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目覚める“10番”の系譜を継ぐ者、東京V澤井がキャリア初の2戦連発

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[6.19 J2第19節 東京V2-1京都 味スタ]

 10番の系譜を継ぐ者が目覚めつつある。東京ヴェルディのMF澤井直人はキャリア初の2試合連続ゴールでチームに5試合ぶりの勝利をもたらした。0-1から逆転劇の狼煙となった一撃。前節・千葉戦(2-2)では0-2から2-2に追いつく同点弾を決めたMFがまたもや仕事を果たした。

 試合後、東京Vの冨樫剛一監督は「澤井のチームへ貢献する力はずっと数字に表れないものがあると言ってきました。彼は下部組織の頃から10番で来ましたけれど、ストロングポイントはスペースを見つけて、そこに対して入り込む力だと思っている。2列目からの飛び出しという危険な部分を出せていた。それがゴールにつながってよかった」と評価を話した。

 現在の背番号は14番の澤井だが、東京Vジュニアユース時代、ユースでの高校3年生時には10番を背負っていた。近年の東京VユースにおけるMF小林祐希(現・磐田)やMF端山豪(現・新潟)、MF中島翔哉(現・FC東京)の系譜を継いだのが澤井だった。

 ユースでは決して小林のように直接FKを4試合連続で決めたり、中島のように一人で何人もを交わしてスーパーなシュートを決めるという“華”のある選手ではなかった。それでもここぞの大事な場面で仕事を果たす決定力や、どんなときもブレずにプレーする安定感とメンタルは“10番”そのものだった。そしてトップ昇格後は1年目で23試合1得点、2年目で33試合1得点。徐々に出場時間を伸ばすと、今季はここまで10戦3得点。ようやくJでも得点を取れる選手に一皮向けつつある。

 この日の京都戦で結果を出せたのも、澤井らしいメンタルがあったからに他ならない。前半17分にはFWドウグラス・ヴィエイラのパスに抜け出た澤井がPAわずか手前でGK菅野孝憲と交錯した。菅野の手が澤井の右足にかかっているようにも見えたが、決定機阻止とは認められずに相手GKは警告に留まった。

 このシーンについて菅野は「僕はそこまで当たっていなかった。あれをレッドという人もいるだろうし、イエローでもないという人もいる。今日のレフェリーはイエローだった」と振り返り、澤井は「ぶつかっていましたし、GKに倒されました」と正直に自身の体感を口にした。

 このプレーで難しいメンタルになってしまうと思いきや、澤井は「あそこで倒れてしまった自分を悔いていて、次が来たときには絶対に決めようと思った。倒れ込まずに突っ込んでいたら1点だった。次のプレーに切り替えよう」と前を向いたのだという。

 レフェリングに翻弄されることなく、淡々とプレーを続けると、0-1の後半19分にチャンスは再びやってきた。ドウグラスが左サイドから中央へ流れる。MFアンドレイにカットされたが、拾ったMF中後雅喜がダイレクトでミドルを放った。これが前へ走り込んでいたドウグラスに当たり、PA内右へこぼれる。拾った澤井が豪快に足を振りぬき、ゴールネットを揺らした。

「いいところにこぼれてきて、ファーストタッチを意識してうまく打てたので良かったと思う。落ち着いてトラップして、逆に落ち着いてシュートできました。あそこでトラップミスしたら、あってはいけないことだと思うので。決められて良かったです」。追いついた東京Vは勢いそのままに逆転に成功。2-1で試合を終え、5試合ぶりの勝利を手に入れた。

 試合前から東京Vはスカウティングにより、相手の裏がウィークポイントだと認識していたのだという。そこを執拗に突いていく澤井のプレーは相手の脅威となり、結果を生んだ。実際に京都GK菅野は「相手のSHを捕まえきれなかったのが敗因の一つ」と話しているとおりだ。澤井の強みが多方面に出た試合だった。

 2戦連続ゴールを決めた澤井について、チームキャプテンのDF井林章は「あの(澤井の)ゴールはラッキーですね」と笑いつつも、「あそこにいるのが調子がいい証拠。いいところにこぼれたとき、それを決めきるのが持っている男。今はあいつを使うべきかと思います」と語った。

 “持っている男”と言われた澤井は「2戦連続はプロ初だし、味スタでも初。まぁ……持っていると思いたいです」とハニかんだ。とはいえ、この日の警告で次節・C大阪戦は出場停止。1試合チームを離れることになるが、“持っている男”はその好調な波を継続させてくれることだろう。

 10番の系譜を継ぐ者たちは次々とチームを去っていった。しかし今は澤井、そしてMF中野雅臣、MF井上潮音がいる。奇しくもこの日は、かつて10番を背負った3人がピッチの上に出揃った。その先頭に立つ澤井は頼もしい背中であるべき姿を示している。

(取材・文 片岡涼)

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