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「東京五輪への推薦状」第24回:GK歴1年半、未完(ミカン)の現代型守護神・伊藤元太

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 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 フィールダーからGKに転向して化ける選手は決して珍しくなく、現Jリーガーにも中学年代から“最後の砦”となった選手は多い。高校年代からとなると西部洋平(清水)ら少数例になってしまうが、それでもいないわけではない。“転向組”の強みは、フィールダーとしての感覚や戦術理解があること、足元の技術に習熟する機会があったことにある。

 現代のGKにフィールダー感覚が求められていることは今さら説明するまでもなく、Jクラブでも小学校時代にフィールダーをしていた選手をGKとして採用するケースがしばしば見られるのはこのためだ。最近だとU-19日本代表候補の波多野豪(FC東京U-18)がこのパターンだが、計画的ではない、偶発的な流れでゴールを預かるようになる選手もたまにいる。

 松山工高の1年生守護神・伊藤元太がGKになったのは、「中2の新チームになるタイミング」(伊藤)に行われた練習試合が切っ掛けだった。「ふざけていたわけではないと思うんですが、『お前、GKやってみろよ』みたいな感じになって……。本当にその場のノリみたいにやることになった」というが、そのポジションは不思議とフィットしてしまった。偶発的な起用によって、それまで大型ボランチだった男は大型GKとしての道を歩み始めることになる。

「自分はヘタクソだったので、とにかくいろいろなGKの映像を観ました。その人のやり方を観察して盗んで、実践してみる。その繰り返しです」

 自分に合うやり方を自分で探っていく。その過程に充実感を覚えていた時点で、GKは天職だったのだろう。中でもドイツ代表GKノイアーのプレーには強烈に惹き付けられるものがあったというが、「前に出るスピードがまるで違う」と駆け引きやタイミングを参考にしてプレーに取り込んだと言う。

 松山工へと入学すると、GKからのビルドアップ強化を考えていた坂本哲也監督によっていきなり先発に抜擢されることとなった。身長も188cmまで伸びており、「ゴール前で両手を広げるだけで相手は嫌でしょう」(同監督)。先の全国高校総体では三重高とのPK戦で見事なセーブを見せて勝利にも貢献。その戦いを「楽しかったです」と言ってしまえる“鈍感力”も含めて、魅力的な素材なのは間違いない。

 現状では身体的に発展途上。身長もまだ少しずつ伸びているそうだが、「『もっと食え』とよく言われます」と苦笑いを浮かべたように、188cmの長身に対して65kgは少々軽すぎる。相手のクロス攻撃に対して「体負けしてしまうことがある」と語るとおり、食べて寝て鍛えることは大前提として必要だろう。自身が感じる課題は「コーチング。より戦術的に意味のある指示を出せるGKにならないと」と、日々勉強中だ。

 その上で、高みを目指す。「やるからには高いところを目指す」と、日本代表も意識している。世代的には来年のU-17ワールドカップを狙う年代。“00ジャパン”入りが一つの目標だ。「チャレンジする気持ちは忘れないようにしたい」と語る愛媛の巨人は、少しずつレベルアップを重ねながら、日の丸を目指す。


執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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