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内田篤人とジャイキリ作者のツジトモ氏が週刊『モーニング』で特別対談!!ゲキサカでその全文を公開

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週刊『モーニング』の特別企画で対談したDF内田篤人(右)と人気漫画『GIANT KILLING』の作者ツジトモ氏

 創刊35周年を迎えた週刊『モーニング』(講談社)は本日23日発売の最新号で、DF内田篤人(シャルケ)と人気サッカー漫画『GIANT KILLING』の作者であるツジトモ氏のサッカー&マンガ対談を掲載している。

 モーニングおよび掲載作品を愛読している著名人がその思いを語る35周年企画「私とモーニング」。その第2弾として内田が登場した。ゲキサカではそんなスペシャル対談の全文を掲載する。

『モーニング』本誌では、ツジトモ氏による『達海猛』描きおろしイラストとともに内田・ツジトモ氏の直筆サインが入った色紙をプレゼントする企画も実施中。ツジトモ氏が差し入れたシャルケカラーのペンで内田がサインしたという“お宝モノ”をゲットしたい方は是非、『モーニング』本誌をご覧ください。

―今回、お二人には『GIANT KILLING』の登場人物をテーマに話を進めてもらえたらと思います。まずは、今や『ETU』に欠かせない選手へと成長した『椿大介』について。内田選手は知っていますか?
内田 知ってますよ。メンタルが弱いところも(笑)。
ツジトモ そうなんですよ。よくご存じで(笑)。内田選手が若手のときはどうでした?
内田 僕が鹿島アントラーズでプロになった06年当時は、(小笠原)満男さん、曽ヶ端(準)さん、モトさん(本山雅志)、黄金世代が多くいて、そこに高校を卒業したばかりの自分が、ポンって一人だけ入ったので、やっぱり最初は遠慮がちにしていました。先輩たちに必死で食らいついていくだけでしたね(苦笑)。
ツジトモ でも、その錚々たるメンバーがいながらも、開幕戦でスタメンを勝ち取ったんですよね。やっぱり、最初は緊張しました?
内田 緊張しましたけど、そこまでガチガチではなかったですね。
ツジトモ そもそも内田選手は、緊張するタイプなんですか?
内田 します、します(笑)。最近はそこまで緊張しなくなったので、逆に緊張感を持たなければいけないなって思っているくらいです。僕は緊張してこそ自分の実力を発揮できるという考えを持っているので。思い返してみても、緊張感が漂っている試合や何かが懸かったビッグゲームのほうが自分の力を出せるような気がするんですよね。
ツジトモ ある程度、緊張したほうが、より試合に没頭できると。
内田 はい。プレッシャーがかかった試合のほうが、ちゃんとやらなきゃという思いが、いつも以上に湧くというか。ただ、もともとは緊張しすぎるタイプだったので、場数を踏んで、だんだんと変わってきたんだと思います。
ツジトモ 椿を描いていても、その変わっていくところが、楽しかったりするんですよね。
内田 でも、どこかで挫折するところも描いてほしい。椿にも壁にぶつかってもらいたいんですよね。
ツジトモ 考えておきますね(笑)。
内田 ぜひ、お願いします(笑)。選手は、どこかで必ず挫折を経験すると思うんですよ。僕の場合はプロ2~3年目でした。高校卒業してすぐにプロの世界に入ったので、まだサッカー選手の体ができていなかったんでしょうね。シーズン途中くらいになると、気持ち悪くなって吐いてしまい、そうすると体重もどんどんと減っていく。1年間を通して戦う体ができていないのに、試合に出られていたものだから、気持ち的にも限界が来て、体が悲鳴を上げたんだと思います。
ツジトモ シーズン前のキャンプでしっかり体を作らないと1年間戦えないという話を聞きますが、今の話を聞くと、なおさらそう思いますね。
内田 キャンプは、『今シーズンも行くからな』って、まず体に挨拶するようなイメージです。自分の体に『準備しておけよ』っていう。当時の僕は日本代表に呼ばれていて、チームのキャンプに参加できなかったことも、影響していたのかなって思います。

