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「僕は完璧にしたい」。近年の選手権で最もインパクト残した優勝GK廣末陸、FC東京、新しいステージへの決意

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FC東京1年目のシーズンへの決意を語ったGK廣末陸

「DAZN×ゲキサカ」1年目のJリーガー~ルーキーたちの現在地~Vol.2

 近年、これほど選手権で注目を集め、Jリーグへ進んだGKはいなかったのではないか? 青森山田高のゴールを守ったGK廣末陸は対戦相手の決定的なシーンをことごとくセーブし、飛距離と精度を兼ね備えたキックでゴールをアシスト。第95回全国高校サッカー選手権では“大会の主役”として青森山田を初優勝へ導き、プレミアリーグチャンピオンシップではMVPを獲得して「高校年代真の日本一」の立て役者となった。その廣末は今年、中学時代までを過ごしたFC東京でJリーガーとして新たなスタートを切っている。東京五輪世代の日本代表チームの一員としても注目を集める守護神が、プロとしての心構えや現在の課題、そして目標などについて語った。

―中学生時代以来にFC東京へ戻ってきて、今、小平で新しい空気を吸っている。どのような感覚でしょうか?
「3年ぶりにまた戻ってきて、このエンブレムをつけて練習できていることは凄く懐かしいという気持ちもありますし。3年間の活躍などが評価されて戻って来れたと思っているので、その部分に関しては凄く嬉しいですし、これから色々と結果を残していければいいと思っています」

―サポーターとの交流を見ても、凄く温かく迎えてもらっている印象です。
「青森山田の時からプレミアリーグでFC東京と当たった時に、FC東京のファンの方は温かい声援を送ってくれたりして本当に嬉しかったですし、戻って来てからもたくさんの方が応援に来てくれて力になっています」

―「青森山田の廣末」から「FC東京の廣末」へ。徐々に周囲の目も変わってきている。
「青森山田では結果を残してきましたが、FC東京ではまだ真っ白な状態。ここからまた結果を残していかないと評価は上がってこないと思いますし、このFC東京の看板に隠れているような状況ではダメだと思うので、まずは試合に出ることを第一に考えてやっていきたいです」

―環境が変わってプロとしての1年目。思うようなスタートが切れている? それとも壁に当たりながらになっている?
「どちらかというと壁に当たりながら、悩みながらですね。(理由は)まず待遇の違いです。プロとしてお金を貰う立場になって責任があります。また、青森山田では出場して当たり前という部分もあったので、今になって試合に出る大変さなどを感じています。FC東京には日本代表の林選手をはじめ能力の高いGKが多いので、高い壁ですが、それを乗り越えていかないとこの先大成はできないと考えているので、1年目とか関係なく、自分の特長を出してレギュラー争いをしていきたいです」

―2冠を獲得して高校生活を終えたが、目の前に壁があることはまた歓迎するところでは?
「2冠を獲ったことは嬉しかったですし、達成感もありましたけれど、青森山田は青森山田で、FC東京はFC東京。違うステージだと思っています。プロとアマチュアの違いもありますし、プロではまだ何も成し遂げていないので、本当に自分がここから何ができるかの勝負だと思っているので、こだわってやっていきたいです」

―特長の部分も徐々に発揮できている印象だが、それでもまだまだ?
「(キャンプを終えて)小平に帰ってきてから少しずつ特長を出せるようになってきました。このチームが始動してから沖縄キャンプ、都城キャンプがあったんですけれど、そこでは全然スピードについていけなかったです。(FC東京は)スピードが速いのに精度も高い。僕みたいなGKはどれだけ考えて、どれだけ無駄をなくすかが重要だと思っている。今までのように粗い動きをちょっとでもしてしまうと、あっと言う間に失点してしまいます。今は凄く試行錯誤しながらやっていますが、2回のキャンプを通して少しずつスピードにも慣れ、自分のプレーも若干出せるようになってきたので、もっと慣れて、自分のいいところをしっかり出せればいいと思います」

―高校時代にこれでもか、というくらい突き詰めてきていても、それ以上を求められるのがプロの世界。
「結果の世界ですから。どんなに自信があるプレーでも1本ミスをすれば、それは厳しく指摘されます。高校だったら『ナイスチャレンジ』で終わっていた部分をかなりキツく言われますし、僕みたいにロングフィードが得意な選手はその10本中8本成功しても2本失敗したら言われてしまうので、1本中1本を成功することを心がけてやっています」

―当時もそれが許されていた訳ではないと思うが、自分自身も厳しい目を向けるようになった。
「今まで以上に厳しい目を持ってやっています」

―現在、コーチから指摘されることが多いのはどのような点?
「今は、細かいつなぎですね。4対4のシュートゲームをやることが多いのですが、その時にスペースが少ない中でボールをつけるかつけないかの判断。判断の切り替えの速度を凄く求められているので、GKでノッキングしてしまうことがないように意識しています。青森山田では考えて、考えて、自分一人で打開できたりしたんですけれど、FC東京はGKにスピードを求めるので、速く味方につけるというところのギャップ、イメージの違いに苦しんでいます。現在、試合で45分も出られていないような状況でそれを一本やってしまうと、自分の評価にも繋がってしまいますし、チームで求められていることをどれだけ自分が表現できるかだと思っているので、抑えるところは抑えながら、上手くできればいいかなと思います」

