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「東京五輪への推薦状」第27回:左のファンタジスタ、飯島翼。抜群の“面白さ”と稀有な“本気”

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矢板中央高の1年生FW飯島翼

 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

「左切れ、左!」
「そいつ、左しかねーぞ! 左だって!!」

 その選手がボールを持つと、GKからもベンチからもうるさいくらいのコーチングが飛ぶ。矢板中央高の1年生FW飯島翼の武器はそれほど明確だ。要するに、左足である。その左足のボールタッチと高精度のキックから何かを起こしてくる。特に右サイドから中央へと切り込むカットインは、分かりやすいほどに分かりやすく、しかし微妙に止めがたい武器である。リズムがあって、変化がある。「カットインがバレているなら、シザースで縦突破でもいいので」と語るように、ボールを持ちながら相手の様子を洞察する余力もある。

 左利きで右サイドからのカットインが得意と言って思い浮かぶのはリオネル・メッシだろうが、本人のあこがれはネイマール。プレーを観れば、確かになるほどと思ってもらえることだろう。遊び心、サッカーを楽しむ余裕にあふれた感じは確かに“ブラジル的”なもので、かつてのブラジル代表FWロナウジーニョのプレーをも少し連想させるものがある。ボールと語り合える選手なのだ。

 あえて右足を使わない辺りも、ブラジル的なスタイルだろう。リバウドやレオナルド、ジーニョといった歴史に名を刻んだ王国のレフティーたちは、いずれも左足一本で魔法を生み出していた。金子文三コーチは「左足の感覚を大切にしてほしいと思っている」と言い、「左を切られているなら、右で行け」とは、あえて言わない。要するに、「警戒されても止められないくらいの“左”を身に付けろ」ということである。

 まだまだ欠点も多いデコボコした部分のある選手なのは確かだが、変に小さくまとまっている選手よりも魅力がある。中学時代はその奔放に見えるスタイルに否定的な見方をする指導者もいたそうだが、金子コーチは「本気でプロを目指しているし、本気で代表に入ってやろうと思っている選手」と、サッカーへの純粋な情熱の強さを買っている。本人が矢板中央を選んだ理由に挙げていたのが「自主練を好きなだけやらせてくれるから」というのも面白い。本当にサッカーが好きなのだ。

 今年6月の関東高校サッカー大会で、高橋健二監督が「面白いプレーするでしょう?」と言って笑っていたのも実に印象的だった。「将来はドイツかブラジルへ行ってプレーしたい」と真剣に夢を語る栃木のファンタジスタが、その名前のごとく世界舞台に羽ばたく日は来るのか否か。当然、その未来は不確定だが、サッカーに関する真摯な大志は紛れもなくホンモノのようである。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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