―昨季は国内2冠を達成したこともあり、鹿島の伝統的な強さが改めてクローズアップされました。内田選手が鹿島でプレーしていたときに感じた強さとは何ですか?
内田 僕がプレーしていた当時、オズワルド(・オリヴェイラ)監督には、ミーティングで『お前たちには勝者のメンタリティーが足りない』って、よく怒られてました。
ツジトモ 鹿島の選手たちですら、そうなんですか?
内田 はい(笑)。でも、その勝者のメンタリティーがなんなのかって言われると、結局、僕らも勝つことでそうなっていったんですよね。勝たなければ分からないし、勝たなければ、そう言われることもない。明確な答えというのは、僕らにも分からない。結局、僕らも『勝ったからね』としか言えないんです。

―『GIANT KILLING』には、ドイツでプレーする『花森圭悟』という選手も登場します。シャルケでのことについても聞かせてもらえればと思います。
ツジトモ ドイツの話をする前に、何はともあれ、まずは復帰おめでとうございます。
内田 ありがとうございます。
ツジトモ ザルツブルクとの復帰戦はテレビで観させてもらいました。今でこそ海外で日本人がプレーする機会が増えましたけど、あの試合は、かつて中田英寿さんがセリエAでプレーしていたときのように、日本人が日本人選手を応援するためにテレビを見るというような雰囲気がありました。出場時間は短かったのかもしれませんが、とても感動しました。
内田 そう言っていただけると、ありがたいです。復帰戦は1点先制されて追いつかなければならない状況での出場でしたし、僕はDFなので、なるべくゲームを壊さないようにしつつ、チームが点を奪うために、前に人数をかけていたので、後ろで助けてあげたいなって思っていました。急に試合に出たこともあって、個人的には、あまり感動することもなく、久しぶりの試合だなって思うこともなかったんですよね。
ツジトモ 復帰してすぐにブンデスリーガはウインターブレイクに入りましたけど、どんな感覚ですか? もうちょっとやりたかったなという感じですか?
内田 復帰戦の後、おそらく監督は、年内に僕を起用するつもりはないだろうなと思っていました。ここで一回、シーズンが途切れて、またキャンプもありますし、監督にあらためてアピールできるので、タイミングは悪くなかったと思っています。
ツジトモ 今の心境としては、不安より楽しみのほうが大きいですか?
内田 ちゃんと自分自身の膝と付き合っていければ、試合には出られると思っています。1年以上、外からチームを見てきましたけど、僕がちゃんとプレーできれば、右SBとして試合に出られる自信はあります。だから、不安はないですね。本当に自分次第だと思っています。ぜひ、1年9か月もの間、ケガしている選手も描いてください(笑)。