―ゼロで抑えることプラス、チームのコンセプトを表現しなければならない。
「ゼロは大前提ですが、それプラスチームのコンセプトがあるので、チームのコンセプトに沿ったプレーができればチームの勝利に繋がると思います」

―最上級生だった高校からプロの世界に入って、今、先輩たちの背中はどう映っている?
「見ていて思うのはプレー云々というよりは、一つ一つ凄く考えているなということです。(林選手は)練習中も凄く独り言を言っているんですが、独り言を口に出すことによって、勝手に動きが身について行くのだなと。ジョアンGKコーチがスペイン人ということもあって、トレーニングで普段とは違うことをやったりするんですけれど、今まで言われたことがないようなことを指摘されてもしっかりと吸収できる柔軟さ、スポンジのような感じなんですが、そういうのが優れているなと。日本を代表している選手は吸収力が全然違うなとイメージしています。僕も世代別代表の経験があるので、所属チームと違うGKコーチの指導も経験しているので、そういう部分では上手くやれているのかなと思います」

―まだプロの世界に入って1か月ほどですが、自分がプロだと実感する時はある?
「学校がないので時間が結構あります。今考えているのはサッカーのことだけですね。練習したり、遊んだり、その時間の使い方は人それぞれだと思いますが、どれだけサッカーと向き合えるかが大事だと思っているので、常にサッカーのことを考えています。プロは1人のプレーヤーとして何ができるか。学校だったら指示をしてくれるかもしれませんが、その判断をプロは自分でしないといけない。そういう意味では自立しなければいけないですし、そこは青森山田で培ってきた部分でもあるので問題なくできると思います」

―まだ1か月ですが、プロに入って悔しいと思ったことは?
「試合に出る時間が短ければ短いほどそれは悔しいですし、その悔しさを無駄にしないためにも次に活かすというサイクルで今やっているので、試合に出られないから腐るということは絶対にないですし、常に上を見ながらやっています」

―反骨心持って成長してプロ入りを果たしたし、乗り越えるまでの過程を怖れていない。
「高校の時はそれ(U-18チームに昇格できなかったこと)がひとつのモチベーションでしたし、今はFC東京の一員となったので試合に出て、チームの勝利に貢献しなければいけない。ただ、プロの世界なので結果が出なければ、契約できない可能性もありますし、それではジュニアユースの時と同じ状況になってしまうので、まずは結果を残すことだけを考えないとダメだと思います」

―選手権は近年ないほどに優勝GKが注目を集める大会でした。廣末選手にとってGKとは?
「僕が考えているのはストライカーとか、キャプテンとか、中盤の要とか、そういうポジションよりも大事で、それ以上に影響があり、勝敗を左右するポジションだと捉えています。フィールドにポジションは11ありますけれど、GKが一番重要なポジションだと思っていますし、一番やりがいのあるポジションだと思っています」

―選手権は見ている人に凄く評価されて、驚かれるくらいのパフォーマンスだった。
「プロ内定選手として選手権に臨みましたが、プロに行く選手は責任があると思っていますので、驚かれないといけないですし、人が期待する以上のプレーをしないとダメだというイメージがあります。プレッシャーはありましたけれども、僕はその部分を凄く楽しめたので良かったです」

―自分の思い描いていた通りの選手権になったのでは?
「でも失点は凄く悔やまれます(大会を通じて5試合で計2失点)。無失点優勝を目標にずっとやっていたので心残りではありますが、チームとして優勝できたことは凄く満足しています」

―改めて青森山田での3年間とは?
「日本のどの高校よりもキツかったですし、だからこそ自信が付きました。日本一密度が濃かったと思います」

―部員全員がプロを目指すような環境の中で突き抜けることは大変だったのでは?
「周りにそういう人たちがいたことによって、自分が緩んだ時に浮いてしまいます。だからこそ、『やらなきゃな』という危機感を持たせてもらえる。自分だけが外れていくと自分でも凄く分かるんですよ、『浮いているな』と。周りの人が『プロに行かなくても大丈夫』だとか、そう思う人たちばかりの集団だったら自分もそれが当たり前だと思ってしまう。周りの人全員がプロを目指していて道を外れそうな時に戻してくれたので、それが大きかったですね。それがあったのでやり切れたと思います」

