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なぜ香川真司はドルトムントで“居場所”を取り戻せたのか?

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ドルトムントのMF香川真司

 ブンデスリーガ第28節に行われた“デア・クラシカー”で、ドルトムントバイエルンに1-4の大敗を喫した。今季最多となる4失点を喫した守備もさることながら、とにかく噛み合わなかったのが前線だ。バイエルンのちょうど半分となる計9本のシュートを放ったものの、ピエール・エメリク・オーバメヤンのスピードやクリスチャン・プリシッチのドリブル突破など個人能力頼みになるケースが多く、最後まで厚みのある攻撃は繰り出せなかった。ボール支配率に至っては、まさかの29パーセントだった。

 ほとんど成す術がないまま、王者の軍門に降ったドルトムントにとって痛かったのが、二人のキープレーヤーの負傷欠場だった。一人はボールポゼッションの核として機能する司令塔のユリアン・バイグルで、もう一人はバイエルン戦を迎える直前の4試合で崩しの切り札として躍動していた香川真司だ。ポゼッション時におけるパスの預け所としても信頼できる両雄を欠いたチームは、まるで中盤をコントロールできず、とりわけ攻撃の連動性を著しく欠いた。セントラルMFとして先発したゴンサロ・カストロと、ラファエル・ゲレイロが69分までにピッチを去ったのは偶然ではない。カストロは内転筋のトラブルによる交代だが、普段より精彩を欠いていたのは事実だ。

 デア・クラシカーの欠場で改めて浮き彫りになった香川の重要性は、スタッツを見ても明らか。7試合ぶりに先発出場した第24節ヘルタ・ベルリン戦からの4試合で、チームトップとなる12本のキーパスを記録し、こちらも最多の3アシストを決めている。第27節のハンブルガーSV戦では数多くのチャンスを作り出しただけでなく、1ゴール・1アシストと目に見える結果も残し、ブンデスリーガ公式サイトの第27節MVPに輝いた。攻撃の文字通り牽引車となり、マルコ・ロイスが負傷離脱した穴を補ってあまりある活躍を披露した香川は今夏の退団候補から一転して、主役の座へと返り咲いている。

 香川が“居場所”を取り戻せた理由の一つが、ロイスが第23節のレバークーゼン戦で負傷したことだった。直後のチャンピオンズリーグ・ベンフィカ戦ではスタメンから外れたものの、前述のヘルタ戦で“ポスト・ロイス”を任されると、ホームで圧倒的な強さを誇る首都の雄を相手に躍動。センターサークル付近で3人の相手を手玉に取るドリブル突破(あるドルトムントファンはメッシのファーストネームを持ち出し「リオネル・カガワ」とも)を披露すれば、DFライン裏を突く秀逸なラストパスも放ち、第16節のアウクスブルク戦以来となる今季2つ目のアシストを記録したのだ。

 このヘルタ・ベルリン戦でトゥヘル監督からの信頼を取り戻すと、3日後のDFBポカール準々決勝に続き、第25節のインゴルシュタット戦でも先発出場。随所にキレのあるパフォーマンスを披露し、ふたたびゴールに絡む仕事もこなしてみせた。ウインターブレイク明けでは初となる公式戦3試合連続スタメン出場だっただけに、本人はインゴルシュタット戦後に「連戦続きでとりあえず疲れた」とブログに綴っている。

■前半戦との違いとは?

 その疲れをうまく取り除けたのか、日本代表での2試合を経て、ドルトムントに戻った香川は合流直後の第26節シャルケ戦でも称賛を浴びる。DFライン裏への絶妙な飛び出し、そして完璧なトラップからのラストパスで、この日のチーム唯一となる得点を演出したのだ。「ドルトムント攻撃の軸」と絶賛した『WAZ』をはじめ、あらゆるドイツメディアから称えられたダービーでのパフォーマンスは記憶に新しい。続くハンブルガーSV戦では前述のとおり、今シーズン初となる自らのゴールを記録している。

 筋肉系のトラブルによるバイエルン戦欠場がつくづく悔やまれるが、幸い、翌日のトレーニングではランニングメニューを消化。4月11日に控えるチャンピオンズリーグ準決勝のモナコ戦に間に合う可能性が浮上しており、トゥヘル監督も「バイグルと香川が戻ってくるのを願っている」と口にしている。仮にピッチに立てるようなら、復調後の香川にとっては最も手強い相手と対峙する見込みだ。その相手とはモナコの中盤の底に君臨するファビーニョで、マンチェスター・ユナイテッドやアーセナル、バルセロナが注目する23歳の逸材は守備力に定評がある。このブラジル人を翻弄するようなら、香川の評価がますます高まるのは間違いない。

 ここのところ決定的な働きを連発している香川だが、実はシーズン前半のリーグ戦先発出場時(5試合)に比べ、パス成功率(88.1パーセント→81.25パーセント)やボールタッチ(59.2回→50.2回)の平均値は下がっている。86分→89.25分と先発出場時の平均プレータイムは伸びていながら、ボールに触れる回数自体は減っているわけだ。この数字から読み取れるのは効率性のアップだ。ボールに絡む頻度は下がっても、絡んだときのインパクトが大きく、試合から消えているような印象は与えない。

 縦パスを引き出すレシーバーとして良いポジションをとり、絶妙なトラップやターンから、相手の急所をズバッと抉るパスを送る。ここ最近、何度も見せている香川らしいプレーの根底にあるのは優れた状況判断で、2シャドー起用時に定位置を争うウスマン・デンベレやプリシッチにはない大きな強みだ。エースのロイスがまもなく戦列復帰する予定で、またしても定位置争いに巻き込まれかねないが、今の香川なら取り戻した居場所を簡単には失わないはずだ。

文=遠藤孝輔


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