beacon

[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:“ヒラさん”と“ニューさん”。37歳と36歳の同級生(浦和・平川忠亮、FC東京・羽生直剛)

このエントリーをはてなブックマークに追加

平川忠亮(浦和、左)と羽生直剛(FC東京)

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「“ハニュー”にアシストされたのはちょっと嫌でしたけどね」と浦和の14番が笑顔を見せれば、「良いクロスでアシストをアイツにもされちゃったのでね」とFC東京の22番も苦笑を浮かべる。平川忠亮羽生直剛。YBCルヴァンカップ準決勝第1戦。ファイナル進出を懸けるこの重要なゲームで、今シーズンはお互いになかなか出場機会の巡ってこなかった37歳と36歳の同級生は、揃ってアシストという結果で自らの存在価値を証明してみせる。

 スターティングメンバーに名を連ねたのは羽生。公式戦での先発出場は、やはり浦和と対戦した6月22日のファーストステージ第13節以来で、約3か月半ぶり。「今はタイトルと言ったらカップ戦しかないので、このチームをどうにかしてファイナルまで持っていきたいという気持ちもありますし、この年になると余計に1試合1試合が“査定”というか、そういうものだと思うので、『自分に今何ができるのか』というのは示さなきゃいけない」という覚悟を持って味スタのピッチへ立った22番は、室屋成との連係を考えながら右サイドハーフで効果的なプレーを披露し続ける。前半35分には絶妙のランニングで中島翔哉のパスを引き出し、GKと1対1に。結果としてシュートではなく前田遼一へのパスを選択し、ゴールには至らず、「全部自分の責任なので、あの結末になったのは残念ではありますけど、自分にとっては受け入れなくてはいけないことだと思っています」と悔しそうにそのシーンを振り返った羽生には、それでももう一度見せ場が訪れる。スコアレスで迎えた後半4分。右サイドを運んだ室屋のクロスはニアに入った。「ムロが例えばキックミスとかした時に、何かがああいう所に入ってくると思った」という羽生はニアで絶妙のフリック。中央に飛び込んだ東慶悟がフリーで合わせたヘディングはゴールネットを揺らす。「あれは別に何も。ただ遠くにすらそうという気持ちだけだったので、イメージ通りと言えばイメージ通りですけど、ただ触るだけだったので」と本人は素っ気ないが、貴重な先制弾をアシストした羽生は後半23分で交替。スタジアム中からの大きな拍手に送られ、残された20分強の時間をチームメイトへ託すことになる。

 それからわずかに2分後の後半25分。「ベンチには(興梠)慎三もいましたし、負けていたので先にそういう攻撃的なカードを切るかなと思っていて、『まさか』という部分もありましたけど、関根(貴大)も痛んでいたのでイメージはしていました」という平川がピッチへ解き放たれる。ここ最近は左足首の負傷もあり、なかなか出場機会の得られなかったチーム最年長にとっては、3月2日にアウェーで戦ったACLグループステージ第2節の浦項スティーラーズ戦以来となる、約7か月ぶりの公式戦だったが、ファーストプレーはまさかのライン際での“空振り”。「ワンプレー目でスカッとしてラインを出そうで、あそこで出ていたらもっと硬くなったかなと思うけど、きっちりその後は落ち着けたので良かったと思います」と笑った14番は、お互い試合に絡めなかった時期にも、腐らずトレーニングを一緒に続けてきた高木俊幸の同点ゴールを見届けた後、後半35分にその真価を見せ付ける。青木拓矢のパスを右サイドで受けると、「スペースは縦も内側もあるけど、割と縦の方をディフェンスが意識しているかな」と察知して内側へカットイン。優しいグラウンダーで転がしたクロスに、武藤雄樹が右足で叩いたボールはゴールネットへ到達する。「嬉しかったですね。武藤に感謝しないといけないですし、自分もケガを乗り越えた上でのプレーだったので、喜びも大きかったかなと思います」と語る平川の決勝アシスト。アウェイで逆転勝利を収めた浦和が、大きなアドバンテージを握って4日後の第2戦へ向かうこととなった。

