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[総体]苦戦想定し、「覚悟と勇気を持って」戦ったV候補・青森山田、暑さと難敵の挑戦乗り越える

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[7.29 全国高校総体3回戦 青森山田高 1-0 鹿島学園高 呉市総合スポーツセンタ-多目的G]

 広島県内で開催中の平成28年度全国高校総体「2016 情熱疾走 中国総体」サッカー競技(男子)は29日、3回戦8試合を行った。昨年度全国高校選手権4強の青森山田高(青森)と鹿島学園高(茨城)との一戦は1-0で青森山田が勝利。青森山田は準々決勝で米子北高(鳥取)と戦う。

「『絶対に苦しむ』って覚悟して臨むこと。『覚悟と勇気を持って行け』と言っていた」。青森山田の黒田剛監督は3連戦3試合目となる3回戦へ向けて、選手たちにそうアドバイスしたという。今大会の青森山田は愛知の伝統校・中京大中京高との初戦を6-0の大差で制し、前日は2回戦屈指の好カードと目された立正大淞南高戦との一戦を期待のルーキー・MF天笠泰輝(1年)の2発などによって4-2で快勝した。

 11年ぶりの日本一へ順調な船出。だが、名門は夏の全国が甘くないことを知っていた。北海道・東北地域の各校が2回戦までに全て敗退していたが、過酷な暑さが無関係だった訳ではない。青森山田もコンディション面に不安のあった選手がいた。それでも、最大限に警戒して迎えた3回戦を青森山田はタフな戦いで乗り越えた。MF住永翔主将(3年)は「自分たち青森で練習しているので、この広島や去年の兵庫もそうですけど(経験の少ない)暑さで持続力というか、後半になると暑さで頭もボケてきて集中力が継続できないのが、自分たちの課題。それでも難しい3戦目を勝てたことは良かった」。覚悟と勇気を持って3回戦に臨んだ北の名門は、気温32.2度の暑さと好チーム・鹿島学園の挑戦に屈しなかった。

 現在茨城県1部リーグに所属する鹿島学園は高円宮杯プレミアリーグ勢の青森山田をリスペクトした戦い。だが、負傷離脱したCB塩野清雅主将(3年)に代わってキャプテンマークを巻いたMF岡部知紘(3年)や中盤で素晴らしい潰しを見せるMF竹内利樹(3年)らが声を掛け合いながら集中した守りを披露した。そしてボールを奪うと、連動した動きと配球によってハイサイドを取り、クロスまで持ち込んでくる。前半は集中力を欠いたプレーもあった青森山田がリズムに乗れず。鹿島学園は相手に主導権を握られながらも、力の差を埋めた戦いを見せる。

 それでも、青森山田は前半のうちに鹿島学園ゴールをこじ開けた。27分、ジェフユナイテッド千葉内定の注目MF高橋壱晟(3年)が独力で鹿島学園守備網に穴を開けてラストパス。これを初戦5ゴールのFW鳴海彰人(3年)が右足でしぶとくゴールへねじ込んだ。

 先制された鹿島学園だが、落胆することなく、一発を狙っていく。前半35分にはFW橋口凜樹(2年)がDFライン背後へ絶妙なパスを落とす。これに注目の俊足エースFW上田綺世(3年)がフリーで走りこみ、右足で合わせるが、青森山田はFC東京内定のU-19日本代表GK廣末陸(3年)が距離を詰めてスーパーセーブ。鹿島学園は直後にもワンツーから橋口が決定的な右クロスをゴール前に入れ、後半7分には右SB宮本陸(3年)のクロスを上田が豪快な右足ボレーで合わせた。我慢強い守りから精度あるカウンターを繰り出し、ハイサイドを取ってチャンスへ。リードしている青森山田は黒田監督が「時間だけ過ぎてくれるように。リスクを負わないように」後方でのパス交換など慌てることなく試合をコントロールしていく。その中で後半13分には高橋のスルーパスに走りこんだMF嵯峨理久(3年)が決定機。攻守に力を示す戦いを見せていたが、2点目を決められなかったこと、また失い方の悪いシーンが出てしまったことで鹿島学園に反撃を許してしまう。
 
 鹿島学園は18分にも竹内がDFラインの背後を狙ったパスに2人が走り込んだが、GK廣末が体を張って阻止。残り10分となって鹿島学園は4人替えの奇策を発動し、1点をもぎ取りに来た。そして直後には右アーリークロスが上田に通る。だが、青森山田はCB橋本恭輔(3年)が体を投げ出してブロック。またサイドからの突破を左SB三国スティビアエブス(3年)が食い止めるなど、押し込まれても守り続けていく。

 29分、鹿島学園GK木村壮宏(3年)がPAへFKを蹴り込んだボールをGK廣末が思い切った飛び出しで弾くが、クリアボールにいち早く反応した岡部がコントロールから右足ループシュート。ボールは混戦の上方を抜けてゴール方向へ落ちていったが、青森山田は廣末がバックステップを踏みながら間一髪のところでクロスバーの上へかき出した。互いが勝利への執念を見せ合った好勝負。32分には上田が角度のない位置から放った一撃に応援席が沸いたが、これはわずかにゴールをとらえず。1-0で逃げ切った青森山田が準々決勝へ駒を進めた。

 青森山田の住永は「市船だったり、強いチームはゼロで来ていますし、青森山田は失点する甘さだったりとか、試合の戦い方、入り方、終え方ができていないというのが本音だったのでゼロで終えたのは良かった。下で繋いだり、もっとやれたことはあった。特にきょう自分たちは前半何もできなかったと思うんですけど、1点上手く決められたことによって後半は気持ちとか、迫力で乗り切ることができたと思います」。課題はもちろんあった。だが、廣末が「接戦をものにしないとインターハイでは勝ち進んでいけない。2年前、準々決勝で広島皆実とやった時に1-0で勝ちましたけれど紙一重だった。ああいう勝利があれば、チームとしてはいい状況かなと思う」と語ったように、勝ち上がるために必要な接戦を勝ち切る経験。それを示して勝った青森山田の廣末は「日本一を獲りたい。この大会で獲ります」と宣言した。まだ5合目。だが、北の名門は攻守における強さ、我慢強さ、そしてチームの団結力を発揮しながら着実に頂点への歩みを進めている。

[写真]前半27分、青森山田はFW鳴海が右足で先制ゴール(写真協力=高校サッカー年鑑)

(取材・文 吉田太郎)
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