―『GIANT KILLING』には『持田蓮』というケガを抱えながらプレーしている選手も登場します。
ツジトモ 昔から内田選手のことを応援していて、今回、こうして対談できたことはすごくうれしいんですけど、やっぱり漫画はエンターテイメントなので正直、こちらの都合でストーリーも変わってくる。だから、どんなに真剣に選手のことを知ろうと思って話を聞いたり、本を読んだりしても、ケガをドラマの表現として描いている時点で、どれだけ作品に真摯に向き合っていても、やっぱり物語を演出するひとつの要素になってしまう。それだけに今回、内田選手と対談できることになったときも、そんな僕が、現実でケガに苦しんできた内田選手に会っていいのかなとすら思っていたんです。
内田 いやいや、そこは会ってくださいよ(笑)。
ツジトモ 何となくですけど、エンターテイメントとして作品を描いている自分としては、真剣にサッカーに取り組んでいる選手たちに負い目があったというか。特に復帰までに、これだけ時間を要した選手は、あまり聞いたことがなかったですからね。
内田 サッカー選手によく起こるケガとしては、膝の前十字靱帯やアキレス腱の損傷ですけど、これは事例が多いので、こういうリハビリをして、こういうメニューをこなしていけば、だいたいこの期間で復帰できるという計算が立つんですよね。でも、僕のケガは前例がなく、復帰できるかも、どのくらいで治るかも分からない。それが一番きつかったんです。終わりが見えない、先が見えないというのは、本当に辛かったですね。
ツジトモ その光が見えたのは、鹿島に戻ってきて、ケガを診てもらうようになったときですか?
内田 そうですね。鹿島で良いドクターに出会えたことが大きかったですね。僕のケガは、完治しないので、これからもずっと、この膝と向き合いながらサッカーをしていくことになりますからね。
ツジトモ だからこそ、アスリートの人を尊敬してしまうんですよね。実は、一般の人よりもアスリートのほうがボロボロだったりするじゃないですか。そういう人たちが、体を張って、頑張っているからこそ、多くの人に感動を与えられる。
内田 サッカー選手のケガについては、それなりに分かるんです。漫画家さんの職業病みたいなものはないんですか?
ツジトモ 腰痛とかですかね。座っていることが長い仕事なので(笑)。
内田 でも、それ以上に、考えることが大変そうな気がします(笑)。漫画を描くに当たって、やっぱり選手のインタビューを聞いたり、調べたりしたんですか。『GIANT KILLING』は、サッカー選手である自分が読んでいても共感できる部分が多く、漫画なのにリアルだなぁって思って。
ツジトモ もともと選手のコメントを見聞きするのは好きだったんですよね。インタビューを聞くと、あのとき選手が何を考えていたのかが分かったりする。それが作品づくりのヒントになっている部分はあります。
内田 本当に監督目線というのがすごいですよね。僕は選手のことは分かりますけど、監督のことは分からないですもん(笑)。
ツジトモ それを言ったら、僕はどっちのことも分からないですよ(笑)。でも、選手もサッカー選手である前に一人の人間だろって開き直ってまして。選手を通じて、僕らもやる気が出たり、勇気をもらったりする。僕が描いている作品は、サッカーの話ですけど、人の心が動いたりするのは、そうした人間の琴線に触れる言葉やセリフにあるのかなと思ってます。だから、自分だったらどうなるかなとか、どうやったらモチベーションが上がるかなって想像しながら描いていますね。
内田 確かに監督って幾つかのタイプに分かれますよね。選手のモチベーションを上げるのが上手な監督、戦術に特化している監督、あとは、選手に合わせながらチームを作っていく監督と……。
ツジトモ 今まで指導を受けた中で、一番のモチベーターだった監督は誰ですか?
内田 オズワルドですね。まず覚えているのは、監督に就任した初日の練習のときに、選手全員の顔と名前を覚えていたので、『すごい仕事するなぁ』って思いました。
ツジトモ それは確かにすごい。オリヴェイラ監督は、表情からも知的なイメージが滲み出ていましたよね。
内田 他にも大事な試合前のミーティングでは、こっそり選手の家族からもらったメッセージを映像で流すんですよね。ブラジル人選手は、母国にいる家族だったりして。僕は親でしたけど、家族に『今日の試合がんばってね』って言われると、戦う気持ちになるというか、グッと込み上げてくるものはありましたよね。そういう意味で、オズワルドは、僕らの心の奥底に眠っている戦う気持ちを引っ張り出すのがうまかった。

