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シュバインシュタイガーのMLS移籍の本当の意味…「夢の実現」は都合の良い“縁談”か

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シカゴ・ファイアーへ移籍したMFバスティアン・シュバインシュタイガー

 悩めるMFバスティアン・シュバインシュタイガーの去就問題にようやく終止符が打たれた。長らくうわさされていたアメリカMLSのシカゴ・ファイアーとの交渉がまとまったからだ。

 新たな挑戦に心躍らせる元ドイツ代表MFと、スターの来訪を喜ぶクラブ――。メディアがそのような構図を作るのは簡単なことだろう。

しかし、実際はもっと複雑な事情が絡んでいたようなのだ。

■シュバイニーとファイアー、交渉の過程と変化

 うわさが流れ始めたのは昨年11月のこと。パパラッチの標的になっていたシュバインシュタイガーは、シカゴ・ファイアーの監督であるベリコ・パウノビッチと、マンチェスター市内の同じレストランから現れたのだった。それから4か月後、両者は1年契約を結び、手を取り合った。ワールドカップ王者でもあるシュバインシュタイガーには450万ドル(約6億2000万円)の年俸が支払われると言われている。

 ヘッドラインを賑わす移籍となった。ただし、両者の思惑が絡み合うビジネス的な側面が多くあったことも見逃すことはできない。

 ファイアーはシュバイニーを獲得することでクラブが必要としていた知名度が得られる。彼らは2015年に元チェルシーのディディエ・ドログバを獲得するために動いていたが、結局は失敗に終わっていた。近年低調な成績に終止するチームを奮起させる意味合いに加え、ビッグネームの加入に至らなかった過去も獲得に起因していると考えられる。

 シュバインシュタイガーにとっても、ポジティブな移籍であった。残念なことに、彼はマンチェスターで必要とされていなかった。今後も大きな改善が見込めないのであれば、自分が歓迎される場所、プレーできる環境に行くことは悪い選択ではない。

 ただし、すべてが明るい契約かというと、そうでもない。

 例えば今回の移籍を“高額なアルバイト”とする見方もある。『Goal』は昨年11月、シカゴがシュバインシュタイガーに対して3年契約、年俸550万ドル(約7億6000万円)のオファーを出したと報道した。しかし、実際の契約は短期で、年俸も100万ドルほど安くなったようだ。金額が下がった背景には、双方が求めるパラメーターに変化があったことが考えられる。

「シュバインシュタイガーはシカゴにやってこない?」と報じられた際、ファイアーは標的を変えてジュニーニョとダックス・マッカーティーというMLSでの経験が豊富な2人のベテラン守備的MFに照準を定めたと言われている。しかし、彼らはともに高額なサラリーを必要としていて、リーグの定めるサラリーキャップ制によりシーズン中に迎え入れることが難しかったようなのだ。

 要するに、クラブがシュバイニーの獲得に本格的に動いたのは、その後ということになる。

■本当に両者はフィットするのか?

 パウノビッチは今回の移籍に関して、クラブが出したプレスリリースの中でこうコメントしている。

「バスティアンは我々の攻撃を助けてくれる。プレービジョン、ラストパスを生み出せる創造性、そして得点能力を活かして、特に攻撃の最終局面で違いを作れる選手だと思っているよ」

「彼のフィールドにおける多才な能力やトップレベルでの莫大な経験値は我々にとって非常に有益なものになる」

 一見、聞こえはいい。もっとも、文面に記されていたことがそのままチームに落とし込めるとは思えない。シュバインシュタイガーの技術やスキルには何の疑いもないが、現在のファイアーが彼の力を生かせる体制を組めるかというと、疑問を感じざるを得ない。果たして本当にシュバイニーは快適にプレーできるのだろうか。

 一方でシュバインシュタイガーのフィットネスにも疑問符がつく。2010-11シーズン以来、彼は年間を通して30試合以上のリーグ戦に出場していない。2014-15シーズンにバイエルンでブンデスリーガに出場したのは20試合であり、2015-16シーズンにマンチェスター・ユナイテッドでプレミアリーグに出場したのは18試合のみ。そして今季に関しては、カップ戦を中心にわずかに出場機会を得ただけにすぎない。果たして、彼はまだシーズン通して効果的な働きができるレベルを維持しているのだろうか?

■両者の結託は愛か、都合か

 もちろん、今の段階では悲観的になりすぎることもない。失敗するかもしれないが、うまくいく可能性があるのは事実である。シュバインシュタイガーが求められる役割を全うすることができれば、チームにいい影響が出ることは間違いない。また、プレーオフに進出した経験が2009年のたった一度、決勝トーナメントへ出場したのも2012年のみというクラブにとって、方向性を変えていくチャンスでもある。

 彼らは「本当は純粋なプレーメーカーがほしい」と思っていたかもしれない。しかし、「知名度のある実力者」「所属チームで居場所を失っている状況」「獲得コストの低さ」「失敗しても取り返しがつく短期契約が可能」といった要素があったことを考慮すれば、シュバイニーはまさしく“適役”であったといえる。

 シュバインシュタイガーとしてもそう。シーズン半ばが過ぎた頃に活躍していたなら、同じくMLSで名声を得たダビド・ビジャやロビー・キーンのように称えられるはずだ。契約延長の話や、他クラブからのオファーにも発展していくだろう。

 とはいえ、やはり「両者の愛が実った」というより「現実的なチョイス」という側面が大きかったという感は否めない。

 シュバインシュタイガーは最初の記者会見でMLSへの挑戦について「夢の実現」と語った。しかし、これは言うなれば、お互いにとって都合の良い縁談のようなものだ。どちらにも逃げ道があり、またプラン通りに進むのであれば延長も可能なのである。もちろん、この件にかかわるすべての人間がうまくいくことを願っているが、もしそうでなければ別々の道を歩めばよいだけの話なのだ。


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