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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第39回:落日の流経、日はまた昇るか

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“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 一つの笛が、大きな喪失感を生んだ。高円宮杯U-18プレミアリーグEASTの第16節、流通経済大柏高は0-1で新潟U-18に敗れ、初の降格が決まった。2011年に新設された同リーグにおいて唯一、高校勢でチャンピオンの座に上り詰めたチームに厳しい現実が突き付けられた。流経大柏のMF本田憲弥は「流経の歴史を崩してしまった。情けない」と唇を噛み締めた。

 残り3節で降格圏の最下位。大逆転の残留を果たすには、3連勝以外に道はない。チームが目指すものは明確だった。しかし、残留争いのライバルである新潟U-18に対して優位に試合を進めた前半でさえ、脅威を欠いた。勢いが出ない。2つの邪念が、エネルギーの結束を難しいものにした。1つは、通年で「惜しい」試合ばかりが続き、勝ち切るパターンを持てなかった不安。もう1つは、1週間前に行われた高校選手権の千葉県予選決勝でライバルに敗れた喪失感だ。主将の関大和は「市立船橋に絶対に負けないと思っていた。そういう雰囲気になっていた。それでも勝てず、今までやって来たことは何だったのか……と。自信を一気に折られたのが大きかった」と話した。

 残留に向けて頑張ろうという気持ちは誰もが持っていた。しかし、狂った歯車をどれだけ回しても、希望は見えて来なかった。後半も攻撃に迫力がなかった。気持ちがプレーに、1人のプレーが次のプレーに、つながらない。33分に失点し、ロスタイム4分を消費するまでの16分間、サイドからのクロス攻撃は跳ね返されてカウンターで自陣に引き戻された。関は「失点して、もうやるしかないという状況で、負けられないという気持ちが(本田)憲弥くらいしか出ていなかった。あの場面でチームにスイッチが入らなかったことに自分の力不足を感じた」と肩を落とし、本田は「最後の方は攻め手がないというか、バラバラにやっている感じがあった。正直、(点が)入ると思わなかった……」と絶望と対峙していた心境を明かした。

 気迫の波で相手を飲み込むように戦う姿勢――他チームが最も嫌がる流経の特徴を出せずに敗れたことは、悔やまれる。しかし、ボスの目は死んでいなかった。本田監督は「みんな、なかなか返って来られない。ここで巻き返させず、10年も起き上がれなくなってはいけない」とすぐさま次なる戦いに目を向けていた。過去、プレミアEASTから降格して戻って来たのはFC東京U-18のみ。巻き返しは、険しい道のりになる。落日の流経、日はまた昇るのか。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」


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