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“シュートを打つな”から手に入れた自由…U-23代表FW久保「五輪では結果にこだわりたい」

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 19歳でスイスへと渡ったヤングボーイズFW久保裕也は海外3年目を迎えた今季、自己最多となる9ゴールを挙げる活躍を披露。移籍直後は多くの壁にぶつかってきたものの、その壁を一つひとつ乗り越えてチームになくてはならない存在へと成長した。約1か月後に迫ったリオデジャネイロ五輪本大会ではU-23日本代表のエースとして期待される男が、スイスでの苦悩からゴールへのこだわり、そして五輪への熱い思いを語った。

全然相手にされない
最初はお客さんだった


――今シーズンはヤングボーイズで自己最多となる9得点を挙げました。
「出場時間や先発で出る機会が多くなったので、その分チャンスも多かったと思いますが、9得点というのは納得できる数字ではありません。ラスト5試合で負傷離脱してしまったし、二ケタ得点にも乗せたかったので残念ですが、でも海外に渡ってから右肩上がりでこれているのかなと思います」

――スイスに渡って3年が経ちましたが、改めて19歳で海外移籍を決断した理由を教えて下さい。
「僕は昔から海外にすごく出たかったんです。3年前にきたオファーはヤングボーイズからしかなかったけど、スイスに行って結果を残せば強豪国のリーグにステップアップできると思ったので移籍しました。もちろん、日本で成長できないというわけではありませんが、海外に行った方がより早く成長できるかなと感じていたし、海外の選手の中で、もまれながらやりたいと思っていたので、当時はまだ10代でしたが決断しました」

――海外で生活する難しさも感じたと思います。
「最初はやっぱり言葉の部分で苦労しましたね。コミュニケーションが取れない、喋れない、言っていることが分からないというのはすごく悔しかったし、何となく『バカにされているのかな』と感じることもあった。ただ、そういうことがモチベーションになって勉強したし、ある程度は言いたいことを自分なりに伝えることができるようになりました。言葉の面など、すごくいろいろな壁にぶつかりましたが、その都度少しずつ、ゆっくりでしたが乗り越えながらやってきた。そのときは苦に感じていましたが、今思えばそれほどでもなかったのかなと感じます」

――ピッチ上では壁を感じましたか?
「最初はお客さんでしたよ、感覚的に。全然、相手にされていないという感じでした。ただ、最初の頃は激しいタックルを受けることもありましたが、それは別に僕を狙っているわけではなく、海外ではそれが普通のプレーだった。『わざと僕を狙っているのかな』という感覚になるかもしれませんが、普通にボールが来たところにタックルに来ていただけだったと思うし、今となればチームの一員として、リスペクトしてもらいながらやれています。結果を出すことで皆に認められ出したと思うし、割と自由にプレーさせてもらっているので楽しさを感じていますよ」

――自由を手に入れるまでには苦労もあったと思います。
「一時は、監督によってですが、『シュートを打つな』『アシストをしろ』と言われたこともあります。そのときは、僕的にもあまりフィットしていないなと感じていました。でも、それを素直に聞き入れていた僕も、あのときは良くなかったなと思う。結局、自分が点を取れる選手だということを示していけば、周囲の考えも変わっていくものです。難しい時期だったけど、それも良い経験だったと思います」

――今季は9得点を挙げましたが、ゴールのバリエーションが豊富でした。理想にしている形はありますか。
「そういうのはまったくないですね。僕は点を取れたらどういう形でも、何でもいいので。いろいろな形からゴールを取れるのがFWとしては一番いいだろうし、これという形にはこだわっていません。いろいろな形からゴールを取れるような選手なれば、それだけチャンスも増えると思っています」

――練習を見ていてもシュートのうまさを感じます。相当、自信があるのでは?
「もちろん、シュートを打つチャンスがあれば打つし、シュートを打たせてもらえれば枠に持っていける自信はあります。でも僕的にはシュートを打つまで、シュートに持っていくまでが課題だと感じています。良い動きをして、良いポジションでボールを受けなければシュートは打てない。過程の部分がすごい大事だと思うし、1試合にどれだけシュートチャンスを作れるかを突き詰めないといけません」

――U-19日本代表の頃はガツガツとゴールに向かう姿勢が印象的でしたが、自分自身で変化を感じますか。
「U-19代表のときとかは、ハーフウェーラインだろうがどこだろうが、ボールを受けたら仕掛けていたと思う。一人で最後まで行けるのならそれでもいいかもしれませんが、自分の場合は結局そういうプレーからゴールを取れなかった。もちろん仕掛ける意識を忘れたわけではありませんが、仕掛ける部分はもっと前でやらないと意味がない。低い位置では味方につなぐとか、シンプルに預けて僕は前の方で仕事をするという考え方に変わってきたと思う」

