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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:268人の“リーダー”が携える覚悟(駒澤大高・高橋勇夢)

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昨年度の選手権でも右SBのレギュラーとして全国8強を経験した高橋勇夢。今年は268人のリーダーとして選手権に挑戦する(写真協力=高校サッカー年鑑)

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「『組織はリーダー以上にならない』とよく亀田先生に言われるんですけど、その言葉が凄く自分の中で響いているので、それを常に意識してやるようにしています」とその18歳はきっぱり言い切った。268人の部員を牽引する“リーダー”として、チームにすべてを捧げる覚悟が揺らぐことはない。昨年度は全国ベスト8。東京連覇を狙う駒澤大高高橋勇夢をキャプテンに頂き、まずは17日の高校選手権予選初戦へと立ち向かう。

 5年ぶりの全国となった1年前の高校選手権は躍進の時。阪南大高、尚志高、松山工高と強豪を相次いで倒し、最後は準々決勝で結果的に夏冬連覇を達成する東福岡高に惜敗したものの、全国8強という成果を手にすることで、その名を日本中にアピールしてみせた駒澤大高。半数以上のレギュラーが残り、今シーズンも首都の高校サッカーを牽引すると目されていた赤黒軍団は、その期待に応える格好で関東大会予選も東京を制し、勢いそのままに関東大会でも頂点まで上り詰める。ところが、準々決勝からの登場となった総体予選では、初戦こそ快勝を収めたものの、準決勝で関東一高に0-1と敗れて全国切符を逃すと、チームの風向きが変わる。FC東京U-18(B)、國學院久我山高と続いたリーグ戦も共に黒星を喫し、まさかの公式戦3連敗。春先からケガ人が相次いでいた状況も重なって、チームには閉塞感が漂い始めていた。

 そんな7月末。「ちょっとこのままじゃ早めに手を打たないとまずいかなと」感じた大野祥司監督が動く。例年であれば高校選手権予選が始まる直前に決定していたキャプテンを、この段階で任命する決断を下した。夏合宿の初日。部員全員による投票が行われる。最終日前日に、その投票結果を踏まえたスタッフミーティングが開かれ、キャプテンが発表された。選ばれたのは「発表の時は正直ドキドキしていたんですけど、選ばれてホッとした部分もありました」という高橋。駒澤大高には“学年リーダー”という役職が存在しており、高橋は3年生のリーダーを務めていたため、当然キャプテン候補の筆頭であったことは間違いなかったが、昨年のキャプテンを託された選手が“学年リーダー”ではなかった経緯も含め、前述したように少しドキドキしていたそうだ。ただ、「今まで通りのことをやって、インターハイで全国に出られなかったのは事実なので、このままじゃ選手権も出られないと思っていますし、そこで『自分がやるしかないんだな』という覚悟を決めました」と決意を力強く話す。例年より少し早く決まったキャプテンを中心に、チームは気持ちを新たに選手権予選へと向かって行くはずだった。

 ところが、8月に入ってもチームの調子は一向に上がらない。フェスティバルや練習試合でも失点が減らず、負けもかさんでいく。一度スタッフからの提案もあって、選手ミーティングを開いたものの、「それでもやっぱりイマイチまとまらないというか、みんな勝とうとはしているんですけど、バラバラな雰囲気があった」と感じていた高橋は、再度選手ミーティングを招集する。トップチームのメンバーが机を丸く置いて円を作り、1人ずつ自分が思っていることを話し出した。「後ろから見ている選手と前から見ている選手で思っていることが違っていることもわかって、『練習の内容1つ1つを大事にしていこう』と話し合えた」と高橋。実りあるミーティングができた手応えは感じていたが、「ミーティング自体は良かったかもしれないですけど、結局それが結果に繋がらないと、ミーティングの意味もなかったことになってしまう」ことも同時に理解していた。“2度目”のミーティング直後に行われたリーグ戦。帝京を相手に前半で3ゴールを奪ったチームは、後半に1点を返されるも、終わってみれば4-1で実に2か月半ぶりの公式戦勝利を手に入れる。その5日後にも今シーズンは2戦2敗だった関東一とリーグ戦で再会を果たし、得点こそ奪えなかったものの、久々の無失点でスコアレスドロー。確実に上り調子と言っていい状態で、シーズン最後の大会を迎える準備は整いつつあるようだ。

 高橋には自らの指針となる “リーダー”像を体現していた先輩がいる。昨年度の選手権で最前線から果敢に相手を追い続ける献身的なプレスを貫き通し、開幕戦の阪南大高戦ではゴールも決めてみせた竹上有祥(現・駒澤大)。彼こそが昨年度の3年生の“学年リーダー”でありながら、キャプテンには指名されることのなかった張本人だ。「有祥さんとは個人的にも仲が良くて、去年は彼が苦しんでいるのを見てきましたし、今でも一緒にゴハンに行ったりすると一番応援してくれる存在です」と笑顔を見せた高橋にとって、竹上がキャプテンマークを巻いていたか、巻いていなかったかというのはさしたる問題ではない。むしろキャプテンに指名されなかった悔しさを押し隠し、チームの勝利のために誰よりも走り、誰よりも声を出していたその姿から、『真の“リーダー”とはかくあるべき』ということを教えてもらった。ただ、竹上と同じことはできないし、する必要がないこともわかっている。「自分が目指している所はもちろん有祥さんなんですけど、もちろんそれだけではなくて、その上を目指さないといけないですし、自分たちの目標はやっぱり全国優勝なので、そこを目指す中で『もっと自分の特色があるんじゃないか』という風に思って、それを出すようにしています」と高橋。亀田雄人ヘッドコーチからよく言われているという『組織はリーダー以上にならない』。このフレーズが耳に強く残る。自分の中で竹上の存在を乗り越えた時に、昨年以上の結果へ到達することができると信じて、高橋は日々の練習に取り組んでいる。

 現在も大学でサッカーを続けている竹上は、キャプテンを務める後輩にこうメッセージを送ってくれた。「力不足の部分もあったと思うけど、それでもみんなが付いてきてくれていることが勇夢の努力の結果。ただ、負けたら悔しさが残るし、誰も喜んでくれない。応援してくれる人を笑顔にできるように全力を尽くして欲しい。あの興奮を味わうには勝ち続けるしかないぞ!頑張れ!」。268人の部員が在籍し、全国優勝を目標に掲げるチームの“リーダー”とはどうあるべきか。高橋がその答えを自らのプレーで証明するための舞台が、いよいよ幕を開ける。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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