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チップキックはGK正面、関学大MF徳永は痛恨のPK失敗も…仲間たちはかばう「蹴る勇気を持った人が蹴った」

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関西学院大で攻守の核として奮闘したMF徳永裕大

[12.12 全日本大学選手権準々決勝 関西学院大1-1(PK3-4)日本体育大 町田]

 皆が声を揃えてかばった。誰もが背番号10の勇気を称えた。今季の関西学院大で攻守の核となっていたMF徳永裕大(4年=G大阪ユース)は、1-1で迎えたPK戦で最終キッカーを務めると痛恨の失敗。迷いあるまま蹴ったチップキックはGKに正面でキャッチされ、その瞬間に関西学院大の敗退が決まった。

 迎えたPK戦。後攻の関学大はPK3-4で5人目を迎えた。外せば敗退の最終キッカーを務めたのは、自ら立候補した徳永。ペナルティースポットへ立つ前から、どんなボールを蹴るか考えていたという。

 インカレへ向け、PK練習を数多くこなしてきたため、選択肢はいくつかあった。そんななかでも、一番に「イメージがあった」のはチップキック。今春に行われたデンソーカップチャレンジで関西選抜の一員として、1回戦の関東選抜B戦(1-1・PK9-8)のPK戦でチップキックを決めていた。ポジティブな思い出が蘇った。

 ペナルティースポットへ立ったが、どう蹴るか決められずにいた。日体大のGK福井光輝(3年=湘南工大附高)を前にして「迷ってしまった」。蹴る瞬間にGKがわずかに動いたように見え、躊躇しながらのチップキックは福井の胸元に収まった。

「迷いがあった時点でもう自分の駆け引きで負けたなと……最後に中途半端なキックになってしまって、悔しかったです」

 キャッチされた瞬間に頭は真っ白になった。涙も出ず、ただただ膝から崩れ落ちた。駆け寄ったFW出岡大輝(4年=G大阪ユース)に支えられたが、誰が近くに来たのか覚えていないほど。それでも整列し、スタンドの仲間へ挨拶。ロッカールームで皆が涙するのを見ると、堰を切ったように涙が溢れてきた。

「自分のPKの最後のキックで負けてしまって。ロッカールームで泣いている姿を見て、このチームを終わらせてしまったんだ、自分が涙を流させてしまったんだと。成山一郎監督のためにもという思いもありましたし……。ロッカールームでみんなの最後の言葉を聞いて、すごく胸が苦しくなるような言葉ばかりで、我慢できなくて泣いてしまいました」

 仲間たちは口々に「ここまで来れたのも彼がいたから」と徳永をかばった。中学時代からともにプレーしてきた出岡は言う。「PKを誰が外すとかよりも、それまでに決められなかった僕らのせい。蹴る勇気を持った人が蹴ったので、そこはみんな納得している」。誰一人として徳永を責める人はいない。

 今季の関西学院大において“攻守の核”といえる働きをしてきた。徳永がアンカーに入る4-1-4-1システムは、磐石の布陣。余裕を持って中央へ構え、状況を見ては後ろをカバー。チャンスと見れば正確なパスで起点となった。ダブルボランチを置くシステムでも、その存在感は変わらず。10番を背負うMFはピッチでタクトを振るってきた。出岡が「裕大がアンカーになってからチームはぐっと良くなった」と言うとおりだ。

 実は徳永にとって、アンカーのポジションは本望ではなかった。前でのプレーを希望し、指揮官に直訴もした。我慢しきれずに攻め上がってはCBや指揮官に止められるシーンも多かった。

 それでも「試行錯誤してやっていくなかで、自分よりもチームが勝つために、自分はどこのポジションをやったらいいか考えました。そのときに自分がアンカーのところでやることがチームが一番うまくいく形だと思ったんです。考えが変わってからは、すごくいい風にチームが回っていて、アンカーで手応えはすごくありました」。チームのために身を捧げると結果につながった。

 日体大に敗れ、ひとしきり涙したMFだったが、すぐにさっぱりとした表情をみせた。「最後のPKを外してしまいましたけど、自分は今までチームのためにプレーしてきたという自負がありました。そういう思いや自信、覚悟を持ってPKに臨んでいたので、こういう結果になっても、なんとか切り替えられたのかもしれないです」。PK失敗の悲しさをこれまでの自分自身を誇りに思う気持ちが上回った。涙は乾き、前を向こうと思えた。

 今後の進路は未定。「まだどこも何も決まっていないので。自分はサッカーしかしてきていないので。どこかから声がかかれば……」。チームに尽くしてきた10番は吉報を待っている。

 徳永は関西学院大のために戦った。笑って終わることはできなかったが、泣いて笑ってを繰り返してきた4年間は、特別な光を持って胸に刻まれている。これから先、どんなに苦しいときがやってきても、きっとこの4年間が自分自身を支えてくれるはずだ。

(取材・文 片岡涼)
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