――ゴールへの欲が薄れたのではなく、ゴールへの欲が強いからこそ、周囲を生かして自分は前に出るようになった。
「例えば僕が低い位置で頑張っても、最終的にゴールを決めるのは前にいる選手です。低い位置からでもゴールを奪えますが、ミドルレンジからのスーパーゴールが出る以外は難しいし、クラブでゴールになるパターンはクロスからの攻撃が多いので、やっぱりゴール前で待っている方がチャンスは増えます。だから、『前に入らないと』『入っていかないと』と思っていて。低い位置でプレーしていると、前に入りたくても簡単には入れないので、そこは中盤の選手やサイドの選手、技術のある選手に任せて、僕は今まで以上にゴールを強く意識するようにしています。僕は点を取れる選手になりたいので、前での仕事を増やして結果にこだわってやっていきたい」

オーバーエイジは
プラスでしかない


――1月のAFC U-23選手権(リオデジャネイロ五輪アジア最終予選)では厳しい戦いを勝ち抜いてアジア王者になりましたが、自分自身で成長を感じる部分は?
「予選が終わってからクラブに帰ってきて、自分的に余裕ができたのかなと感じました。試合中にすべてのプレーをガムシャラに行くのではなく、『プレーの要所、要所で力を発揮する』『大事なところで力を発揮する』ような感覚が少しずつ備わってきて、自分的にも良い感じでした。その後ケガをしてしまいましたが、それまでの感覚は悪くなかったし、すごく良い流れに乗れていたと思う」

――どういうプレーを経験することで、そういう感覚が身に付いてきたと思いますか。
「最終予選のときは、前線の選手に掛かる負担が多かったのかなと思う。体のぶつかり合いとかも、いつもの試合の倍くらいはあったと感じているので。クラブに帰れば、求められるものも対戦相手も違いますが、あまりボールに関与しなくてもいいというか、低い位置で自分が仕事をする場面が少なくなった。より前での仕事がしやすくなったし、前でパワーを発揮できるようになったと感じます」

――手倉森ジャパンで前線の選手はボールを収めることが、より強く求められると思います。
「クラブと違い、代表では自分が前で体を張って、そこでタメを作り、後ろの押し上げを待つという形が多くなります。必然的に体を張る部分は多くなりますが、それを僕は苦だとは思わない。しっかり体を張ってボールキープしたいし、その部分を(手倉森誠)監督から求められるのであれば、それにしっかり応えていくだけです」

――178センチと大柄ではありませんが、フィジカルの強い相手を背負っても簡単にはボールを失いません。
「ポストに入ったとき、ボールを受ける位置はすごく意識していますね。動き出しの部分で、ただ下りるのではなく、相手と駆け引きをしてタイミング良くということを意識しているし、相手を背負ったときにボールをさらさないように体を入れるというのは、感覚的にやっています。あとは相手と距離を取るため、ボールを奪われないために手をうまく使えているのかなと思いますね」

――15年3月のリオ五輪アジア一次予選では連係面で苦労したと話していましたが、最終予選で連係面の向上は感じられましたか。
「一次予選から比べるとすごく良くなったし、1試合こなすごとに良くなっていく実感がありました。もちろん、もっと向上できると思いますが、2トップの関係やサイドとの関係は一次予選とは比べられないくらい良くなった。あと、U-19代表のときと比べると、ピッチ外でのコミュニケーションも明らかに自分から取りに行くようになったと思う。ピッチ外で良好な関係を築くことでピッチ上でも変わる部分があるので、そういう部分の変化もあって連係も高まったと感じます」

――すでに発表されているように、五輪本大会にはオーバーエイジの選手も加わります。
「僕はオーバーエイジがマイナスになることは絶対になく、プラスでしかないと思っています。経験のある選手が加わることで、チームがもっと良くなるだろうし、五輪を戦う上で絶対に必要だと思う。オーバーエイジの選手が入ってくることで、同じポジションの選手はライバル意識も出るし、より向上心も出てくるはずです。刺激し合うことで、より良い状態で大会に臨めると思います」

――リオ五輪本大会には、マーキュリアルの新作を履いて臨むことになりますが、『マーキュリアル スーパーフライ V』の印象はいかがですか。
「僕の感覚ですけど、すごく軽い感じがして、フィット感が良いですね。ボールタッチもしやすいので、そういう部分はものすごく満足しています。スタッドが歯形ということもあって、すごい芝を噛んでくれるのでスピードが出るし、ストップやステップも踏ん張れるのでプレーしやすいです。カラーですか? 僕は黒ベースのスパイクが好きなんですが、黒も入っていて派手なのですごく気に入っていますよ」

――最後に五輪に向けての意気込みをお願いします。
「僕にとっては目先の大事な目標です。個人的にもすごいチャンスだし、いろいろな意味でアピールできる場だと思っています。今後、自分自身ステップアップしていきたいし、A代表にも入りたいと思っていますが、先のことばかりを考えるよりも、やっぱり目先のことが一番大事。最終メンバーに選ばれるようにアピールし、本大会で試合に出られるチャンスがあれば、そういう場を楽しみながら、結果にこだわってやっていきたいと思います」

(取材・文 折戸岳彦)

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