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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:“キャプテンマーク”を巻いた副キャプテン(関東一・鈴木友也)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「アイツはキャプテンマークを巻くとちょっと大人になるんですよ」と小野貴裕監督が笑えば、「キャプテンマークを巻いた時のアイツは安心できます。そうじゃない時はちょっと怖いですけど」と本来のキャプテンである冨山大輔も、やはり笑いながら同調する。「巻かない時よりは責任感を大きく感じるので、巻いた方が自分的にもしっかりできると思います」とそのキャプテンマークについて答えた“アイツ”は、「でも、巻かなくてもしっかりやらなくてはいけない立場なので、そこはやっぱり自分が巻いていない時でも、しっかりやれる所を見せていきたいです」ときっぱり言い切ってみせる。選手権全国8強の駒澤大高を下し、2年連続となる全国総体への切符を掴んだ準決勝。関東一高のキャプテンマークは副キャプテンの鈴木友也の左腕に巻かれていた。

 8年ぶりの出場となった昨年の全国総体は大躍進。清水桜が丘高、大津高、広島皆実高と名だたる強豪を相次いで撃破し、ベスト4まで進出。最後は市立船橋高に1-2で敗れたものの、関東一高のアイデアに富んだ攻撃的なスタイルは、大会の大きな話題となった。2年生ながらCBのレギュラーとして晴れ舞台に挑んだ鈴木も、全国のストライカーを相手に奮闘。3回戦では一美和成(G大阪)と互角以上に渡り合い、チームの勝利に大きく貢献している。ただ、準々決勝で大会2枚目のイエローカードをもらってしまい、肝心の準決勝は出場停止に。VIVAIO船橋出身の鈴木にとって、「自分の同学年にも元チームメイトが1人いて、VIVAIOとも繋がっているチームなので、そういう意味でも一番やりたかった相手」との一戦をピッチで迎えることは叶わなくなった。「準決勝に出られないとわかって、自分はちょっと気持ちが切れてしまって、サポートしているけど『一緒に戦っている』という気持ちでできていなかった」と当時を振り返る鈴木。そんな心の内は小野監督に見透かされていた。準決勝当日。「朝早いミーティングで自分があまり聞いていない態度だったんですけど、監督とちょっと目が合って『マズイな』というのは感じました」という彼に、指揮官は「それがオマエの一番心の弱い部分だ」とはっきり指摘する。奇しくもその日は鈴木にとって17回目の誕生日。チームの敗退をピッチの外から見つめることしかできず、自身の心の弱さにも気付かされた2015年8月8日が、忘れられない1日になったことは想像に難くない。

 本命視されていた選手権予選は準々決勝での敗退を余儀なくされ、想像していた時期より早く立ち上がることとなった新チームで鈴木は副キャプテンを任される。昨年から主力を張っていた自覚もあって、「今年は自分がやらなくてはいけない」という気持ちは十分過ぎる程に持ち合わせているものの、時としてそのベクトルが他者に向き過ぎることもある。今シーズン序盤のあるゲームで、チームメートへ怒鳴り散らすことの多かった鈴木について小野監督はこう言及している。「アイツは“湯沸かし器”だったので、『オマエの闘争心の使い方はそうじゃないんだよ』と。『別にウチにはオマエ以外にも繋げるヤツはいる。でも、オマエにしかウチのゴールは守れないんだよ』と。アイツはああなんですけど、ああいう表現ができるのは良い所でもあると思うんですよね」。声を出せるというのはそれだけで貴重な能力だ。その部分は十分に認めながらも、チームの中での彼の立ち位置も考慮した上で、小野監督の中で1つの結論に達したのが“キャプテンマーク”を託すということ。元々冨山は飄々としたタイプだったが、キャプテンという大役を「自分が盛り上げようみたいな所は意識していますし、自分からどんどん言うことで自信みたいなものが付いて、プレーの波というのが今年に入ってからあまりないなというのは感じています」と自身の成長へしっかり繋げていた。あとは鈴木次第でチームは完成に近付いていく。関東大会予選以降、関東一の赤いキャプテンマークは鈴木の左腕に巻かれることが多くなっていった。

 都立東久留米総合高との準々決勝をPK戦の末に制し、全国出場を懸けて臨んだ駒澤大高との準決勝。キャプテンマークを巻いた鈴木は、なかなか序盤から安定感を打ち出せない。「いつもこういう大事な試合でうまくいかないことがあって、ちょっと気持ちが入り過ぎて硬くなってしまって、自分のミスが多くなってきた」ことも感じていたため、「自分がやるべき仕事として最後まで体を張って守る所を意識して、他はみんなに任せてやっていました」と自身の中で気持ちを切り替える。後半23分には冨山がスーパーなゴラッソを叩き込み、関東一が先制。終盤はギアを上げ続ける駒澤大高に対しても、「自分はああやって放り込まれたのを跳ね返すように、バチバチやる方が好き」という鈴木と、成長著しい石島春輔のCBコンビを中心に高い集中力でゴールに鍵を掛け続け、見事にシャットアウト。小野監督も「今日の守備に関しては非常に満足しています」と試合後に評価したように、とりわけ後半は守備の安定感が際立った。その勝利に「うまく気持ちを大きく切り替えられて、最後の所を守ったり、競り合いの部分でもミスを少なくできたので、後半からは良かったと思います」と口にした鈴木が大きな役割を果たしたのは言うまでもない。

 全国には大きな忘れ物が残っている。「自分がしっかりやれば後ろは崩れないというのは周りからも言われますし、自分でも去年から試合に出ている分、そうなるべきだと思っています。どちらかと言うと、自分というよりはチームのために力を使って、チームが結果を残せれば今年はそれで良いと思っているので、個人よりチームのために頑張りたいと思います」とチームで戦うことへの想いを強調した鈴木。もちろんキャプテンマークにもこだわりはある。「キャプテンマークを巻くということは、チームで一番しっかりしないといけないということだと思いますけど、そこは自分が今一番課題としている所だと思います。もし全国大会でも巻けるんだったら、チームで一番良い選手だと思ってもらえるように、守備の部分で良い結果を残せるようにしていきたいです」。今年の全国総体の決勝は8月2日に開催されることが決まっている。その6日後。自身にとって18回目の誕生日を鈴木がどういう形で迎えられるかは、“キャプテンマーク”の有無に左右されることのない自分の意識に、間違いなく懸かっている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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