beacon

[総体]「キンシャサの奇跡ですよ」粘り、耐えた日本航空、1パンチで山梨学院沈めて7年ぶりV!!:山梨

このエントリーをはてなブックマークに追加

[6.19 総体山梨県予選決勝 日本航空高 1-0 山梨学院高 中銀スタ]

 平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(広島)への出場権を懸けた山梨県予選決勝が19日に山梨中銀スタジアムで開催され、関東大会予選との2冠を狙う日本航空高と新人戦優勝校の山梨学院高が対戦。日本航空が交代出場のFW岩下俊城(3年)が決めた決勝ヘッドによって1-0で勝ち、7年ぶりとなる全国総体出場を決めた。

 準決勝でプリンスリーグ関東勢の帝京三高を1-0で破り、決勝でも同じくプリンスリーグ関東勢の山梨学院を1-0で撃破。日本航空の仲田和正監督は「キンシャサの奇跡ですよ」と微笑んだ。かつて、モハメド・アリが下馬評の圧倒的不利を覆してジョージ・フォアマンを破ったボクシングの名勝負を例えに出して、その勝利の大きさを説明した。

 日本航空は4年前、圧倒的なポゼッションから3人、4人が連動した崩しでゴールを陥れる華麗なサッカーで選手権出場を果たしている。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」スタイルに今年も挑戦したが、技術面などが追いつかず、堅守で勝ち切るチームへと方向転換。耐えるサッカーよりも主導権を握って攻めて勝ちたい思いは当然選手たちにあったはず。だが仲田監督が「(この世代は耐えて守っては)嫌いだと思うけれど。この子たちは粘り強く、我慢強くできるメンバー。貴重じゃないかな」と評する選手たちは見事に徹底して守りぬき、そしてこの日も一刺しで強敵を沈めた。

 序盤こそ右DF松土準(3年)のロングスローやクロス、10番MF三吉直樹(3年)のキープ力を活かして攻めた日本航空が左DF佐藤和斗主将(3年)の左足シュートなどで山梨学院ゴールを襲ったが、これをGK大野郁哉(3年)が落ち着いて防いだ山梨学院は試合を通して存在感を放っていた10番MF相田勇樹(3年)とMF西野隆男(3年)を軸にショートパスを繋いで圧倒的にボールを支配する。21分には左サイドを破った15年U-16日本代表のFW加藤拓巳(2年)がカットインから右足シュート。これはGK高橋正也(3年)のファインセーブに阻まれたが、36分にもショートカウンターから加藤の左クロスに俊足FW藤原拓海(3年)が決定的な形で飛び込んだ。

 それでも本来アンカーのMF平久竜土(3年)をスイーパーに置く5バックで守る日本航空は平久を中心に相手の2トップをマークした岡田拓真(3年)や花元翔(2年)の両ストッパーらが執念の守り。加藤のパワーと一瞬のキレ味、藤原のスピードにひとり剥がされても誰かがカバーするなど、決して得点を許さない。前線のFW山崎一平(3年)や中盤の選手もまずは守備を徹底。攻撃機会は少なかったものの、高い位置でリスタートする機会を得ると、そこからロングスロー、クロスを放り込んだ。39分に左クロスから松土がゴールへ押し込んだシーンはオフサイドの判定となったが、一発があることも示していた。

 後半も山梨学院が攻め続ける展開。相田や左利きのMF雨宮壮(3年)が相手にとって危険なパスを出し、右MF降矢涼平(3年)や加藤、藤原がドリブルで穴を開けてくる。だが、18分に西野のスルーパスで抜け出した藤原の右足シュートは距離を詰めた高橋がビッグセーブ。守護神の魂のセーブでまたもやピンチを免れた日本航空は、その10分後に訪れたワンチャンスをものにした。28分、日本航空は右サイド、ハーフウェーラインをわずかに越えた位置でボールを持った松土がロングクロス。ニアサイドで潰れた選手の後方から猛烈な勢いで飛び込んできたのは交代出場の岩下。勢い良く頭で合わせたボールは右ポストを叩いてゴールラインの内側へ転がった。

 殊勲の岩下は「自分がサイドから走っていて、松土からいいボールがきたので流しこむだけでした。ヘディングした瞬間に入るかなと思った」。そして飛び上がって両手でガッツポーズした背番号19を中心に歓喜の輪ができた。仲田監督が「あの形しか無い。何百本もやってきた」というクロスからの千金ヘッド。耐えて狙い続けたワンパンチが見事に決まり、日本航空がリードを奪った。

 一転追い込まれてしまった山梨学院はフレッシュな選手を次々と投入し、またCB草地勇輝(3年)を前線に上げて反撃。だが専守防衛の姿勢で守る日本航空はボールを奪うと着実に時間を削っていく。それでも試合は最後まで分からない。40分、山梨学院は相田の左ロングスローから草地がヘディングシュート。GKの横を抜けてゴールに入ったかと思われた一撃は「最後はGKの正也とオレで死んでも守るぞと言っていた。絶対にどっちかがゴールにいるからなという気持ちでクリアしてやりました」という佐藤主将がゴールライン上での胸コントロールから左足でスーパークリアして見せる。さらに42分には右アーリークロスがGKの頭上を越えてファーサイドのDF池澤飛輝(3年)に到達したが、身体を投げ出して守る日本航空DFの気迫に押されたか、決定的な左足シュートは枠を越えた。

 そして試合終了のホイッスル。日本航空にとっては我慢我慢の続く試合だったが、佐藤は「授業中寝ないとか、寮の掃除をしっかりとするとか、当たり前のことをしっかりやって。それをおろそかにする人がいると思うけれど、自分たちは細かいところからやってきて徳や運を重ねてこれた。自分は1年生の時から厳しく見てきました。ピッチの選手もきょう応援してくれた選手にも厳しく言ってきた。こういう舞台で我慢できたのは成長したところだと思います。仲田先生に言われてきたことを一人ひとりが謙虚にやってきたので我慢強い、良いチームになったと思います」と80分間役割を全うしたチームに胸を張った。

 高橋が「山学はいつも決勝でぶち当たる、避けては通れない道。絶対に負けたくなかった。1年、2年の時も負けていて、最上級生になって借りを返そうと思っていた」と語った強敵・山梨学院に関東大会予選決勝に続いて連勝。山梨タイトルをもぎ取ったチームは全国に挑戦する。仲田監督は「どうやって点を取るか。追求してやっていかないといけない」。本来は攻撃的なサッカーを志向するチーム。関東大会予選に続く無失点優勝、全国区の強敵を相手に耐える力を証明した日本航空はよりボールを持つ時間を増やし、ロングスローやセットプレーという武器をより活かす術を少しでも身につけて全国舞台に立つ。

(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
【特設ページ】高校総体2016

TOP