―1年生からゴールを守ってきたことによって、嫌でも自覚や責任感を持たなければならなかった。それはプロでも繋がっているのでは?
「正直、試合には今出ていないですけれど、今の状況と高校1年生の時の状況が少し似ていて。中学から高校に上がる時にそこでもスピード感が異なり、そのギャップを3年間で埋める以上のことができましたが、焦らずにやるべきことをやっていれば絶対にレベルは上がってくると思う。『慣れ』は凄く重要だと思っていて、シュートのスピードや展開の速さなどやっていれば、それがまた経験になってくると思うので、今はそれをやり続けることが大事だと思います」

―集大成の2冠だった
「正直、2冠を獲った嬉しさよりも(準決勝で敗れた)インターハイの方が悔しいんですよ。インターハイ、プレミアリーグ、選手権と3つあって、そのうち2つ優勝したけれど、獲れなかった1つがとても気になって……。優勝したけれど失点したとか、完璧にならないと満足できない。その感情があるから成長できると思うんですけれど、完璧にできなかったことが悔しくて仕方ないです。結局、インターハイがあったからこそ、2冠を獲れたということもあるんですけれど、未だに気になります」

―そのこだわりは幼い頃から? 性格的なもの?
「僕は完璧にしたいんですよ。粗があっちゃいけないと言いますか、やるなら、てっぺんを目指したい。サッカーもやるからには優勝を目指したいし、『ちょっと遊べばいいや』とかは嫌なんです。小さな頃から誰にも負けたくなかったですし、元々ですね。やるって決めたからには中途半端は嫌です。やり切りたいです」

―代表チームにおいても、アジア予選では一度も優勝したことがなかったけれど、大会前に『優勝しなければいけない』と言って優勝した。今年のU-20W杯の目標も優勝?
「(世界大会も目標は)優勝です。でも、アジアは優勝しましたけれど、僕は1試合しか出ていないので僕が優勝したという感覚は全然ありません。自分が全部の試合に出て、無失点で優勝するのが完璧なシナリオなので、それを求めていかないと向上心というのはなくなってしまうと思いますし、成長に繋がらないと思います」

―GKの立ち位置を入れ替えるのは難しいが?
「今の状況では試合に出るのはなかなか難しいですけれど、できることはたくさんあるので、それを一つ一つやっていって、5月の本大会に選ばれること、試合に出ること、そして優勝すること。それを考えて逆算しながら今できることをしっかりやっていきたいです」

―FC東京の良さをどの部分に感じる?
「本当に個性が強いです。足が速い選手がいて、シュートが上手い選手がいて、ボールコントロールが上手い選手がいて、守備がうまい選手がいて、GKは日本でトップクラスの身長の選手が2人いて……それぞれの個の良さがあるので、さらに協調性というものが高まればチーム力は物凄いものになると思う。青森山田も自分たちの代は我が強いというか、個性が強かったけれど、最後はまとまって結果が出ました。自分の感覚としてその状況に凄く似ているなと思いますね」

―青森山田も個性が強かった?
「相当キャラが濃かったです。『彼の特長はこれだね』と、分かりやすかったです。試合に出ていなくても、それぞれチームで一番のものがあるんですよ。声だったり、テクニックだったり、頭が良かったり、足が速かったり、持久力が一番あったり、そういう選手ばっかりで言ってみれば、“職人”。“職人”の集まりですよ。他のチームを見ても、青森山田が一番特長的な選手が多かった。スカウティングした時に一人一人の特長を書きやすいチームでしたね。ただし、仲はみんな良かったです。寮生活でずっと一緒だったので」

―特に仲の良かった選手はいた?
「CBの橋本恭輔は小学生の頃からの仲。小学生の時は選抜チームとかで2トップを組んでいたんですけれど、いつの間にか向こうはDF、自分はGKになっていて(笑)。中学生の時も東京都の大会で何回か当たったりしていて、3年の時に『どこ行くの?』と聞いた時に『青森山田行くよ』と言われて、『えっ、オレもなんだけど』とびっくりしました。彼は小学生の時からマジメで吸収力が凄いです。努力も怠らないし、自分にストイック。高橋壱晟(現千葉)もそうでした」

―高橋君と2人がクローズアップされることが多かったが彼の印象は?
「正直、2年生終わる頃までは自分に自信がないなと思っていて、プレーに消極的なところが結構多かったんですよ。だからミドルシュートなんか全然打たなかった。でも、一昨年の選手権で4点取って、プロの練習にも参加していたので凄く自信がついたのか、3年生の責任なのか、3年生の時は一番頼れるくらいの選手になっていました」

―今年の目標を
「J1で出場したいです。今年の一番の目標です。やることをやれば絶対にできると思っています」

―最後に、Jリーグの良さをどのようなところで感じる?
「僕は元々東京都出身で、FC東京というチームが身近にあって、地域一体というのは凄くいいところかなと思います。海外よりも地域と密着していて地元のイベントとかに行ったり、ふれあいの場が多いと思うので、そういう部分はずっと良いなと思いました。地元のチームが勝てば盛り上がりますし、FC東京が優勝すれば東京が盛り上がると思います。そうしなければいけないと思っています」

(取材・文 吉田太郎)

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