓夢(3年)がシュートを蹴り込む。コースを捉えたが、「湘南工科の選手はみんな(蹴り方が独特で読んだ方向の)逆に蹴ってきていた。なので、4、5人目からあえて自分の思っている方と逆に跳んでいた」という慶應GK三浦優介(3年)が右に跳んでセーブ。この瞬間、慶應初の全国大会出場が決まり、「自分、(試合を決めるような)そんなプレーとかあんまりしたことがない。きょうの1失点目とか自分のキャッチミス。止めるしかなかったので嬉しいです」と喜ぶ三浦中心に歓喜の輪ができた。

 掲げている目標は全国制覇。伝統ある「慶應」の名を背負い、高い志を持って戦う進学校はCB酒井綜一郎(2年)が「慶應だから勉強しかできない。そのイメージは絶対に変えないといけない。それはみんなで言っていた。やってやろうぜと」と語ったように今年、周囲からの印象を変える戦いを続けている。J育成組織出身の選手も複数擁し、攻守において前へ、前への積極サッカーで差をつけるチームは今月初旬の関東大会に55年ぶりとなる出場を果たし、そして今回、全国初出場決定。「お坊ちゃまなりに……」と揶揄されたこともあるという慶應は、激戦区・神奈川で代表権を獲得する力を示して「勉強しか」の評価を見事に覆した。

 先制したのは湘南工科だった。前半26分、混戦からFW吉原崇匡(2年)のラストパスでDFの背後を突いた10番FW脇坂崚平(3年)が右足でゴールを破る。湘南工科はその後もプレスのやや緩い相手のマークを外して巧みにボールを動かし、形のいい攻撃から国体優勝MFの岩崎駿(2年)や吉原がシュートを打ち込んだ。対して、CB関俊太朗(3年)の好守などで追加点を阻止した慶應もポジショニング良くボールを動かしてPAまで運び、右SB下谷優太(3年)のクロスなどで攻めるものの、決定打が出ず。0-1で前半を折り返した。

 その慶應は後半開始から右足に負傷を抱えるMF柿沼亮祐主将(3年)と大型FW板倉正明(3年)を同時投入。すると、6分にビッグプレーでスコアが動く。左タッチライン際の攻防から平田がボールを柿沼に預けると、一瞬前を向いた川崎F U-15出身のレフティーが左足で超ロングシュート。「偵察ビデオ見てGKが前に出るのは知っていたのでチャンスあればと狙っていた。あのタイミングで打つことができました」という柿沼の一撃はGKの頭上を越えてそのままゴールネットを揺らす。“古巣”のホームスタジアムで決めたスーパーゴール。会場中がどよめいた衝撃ゴールによって慶應が同点に追いついた。

 流れは慶應。柿沼が「前半は前から行けてなさ過ぎて相手に前へ簡単につけられてしまっていた。後半は前からゴールキック繋げさせないとか、セットプレーごとに蹴らせる感じにしたのでセカンドボール拾えて、自分たちの時間が増えたと思います」と説明したように、後半は持ち前の前から行く姿勢を強めた慶應の前に湘南工科はミスの数が増えてしまう。湘南工科はハイサイドを取るシーンもあったが、1対1で強さを発揮するSB竹原優(3年)やCB酒井に阻まれて攻め切ることができない。酒井の相手を3度追い、4度追いするような圧巻プレーもあって士気を高めた慶應は、主導権を握って攻め続ける。ボールを奪いに来るDFを巧みにかわしてボールを運ぶ柿沼や平田、MF武田聖基(3年)を軸に攻めた慶應は33分に板倉が抜け出して決定的なシュート。だがGK尻無浜竜太(2年)に止められたほか、守備範囲広いCB小笠原由多(3年)とCB米澤哲哉主将(3年)を中心とした湘南工科の守りは非常に堅く、慶應は勝ち越すことができない。

 逆に後半終盤は湘南工科にチャンス。右SB齋藤翔太(3年)の突破から脇坂が落としたボールをMF安藤拓海(3年)が右足で狙い、アディショナルタイムには春木の超ロングシュートがゴールマウスを弾いた。延長戦では互いにPAでチャンスを迎える。特に足を攣らせる選手が出た慶應は相手エースの脇坂に決定打を放たれるシーンがあったが、大方監督が「向こうには速くて上手い子がいっぱいいるんで。(ボールを)持っていてもずっとヒヤヒヤしていましたけれど、そういう巧いチームだということは分かっていた。ウチも最後体張ったり良くやってくれた。最後は攣っている奴も何人もいましたし、良くやってくれたと思います」と評した気迫の守りで乗り越えて100分間を終了。そしてPK戦を経て歓喜の瞬間を迎えた。

 初の全国大会へ向けて大方貴裕監督は「全国制覇が目標なので、『初挑戦でお邪魔させて頂きます』ということではなくて良さをどんどん出していければいいかなと思います。(出したい部分は)前に、前に行くところですね。守備も攻撃も奪って速くゴール前へ。奪われたら速く奪い返すことができたら。その中できちっとカウンターの対応とかしっかり準備して臨みたいと思います」と語り、柿沼は「厳しい中でも全員が気持ち合わせて勝てたと思う。それは継続して次は個々の精度を上げたい。全国では一戦一戦しっかり戦って頂点目指したい」。歴史を変えたチームはブレることなく、「全国制覇」の目標に全力で挑戦する。

(取材・文 吉田太郎)
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