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デメリットなんてない?W杯出場国48か国への拡大が世界に与える影響を説く

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FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長

 世界中のサッカー界に波紋を広げているW杯の出場枠の拡大について。政治的な思惑やW杯自体のクオリティが下がるのではないかとの不満が多くのメディアを通して聞こえてくる。しかし出場枠の拡大は果たしてデメリットだけなのか。一度冷静になってこの問題について考えてみようではないか。

■出場枠の拡大はインファンティーノの思惑?

 FIFAは2026年の大会からW杯の参加国数を48か国に増やすことを正式に決定した。しかしこれには多くの思惑があると言われている。まずFIFA会長であるジャンニ・インファンティーノの個人的な意向があるのではないかという点だ。出場国枠が16増えるという事実はサッカー新興国からの支持を集められることにも繋がる。これは2019年のFIFA会長選にてインファンティーノが再選されるための重要な材料となり得るのだ。また各国のサッカー協会を経済的にも競技力においても豊かにすることは、結果的にインファンティーノがより権力を発揮しやすい環境を招く。彼自身の個人的な希望だと批判を受けても仕方がない。

 ただ出場国枠を48に増やすこと、すなわちインファンティーノが権力を強めることは決して悪いことばかりではない。それはビッグネームからもすでに支持を得ていることからも明らかだ。例えばW杯の優勝経験もあるディエゴ・マラドーナは「予選を戦う前から本大会に出場のチャンスが無いと思っているような国々に対してチャンスを与えられるのは非常に良いアイデアだ」と語り、マンチェスター・ユナイテッドジョゼ・モウリーニョ監督は「多くの国に夢を与えることによりサッカーに対する情熱を改めて奮い起こすことができる」と明言している。

■出場国枠増がもたらすメリット

 そもそもW杯の方式はずっと同じな訳ではなく時代に合わせ絶えず進化を続けている。現在の32チームでの大会方式が採用される前は、24チームで大会が行われていた。ただしいずれにせよどんな方式になろうとも平等性とバランスは保たれなければならない。現行のW杯の方式を見てみると32の出場枠の内訳は、ヨーロッパ13、アフリカ5、そしてアジアが4.5というヨーロッパにとっては有利な状況ではある。アフリカとアジアからの出場枠を増やすというFIFAの決定はこの不平等さを是正していることにもなる。

 出場国が増えることによって大会のクオリティの低下も叫ばれてはいるが、必ずしもそうとは限らない。現在のFIFAランキングを見てみても32位以下にはスウェーデン、ギリシャ、チェコ、セルビア、日本、デンマーク、オーストラリア、コンゴ民主共和国といった決して弱小とは言えない国が存在しているのだ。16チーム増えたところでそれはあまり問題にはならないのではないか。

 出場枠が増えることは今までギリギリのところで予選を通過できなかった国にとっては間違いなく喜ぶべき決定だ。それにW杯の出場経験は、選手、指導者、協会、そしてファンにとっても世界のトップレベルの舞台で戦うために何が必要かを肌で感じられるいい機会にもなるだろう。

 また経済的な効果があることも忘れてはならない。例えば2018年のロシア大会に出場する国におけるW杯の経済効果は少なくとも1200万ドル(約13億円)にも及ぶと言われている。これは新興国にとっては非常に大きな金額だ。そのお金で次世代のためのインフラ整備やトレーニング環境の向上の基礎を作ることも容易だろう。もしかしたらその国におけるサッカーの立ち位置を一変させてしまうかもしれない。現状では経済力がある国がW杯においても良い成績を収めているという事実がある。しかし2026年からはより多くの国がW杯によって生み出されたお金を手にすることができ、サッカー界全体がレベルアップを図れるかもしれないのだ。

 もし課題をあげるとするならば大会の運営能力が新制度に対応できるかどうかといったところであろう。その点においては2026年大会の開催を目指しているアメリカはそれにふさわしい国の一つかもしれない。9年で48か国のためのトレーニング拠点を整備することができるのはやはり経済にも土地の広さにも恵まれているこの国しかない。今は新制度に適した国での開催を期待しておこう。

■大会クオリティは下がらない

 また出場枠拡大への懸念材料として出場する選手たちにかかる負担も挙げられているようだが、これについては心配されるべきではない。出場国はこれまでと同じ最大7試合、1次ラウンドで敗退したチームは2試合しか戦わない。試合数に変化はないのだ。これについてはモウリーニョも「3チームで1次ラウンドを競い合う方がいいだろう。1次リーグでの2試合がより重要なものになり、ポテンシャルの高いチームのみが残る図式が得られる」とはっきりと語っている。ヨーロッパにおいては予選の方式にはいくつか変更が生じるが、出場枠が3チーム増えることが負担の増加や大会のクオリティを低下させることには繋がるとは言い難い。予選の方式についてはヨーロッパだけではなく他のグループにおいてももう少しブラッシュアップする必要があるが、北中米連盟と南米連盟が連携し、北中米予選と南米予選をひとつにするというアイデアもあるそうだ。

 出場チームのクオリティに焦点を当てた大会への影響に関してはこれからも議論が続くであろう。しかしW杯はヨーロッパやブラジル、そしてアルゼンチンといった強豪国のみに支配される大会ではない。多くの国に出場の機会を与えることで大会のクオリティ、さらにはサッカー界全体のレベルを上げていくものなのだ。

 W杯だけではなく、サッカーから生まれるドラマは多い。その感動を全ての大陸のサッカーファンが味わうことができたのなら、それはなんと素晴らしいことであろう。
大会の制度が変わろうとも強いチームが優勝することに変わりはない。ならばその感動を多くの国々と分かち合うことにもう少し目を向けてみてはいかがだろうか。

●ロシアW杯各大陸予選一覧
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