beacon

歩みを止めない夏の両王者、FC東京U-18対市立船橋は好勝負の末、ドローに

このエントリーをはてなブックマークに追加

[9.24 高円宮杯プレミアリーグEAST第14節 FC東京U-18 1-1 市立船橋高 東京ガス武蔵野苑多目的G(人工芝)]

 高校年代最高峰のリーグ戦、高円宮杯U-18サッカーリーグ2016 プレミアリーグEASTは24日と25日、第14節を行った。夏の日本クラブユース選手権(U-18)大会優勝のFC東京U-18(東京)と全国高校総体優勝校の市立船橋高(千葉)が対戦した注目カードは1-1で引き分け。FC東京は首位・青森山田高(青森)と勝ち点3差の2位、市立船橋は同5差の3位となっている。

 ともに勝ち点3が欲しかった大一番。FC東京はU-23チームの一員として翌25日のJ3鹿児島戦に先発出場したCB岡崎慎(3年)とMF鈴木喜丈(3年)、そしてAFC U-16選手権出場中のMF平川怜(1年)と中学生FW久保建英が不在で、一方の市立船橋は主力のケガ、トレーニングでアピールしてチャンスを掴み取った選手の起用もあって全国総体決勝と先発6人が異なる陣容。これが初出場となるGK長谷川凌(2年)や1年生SB岡井駿典らにチャンスが与えられた。

 FC東京の佐藤一樹監督は「『ちゃんと90分でゲームを進めろ、綻びが出たところでパワーをかけろよ』と言ったところがあったので、ゆったりした入りになってしまった」と悔やんでいたが、序盤は市立船橋がイニシアチブを取る展開となった。湘南ベルマーレ内定のU-19日本代表CB杉岡大暉主将(3年)とアルビレックス新潟内定のU-19日本代表CB原輝綺(3年)が後方でボールを動かしながら、スピードアップするタイミングを伺う。そして20分、MF福元友哉(2年)が右寄りのオープンスペースへ配球すると、「相手の5番(蓮川)はバーンと強く来るので耐えれば入れ替わるので意識していました」というFW矢野龍斗(3年)が上手くDFと入れ替わってGKと1対1に。そして左足を振り抜いて先制点を決めた。

 FC東京はすぐさま反撃。サイドから右SB岡庭愁人(2年)や左SB荒川滉貴(2年)がクロスへ持ち込み、前方が開けばMF伊藤純也(3年)やMF生地慶充(3年)が遠目の位置からでも次々とシュートを打ち込んでいく。徐々にボールを握る時間が減少した市立船橋だが、相手のカウンターをMF阿久津諒(3年)が一人で止めきるビッグプレーを見せるなど簡単には決定打を打たせず。41分にFC東京MF小林真鷹(2年)が放ったヘディングシュートがわずかにポスト右へ外れたこともあって前半を凌ぎ切ろうとしていた。だがアディショナルタイム、不用意にハイサイドを取られて右CKを与えると、FC東京にファインゴールを決められてしまう。FC東京は伊藤の右CKをファーサイドのFW半谷陽介が頭で折り返すと、ゴールを背にしたままコントロールしたMF内田宅哉が反転しながら鮮やかな右足シュートを決めて1-1とした。

 後半はFC東京が主導権を握って攻撃。対して、後半開始からガンバ大阪内定MF高宇洋(3年)を投入した市立船橋もカウンターから仕留めるチャンスを迎えるなど、互いに意図した攻撃から決定機をつくり出す。9分にFC東京は右サイドからの折り返しをFW松岡瑠夢(3年)が右足で狙うが、これは市立船橋DFがブロック。直後には市立船橋のカウンターが発動し、MF西羽拓(3年)からのラストパスを受けた矢野の右足シュートがニアサイドのポストを叩いた。その直後にはFC東京の生地が決定的な左足シュートを打ち返すなど息もつかせぬ展開。その中で優勢に試合を進めていたFC東京は24分、相手の背後を取ってPAへ侵入した半谷が後方から阿久津に倒されてPKを獲得する。市立船橋は好守を連発していた阿久津がこのプレーによって一発退場。だが、自らPKキッカーを務めた半谷の正面への右足シュートは、初先発ながら堂々のプレーを見せていたGK長谷川が残した左足でストップする。2年生GKのスーパーセーブによってスコアは1-1のまま終盤を迎えることになった。