 いわゆる『ゴールデンエイジ』の平川と羽生は、それぞれ清水商高(現・清水桜が丘高)と八千代高という名門校から筑波大へと進学し、大学4年時にはユニバーシアード北京大会で世界一も経験。2002年からスタートしたプロサッカー選手としてのキャリアも、今シーズンで15シーズン目を迎える同級生だ。大学時代から特に仲が良かったそうだが、「最近は自分がメンバーに入っていないので、会場で会うということはないですけど、普通に東京でメシを食っていたらフラッと会ったこともありますし、お互い近くにいるので、いつでも会えるということもあって、逆にそんなに会わないのかなと思うんですけどね」と平川。意外と同級生なんてそんなものかもしれない。出場機会という意味で、プロ生活の15シーズンを通じても、あるいは最も苦しい時期を過ごしている2人ではあるものの、「自分が出ている時で羽生が出ていなくて苦しんでいた時も、彼の姿勢や考え方が刺激になったし、今も僕がなかなか試合に出られない時期に、羽生がベンチに入って試合に出てというのを見て、非常に刺激されていました」と平川が話し、羽生も「アイツの良さは知っていますし、今でもああやって頑張っていてくれるのは、僕にとっても大きな刺激になりますけどね」と言葉を引き取る。顔を合わせる機会は多くなくとも、お互いの存在が刺激になっていることは確かなようだ。

ただ、例えば出場機会こそ少ないものの、トレーニングへ真摯に向き合い続けるベテランを『プロフェショナルの鑑』と称する向きもある中で、当のベテランたちがその呼称に満足しているはずもない。「僕はレッズに育ててもらって、今までは試合にも出させてもらってきましたけど、『“ただいるだけ”じゃしょうがない』と思っているので、『良くやっているね』と言われながらも、今年は全然試合に出ていなかったですし、そこの歯がゆさもありました。やっぱり試合に出たかったですし、出ているからこそ『37歳までやっていて凄いね』と言われる意味があると思うんです。『“ただいるだけ”で試合に出ていなければ、凄くも何ともない』と思っていた中で、悔しくて色々なことをやってきました」という平川の言葉に、きっと羽生も同調するに違いない。

 8月下旬。やはり羽生と平川と同級生であり、大阪商業大学を経てJリーガーの道を歩み出した札幌の増川隆洋も京都戦の試合後、昇格争いに身を置く日々についてこう話していた。「また刺激のある日々を過ごしていますし、やっぱり毎試合毎試合負けられないという想いでやっています。これがないと自分としても物足りない日々になると思うので、そういう意味では凄くやりがいのある日々を過ごしているのかなと思います」。彼らは『ゴールデンエイジ』の中でも、決してエリート街道を歩んできた訳ではない。ただ、それでもここまでプロサッカー選手という職業を続けてきているのは、やはりサッカーがすべてで、そして誰よりもサッカーが好きだからだろう。昨年のあるインタビューで、羽生がこう話していたのが印象深い。「練習中とか試合中も『キチー』みたいな、『早く終わって欲しい』と思う時もありますけど、『これでゴハンを食べられるんだから』と思うと幸せでしょうがないですよね。だから、これが終わらないで欲しいというのはあります」。残された時間がそう長くないことは百も承知。だからこそ、目の前の1日1日に全力で立ち向かうそんな彼らの姿勢が、チームメイトに大きな影響を与えていく。

 最後の1人になったミックスゾーンで、羽生は平川についてこう言葉を紡いだ。「やっぱり表面的な面というよりは、何をやってここのピッチに立っているのかというのに凄く共感を持てるし、アイツも日々努力して、仲間に認められて、今日ああやってピッチに立っているし、もちろん監督や現場のスタッフにも認められてあそこに立っているということが素晴らしいことだと思います。自分もやっぱり真似したいというか、そうやってみんなに尊敬されるような選手になりたいなと思っています」。37歳と36歳の同級生が同じ試合で共にアシストを記録したのは、結果から見れば偶然かもしれないが、積み重ねてきた過程を見れば、決して偶然とは言い切れない。選手たちから敬意を払われていることは言うまでもなく、試合後に決勝アシストの37歳へ送られた、そして交替時に先制アシストの36歳へ送られた大きなコールを聞けば、彼らがサポーターからも尊敬を一身に集めていることは一目瞭然だ。日曜日。ファイナルへと続くその一戦で、4日前は“2分間”の差ですれ違った同級生がピッチ上で再会を果たすとしても、今なら何の不思議もない。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
●ルヴァン杯2016特設ページ


TOP