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なぜ久保裕也はゲント移籍を選択したのか?本人が語る成功へのカギ

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日本代表でのレギュラー定着を見据え、まずはゲントで結果を残す

 2018年ロシアW杯アジア最終予選前半戦の天王山だった昨年11月のサウジアラビア戦(埼玉)。本田圭佑(ミラン)が長年担ってきた4-2-3-1の右FWのポジションで満を持して先発出場を果たしたのが、リオデジャネイロ五輪世代屈指の点取り屋・久保裕也(ゲント)だった。

 19歳でスイスに渡った彼は、欧州で磨きをかけた当たりの強さを示すと同時に、酒井宏樹(マルセイユ)のマイナスクロス右足で合わせる決定機も作った。シュートは相手にブロックされ、惜しくもゴールには至らなかったが、代表の主力として十分やっていけるポテンシャルの高さを、あらためて強くアピールしてみせた。

 その久保が3シーズン半プレーしたヤングボーイズを離れ、今年1月に赴いた新天地がベルギー1部のゲントだった。同国きっての戦術家として知られるハイン・ファンハーズブルック監督率いる同クラブは、2014-15シーズンにベルギー1部初制覇を達成。昨季もクラブ・ブルージュ、アンデルレヒトに続く3位をキープし、今季はUEFAヨーロッパリーグ(EL)本戦に参戦。ラウンド32まで勝ち上がっている。

 ヤングボーイズで今季ELに出場している久保はその舞台に立てないが、ベルギー1部で苦戦するチームのテコ入れ要員として大きな期待を寄せられている。本人も「新しい刺激を求めて環境を変えた。プレーオフ(6位以内)に入ることを目指して戦う」と強い意欲を胸に秘め、新たなキャリアをスタートさせたのだ。

 その第一歩となった1月29日のブルージュ戦で、合流4日目の久保はいきなり先発出場。華麗かつ豪快なFKをたたき込んで見る者を驚かせた。首位に立つ相手を2-0で撃破したことで、彼への評価は一気に高まった。続く2月5日のズルテ・ワレゲム戦も先発しPKで1点をゲット。チームは1-1で引き分けたが、久保自身は移籍後2戦連続得点という最高にスタートを切った。

 こうした中、迎えた2月11日のKASオイペン戦。2012年からカタール王族がオーナーを務め、2012-13シーズンには指宿洋史(アルビレックス新潟)も所属した1部初昇格クラブ相手に、ゲントは取りこぼしが許されなかった。指揮官はこの日「4-2-3-1」をベースにしつつ、ボランチのトーマス・マットンが状況に応じて上がって「4-3-3」になる流動的な布陣で挑んだ。

 久保はトップ下を基本としつつ、マットンが前に来た状況下では左インサイドハーフのような役割を担ったが、相手が「5-4-1」の守備的布陣で挑んできたこともあり、思うようにボールに触れない。

「相手が結構ベタ引きだったんで、崩す時のみんなのイメージが共有できなかったのと、僕個人が1人で突破できなかった。その2点が点を取れなかった原因かなと思います」と背番号31を着ける日本人助っ人は不完全燃焼感をあらわにしていた。実際、彼がボールを持つ時は敵を背にするシーンが多く、組み立てやパス出しをするのが精いっぱいになりがちだった。久保本来のゴール前への推進力や得点感覚の鋭さが見られることなく前半が終了。

「何だか『パッサー』になってる感じがした。僕がやりたいのは、そういうことではない。もっと自分で突破できるような力を付けていかないと。このリーグはすごいそれが大事かなと感じましたね」と本人も悔しさをにじませるしかなかった。

 チームも相手を攻略する糸口が見つからないままスコアレスで後半へ。久保も前半の反省を踏まえて積極性を高め、持ち前の攻撃センスが随所に示し始める。後半5分にはFKのこぼれ球を拾って遠目から自身初シュートを放ち、12分には右FWサムエル・カルーとの連係からチャンスを演出。24分には再びカルーの右サイド突破からニアサイドに飛び込む決定機も巡ってきた。

 さらに31分には久保自身が長い距離をドリブルで持ち込んでシュートに行こうとする貪欲さが前面に押し出された。この場面は相手に引っかけられフィニッシュには至らなかったが、前半よりは明らかに見せ場が多かった。

 だが、ファンハーズブルック監督は「ケガ明けの久保に無理をさせたくない」と考えている様子で、後半36分にFWジェレミー・ぺルベトとの交代を余儀なくされてしまった。

「点を取りたいとチームは思ってたでしょうし、前の選手を代えるのは当然かなと。それに自分もケガ(昨年11月の膝の負傷)から戻ってまだ1回も90分やっていない。徐々にコンディションは上がっていますけど、しっかりできるようにトレーニングからやらないといけないと思います」と久保は指揮官の判断に納得していた。

 とはいえ、この采配が裏目に出たのか、ゲントは7分もの長いアディショナルタイムの末、GKロフレ・カリニッチが信じがたいミスを犯して相手に1点を献上。ホームで格下に0-1で苦杯を喫する結果になった。順位も暫定8位に落ち、プレーオフ圏内が一気に遠くなった。助っ人である久保も3試合連続ゴールがかなわず、理想とはかけ離れたプレーに終わってしまったのだから、悔しくないはずがない。個人としての打開力と得点力をより高めていかなれば厳しいと本人は、あらためて痛感したようだ。

「ボールを受けた時、パスしか出せない状況でしかプレーできていなかったので、自分でシュートを持っていく力だったりが大事かなと、今日強く感じました。ヤングボーイズの時は割とシンプルにゴール前で勝負って感じが多かったけど、ここ(ベルギー)は対人が多いかなと。もちろんパスでも崩せますけど、それじゃあ僕自身の決定的な仕事はなかなかできない。自分でボールを運んで突破していくことを、もっとやらないといけないと思います。相手1人くらい余裕で抜けるようになりたいですね」と久保は自分がやるべきことを明確に見据えていた。

 新天地でのスタートは、はたから見るほど楽観的ではなさそうだが、今の久保にはスイスで3年半培った経験値がある。19歳で初めてスイスに赴いた時は言葉も全く分からず、家にドイツ語の単語や文章を貼って覚えるまで努力をしたが、今はドイツ語を話せるチームメイトもいる。指揮官も英語で指示を送ってくれるため、そこまで意思疎通に困ることはないという。

 スイスとベルギーではサッカースタイルに多少の違いはあるだろうが、選手個々が自分をアピールするためエゴイストになりがちなこともよく分かっている。そういう中で生き残っていくためには、久保自身もエゴイストに徹しなければならない時もある。本人は「一人で相手を突破して仕事ができるようにならないといけない」と繰り返している通り、新たな環境で周囲との連係や連動性を生かしながらで攻撃を組み立てていくことは至難の業。だからこそ、彼自身がプレーの幅を広げ、より高いレベルにスケールアップすることが求められている。

 日本代表でのレギュラー定着はその先にあるはずだ。

「もちろん代表が3月にあるってのは知ってますし、それに向けてもちろん呼ばれたい気持ちもありますけど、まずこのクラブでどう活躍してくかってことしか今は頭にないので、まずはそこかなと。3月になって呼ばれればそこで考えればいいと思いますし、まずは代表よりクラブでって感じです。今はクラブで毎試合点を取りたい。最初の2試合は取れましたけど、流れの中ではないので、流れで取れるように次は頑張ります」

 胸の奥の野心をのぞかせつつ、目を輝かせた久保裕也。日本で最も注目される、若手成長株の1人の動向から目が離せない。

文=元川悦子

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