 10人での戦いとなった市立船橋は守りを固めて完全にカウンター狙いへチェンジ。ただし、杉岡が「退場しましたけれども、監督からも。『市船というのは、10人でも勝つという逞しいチームだ』ということは言われていたので、本当に試されている場面だということを全員が感じたと思う」と語ったように、10人になってからFC東京を飲み込みかけるほど個々が迫力あるプレーを見せる。特に凄みある動きを見せていた杉岡、そして原らが相手の攻撃をPAでストップ。また枠を捉えたシュートを長谷川が確実にセーブしていった。

 そして交代出場の1年生MF郡司篤也や抜群の走力を見せた右SB真瀬拓海による切り替え速いカウンター、人数をかけてのセットプレーで作り出したビッグチャンス。FC東京のDFラインで好プレーを見せ続けていたCB坂口祥尉(2年)も「1人減ってからの相手の攻撃の勢い、相手選手の一人ひとりのモチベーションが上がった感じがしましたね」と振り返る。だが、26分に真瀬の右クロスからMF佐藤圭祐(1年)が放ったヘディングシュートはわずかに枠左へ外れ、34分に西羽の仕掛けから縦へ抜け出した高の決定的な右足シュートや、その1分後に相手を崩して放った高の右足シュートもFC東京トップチームへ昇格するGK波多野豪(3年)の壁を破ることはできなかった。FC東京も数滴優位を活かしてボールを保持し、ゴール前にパワーをかけて攻めるが、佐藤監督が「さすが市立船橋」と讃えた「堅守・市船」のゴールをこじ開けることはできず。市立船橋も41分、郡司がサポートのない状態から右クロスを上げきり、これをニアサイドで原が合わせたが枠を捉えず、1-1で引き分けた。

 内容では上回る時間が長かったものの、ホームで勝ち切ることができなかったFC東京の坂口は「決めきれなかったこととディフェンス面ではこっちもピンチは少なくなかったので、もうちょっと改善したい」。一方、10人になりながらクラセン王者を追い詰めた市立船橋だが、朝岡隆蔵監督は、退場者を出すまでの時間帯でより長くイニシアチブを取ってサッカーできなかったことを指摘する。「自分たちが攻守においてイニシアチブを取るというところは課題を感じるし、10人になって割り切って上手くいくのは当然。詰めが甘い。きょうの試合も仕留めて勝ち切る、そういう強さを求めていかないといけない。最高の評価はできないですね」。10人になっても勝ちに行っていただけに結果にも満足していなかった。

 ともに夏の全国王者。好勝負を演じた両チームは全国制覇を「過去のこと」としていた。FC東京の佐藤監督は「結構、選手が喜んでいる時間もあったんですけど、(彼らは)スッと我に帰る。切り替えるの早いな、と。今年のチームは特にしっかりと自分たちでコントロールできる、頭を使える選手が多い」という。プレミアリーグ、J3と厳しいスケジュールの中で満足感に浸っている時間がなかったことも確か。クラブユース選手権でMVPに輝いた半谷にしても「3冠を目指してやっているんで取れたのは嬉しいですけれども、プレミアの厳しさは感じているので。嬉しかったですけど、今年は優勝争いもしているので切り替えてやっていますね。(個人としても)チーム内の競争というか、ベンチも誰が出ても活躍するメンバーがいっぱいいてスタメンで出ているけれども安心できない」。厳しいチーム内競争も後押しして、個々が夏の目標達成から早く切り替えることができたからこそ、再開後のプレミアリーグでも無敗を続けることができている。

 一方、市立船橋の原はむしろ危機感について「みんな(危機感)それは言っている」という。「優勝したのは結果であって、そこは凄く自分の中で大きいですし、自分の代で一個全国で一位取れたのはうれしいですけれども、(特に決勝は)内容見れば負けてもおかしくない試合でしたし、自分たちのやりたいことを全く出来ない試合だったので自分に限らず、結果は嬉しいですけれども満足感はないです」と語り、杉岡は「もう一回整理してやらないとダメだなと思っている」と引き締めた。全国総体で優勝しても「(選手権で)優勝できなかったら普通の代」(杉岡)というほどの意識の高さ。プレミアリーグでの成績こそ十分には伴っていないものの、指揮官は勘違いすることなく、トレーニングし続けているチームの競争が激化し、クオリティが向上していることを認める。狙われる立場の両チームが周囲以上に目指している進化。秋、冬のシーズンも彼らがユースサッカーシーンの中心となりそうだ。

(取材・文 吉田太郎)
▼関連リンク
2016プレミアリーグEAST

TOP