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「東京五輪への推薦状」第25回:「いつか並び立ちたい」アイツの背中を追いかけて、大津MF杉山直宏は諦めずに進化する

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 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

「進化するブルー軍団」の看板選手、大津高MF杉山直宏が故障に苦しんだ時期を乗り越え、ブレイクスルーを遂げつつある。元より定評のあるドリブルのスキル、しなやかな身のこなしに「プラスアルファ」が身に付いてきたからだ。

 中学時代はアビスパ福岡U-15に所属しており、個人的に彼のプレーを初めて観たのは中学3年の春に行われたJFAプレミアカップだった。FW宮内真輝、MF崎村祐丞、そして何と言っても、現在はU-19日本代表に名を連ねるMF冨安健洋が絶対的な支柱として君臨するチーム。杉山も高い技術を持った好選手だったことは間違いないが、危機感もあったのだろう。「もっと上のレベルに行くために、大津に行ってもっと成長したかった」と福岡の中で進路を探すのではなく、熊本へと旅立つ選択をした。

 まだ1年生だった昨年2月の九州新人大会で観たときのポジションは左サイドバック。ボールを持つことで活き活きと輝くドリブラーとして、高い位置でボールを引き出しては突破を図り、ゴールも奪い取るアグレッシブなプレーで鮮烈な印象を残した。「選手に安心感を与えるのが僕の仕事」と自認する平岡和徳監督(現・総監督)は、スルスルとドリブルで奔放に仕掛ける杉山の個性を「ウナギみたいだね」と笑って尊重しつつ、時には厳しく接して鍛えてきた。

 2年生として過ごしたシーズンは才能豊かな3年生たちを支える脇役として良い味を出すことができた。ただ、3年生になってからは違う課題も突きつけられてきた。主役として、チームの大黒柱として結果を求められる。その中で故障にも泣かされ、輝きを失ってしまった時期もあった。高校総体では県予選敗退の屈辱も味わったが、夏を過ぎてフィジカルコンディションが回復するにつれてパフォーマンスも向上。こうなるとメンタル面も自然と上がってくるもので、高円宮杯プレミアリーグWESTのG大阪ユース戦では、Jユースを代表するチームに対して軽やかなドリブルと、瞬間的な判断の妙、何よりゴールへ向かう強烈な姿勢で魅せまくった。

 平岡総監督はそんな杉山を観て「あれくらいは元よりできる子だよ。まだ5割くらいだな」と評した。まだ残り「5割」があるならば、大化けもそう遠くないだろう。小気味よいドリブラーから、本当に怖いアタッカーになっていく手前にある、そんな匂いがする。右MFの位置から「メッシやロッベンを参考にしている」というカットインプレーは完全に一つの形。「プロになるという目標を持ってやっている」という言葉どおりの進化を見せつつある。

 年代別日本代表からはまだ声が掛かっていないが、自身の視野には入っている。「(福岡U-15で一緒にプレーした)冨安が入っているので。いまはまだ及ばないけれど、いつかあいつと並び立ちたい」。福岡を離れて熊本・大津へ進むことを選んでから2年半。大津が掲げてきた「あきらめない才能を育てる」というモットーそのままに、火の国・熊本で未来を目指して進化するタレントが目覚めつつある。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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