beacon

チームを落ち着かせたV経験者の言葉…両足つってもPK直訴の興梠「ちょっと上から目線で」

このエントリーをはてなブックマークに追加

優勝カップを高々と掲げる浦和FW興梠慎三

[10.15 ルヴァン杯決勝 G大阪1-1(PK4-5)浦和 埼玉]

 その一言がチームを落ち着かせた。1点ビハインドで折り返したハーフタイム、浦和レッズのロッカールームにFW興梠慎三の声が響いた。「後半は絶対にこっちにたくさんチャンスが来る。そこを決めるかどうかだ」。左足首を痛め、前半36分で途中交代していたMF宇賀神友弥は言う。「優勝経験のある人のチームをまとめる一言が大きかった」。

 昨季のJ1第1ステージ優勝を除けば、07年のACL制覇を最後にタイトルを遠ざかっている浦和。12年から浦和を率いるペトロヴィッチ監督はもちろん、MF柏木陽介やDF槙野智章ら主力の多くもタイトルを勝ち取った経験がなかった。その中で鹿島時代にリーグ3連覇を成し遂げ、カップ戦も天皇杯も2度ずつ優勝している興梠の経験値は貴重だった。

「(興梠は)あんまりそういうことは言わないかなと思う。ポジションの近い選手には言うけど、チームを鼓舞する形で(興梠)慎三くんからああいう言葉が出るのはなかなかない」。その言葉の重みを宇賀神は感じ取っていた。

 興梠自身は「攻撃陣が1点取るから、守備陣は絶対に耐えてくれと言っただけ」と煙に巻くが、勝利、そしてタイトルへの思いはPK戦にも表れていた。延長戦に入るころには「両足をつって全然動けなかった」というが、PK戦では自らキッカーを直訴した。

 脳裏をよぎったのは5月25日に行われたACL決勝トーナメント1回戦第2戦のFCソウル戦だった。延長戦で点を取り合う死闘の末、突入したPK戦。GK西川周作、MF駒井善成のPK失敗もあり、PK6-7で敗退が決まったが、120分間フル出場した興梠は8人目までもつれたPK戦で最後までキッカーを務めることはなかった。

「FCソウル戦と同じような展開になって、あのとき(PKを)蹴らなかったことをずっと後悔していた。今日は自分から『行く』と言って蹴らせてもらった」。後攻3人目を務めた興梠は冷静にGKの逆を突いた。その直後のG大阪FW呉屋大翔のキックを西川が防ぎ、優勝を大きく手繰り寄せた。

「レッズに来て4年目で初めてのタイトル。今まで取れそうなところで取れなかったし、うれしかった」。興梠にとっては鹿島時代の12年大会以来、自身3度目となるカップ戦制覇。そこはやはり経験者の違いだった。

「優勝が決まって、周りの選手を見ると、初めてタイトルを取った人が結構泣いていた。俺も最初はそうだったなと、ちょっと上から目線で見ていた」。そう冗談交じりに笑った30歳のストライカーは「このチームで喜びを味わえて良かった。これで殻を破れたと思う」と、これまでの優勝とは一味違う喜びをかみ締めていた。

(取材・文 西山紘平)

●ルヴァン杯2016特設ページ

TOP