―『GIANT KILLING』の主人公『達海猛』もかなりのモチベーターですよね。
ツジトモ それで言うと、内田選手の言葉力は本当にすごいですよね。常に本気で話してくれているという感じが伝わってくる。だから、人をハッとさせるというか。
内田 それって監督に必要な力でもありますよね。
ツジトモ そう思います。
内田 人を動かせる、引きつけられる言葉を言うことができるというのは大事ですよね。記者会見ひとつとってもそうですけど、メディアの人たちを引きつけることもまた、監督にとって大事なことだと思います。オズワルドはポルトガル語なので、何を言っているのか、全然分からなかったんです。だけど話すと僕ら選手だけでなく、お客さんをも引き込む力がありましたからね。そういうとき監督の発する言葉って、すごいなって思いますよね。
ツジトモ 内田選手はいつも自然体に見えますよね。周りからどう見られるかを意識していますか?
内田 自然体に見せようとしているかもしれません。あと、周りに悪く思われないようにもしているかもしれませんね。
ツジトモ でも、インタビューを聞いても、試合後のコメントを聞いても、嘘っぽくないですよね。だから、内田選手が若手のころに嘔吐してしまう症状があったときにも、『ガムを噛んだら治った』という記事を読んで、『良かった』って、すっかり僕は騙されてしまったというか、信じてしまったんですよね。
内田 そんなこともありましたね。あれは、メディア対策というよりも、両親に心配をかけたくなかったんです。『嘔吐』と記事に書かれるたびに、やっぱり両親は心配するじゃないですか。それで何かいい解決方法がないかなって思ったときにガムを噛んで治ったってことにしようと思って、そう言ったんです。結果、親も安心してくれたし、監督にもそういう目で見られなくなって、厳しく使ってくれるようになりました。
ツジトモ だから、あとあと、それが嘘だったと知ったときに、なおさらすごいなって思ったんです。それで人間的にものすごく魅力を感じたというか、根の部分がどこにあるのかを知りたくなったんです。
内田 謎めいている感じでいたいですよね。内田ってこういうヤツだっていうよりも、アイツってよく分からないよねって思われたい。
ツジトモ その考えは子どものころからですか?
内田 プロになってからかもしれないですね。鹿島色じゃないですけど、満男さんや岩政(大樹)さんの振る舞いや姿勢を、近くで見させてもらってきたので、影響されているのかもしれないですね(笑)。

―モーニングは創刊35周年を迎えました。「読むと元気になる」というポリシーのもと、攻めの姿勢を貫きます。最後にお二人の今後のビジョンについて聞かせてください。
内田 それで言うと、僕が聞きたいのは、今後の『GIANT KILLING』について。ここから先の展開がどうなっていくのか、すごい気になる(笑)。
ツジトモ 内緒です(笑)。
内田 ハッピーエンドですか? 僕は必ずしもハッピーエンドじゃなくてもいいと思うんですよね。やっぱり、プロの世界だけに、厳しさはあるよっていう。
ツジトモ 絶対に内田選手は、そう言うだろうなって思ってました。なんとなく、分かるんですよね。
内田 そうですか?(笑) 僕は、選手としてのキャリアは折り返しを過ぎていますからね。28歳。あと何年、プレーできるかは分からないですけど、僕はぜひ、ハッピーエンドで終わりたいと思います(笑)。
ツジトモ 選手にとってのハッピーエンドって何なんでしょうね?
内田 これだけのケガをして、正直、引退の二文字もちらつきましたよね。高いレベルでプレーして、いくつもの優勝を重ねていくことも大事ですが、惜しまれて引退していくこともまた、選手として、ひとつの成功なんだろうなって、今は思いますね。
ツジトモ 僕としては思う存分やってもらいたい。プレーも発言も、そのすべてを信頼しています。考えに考えてプレーしている人だと思いますし、特別な立場にいる人の言葉や思いは伝わるものがあるので、思いっ切り自分のためにプレーしてほしいなって思います。
内田 ありがとうございます。やっと復帰してスタートラインに立ったところ。シャルケでも、自分たちより上のチームがいっぱいいるので、そういうチームをガブガブっと「ジャイアントキリング」したいですね。対戦相手にとって、面倒くさい、嫌な選手になりたいなって思います。

(取材・文 原田大輔、写真 佐野美樹、スタイリング 鈴木肇)

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