beacon

前半終了間際のゴールも、吐き気で途中交代…青森山田MF嵯峨「勝ってくれと祈ってました」

このエントリーをはてなブックマークに追加

2-0とするゴールを決めた青森山田MF嵯峨

[1.9 全国高校選手権決勝 青森山田高5-0前橋育英高 埼玉]

 前半に鮮やかなゴールを奪うも、後半16分に担架に載せられて途中交代。涙をみせていた青森山田高(青森)のMF嵯峨理久(3年)だったが、試合後は仲間と日本一を喜び、笑顔を弾けさせた。

 1-0の前半終了間際アディショナルタイム1分に嵯峨がゴールネットを揺らす。中央で奪ったMF高橋壱晟(3年)が前へつなぎ、受けた嵯峨がMF郷家友太(2年)とのワンツーでPA右へ抜け、右足シュートを流し込んだ。殊勲のMFは「友太からもう一度ボールを受ける意識があったなか、友太がシュートを打てるようにボールをくれた。GKを見て流し込むだけでした。友太に感謝です。前半終了間際でチームにとっては、貴重な2点目だったんじゃないかな」と誇る。

「自分みたいな選手は大舞台で点を取って、壱晟(高橋)や彰人(鳴海)のように目立つわけではないのですが、決勝の大舞台で自分が点を決めてチームの流れをつかめたのは、最後の試合でしたけど嬉しかったです」

 しかし、3-0とした後半12分過ぎから嵯峨を吐き気が襲った。夏の総体でも同じ症状で苦しんでおり、精神的な緊張感からくるものと医師に診断されていた。今大会では準決勝で少しの吐き気や立ちくらみがあったものの、ごまかしてきたが決勝の大舞台でまさかの“再発”。「あぁ、来ちゃったか……」と打ちひしがれた。

 そして4-0とした直後の後半16分、ついに立っていられなくなり、自らピッチへ横たわると途中交代。「最後の試合なのに監督やコーチに申し訳ない」と涙が溢れてきた。担架に寄り添ったスタッフからタオルを渡されると、強く握り締め涙をぬぐった。ピッチを離れ、スタジアム裏に運ばれてからは聞こえてくる声援や歓声に「ピンチだったのかな? 何があったのかな?」と思いを馳せつつ、耳を澄ませた。「頼むから勝ってくれ」。その一心でいっぱいだった。

 約10分後にベンチへ戻ると、ようやく目の前で仲間の戦いぶりを見守った。交代した申し訳なさが胸にあったが、精一杯応援した。青森山田は後半終了間際の44分にも1点を追加し、5-0で勝利。日本一を成し遂げた。吐き気による途中交代というアクシンデントがあったものの、嵯峨は「青森山田高校での嬉しいことや苦しかったこと、色々な想いが出てきて最高の瞬間でした」と笑顔をみせる。

 春からは仙台大へ進学予定。チームメイトのFW鳴海彰人(3年)とこの日の敵・前橋育英高のFW人見大地(3年)と“仲間”になる。「人見選手は身体も強くて、前橋育英にとって大切な選手というのは自分が見ていてもわかりました。大学サッカーにいっても、いいライバルになるんじゃないかなと思います」。大舞台で輝きをみせたMFは、春からの新たなステージに視線を向けた。

(写真協力 『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 片岡涼)

▼関連リンク
【特設】高校選手権2016

TOP