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“レアルが勝ちます”その理由は!? 玉乃淳の「クラシコ」はココを見ろ!!

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 世界中が注目するレアル・マドリーバルセロナによる「クラシコ」が4月23日にレアルのホームであるサンティアゴ・ベルナベウで開催される。世界を熱狂させる一戦は、リーガ・エスパニョーラやプレミアリーグの配信を行っている『スポナビライブ』でライブ中継。今回は、アトレティコ・マドリーの下部組織でプレー経験を持ち、現在は『スポナビライブ』の解説者も務める玉乃淳氏に、優勝の行方を大きく左右するクラシコの見どころを独自の視点で紹介してもらった。
※記事は3月31日の取材時点の情報に基づいています

■テーマⅠ クラシコの魅力…『“優等生”が“悪ガキ”になる』

 僕は今シーズン前半にカンプ・ノウで行われたクラシコ(2016年12月3日、バルセロナ1-1レアル・マドリー)を現地で取材しましたが、本当に雰囲気がすごかったですね。言い方は少し悪いですが、本気でお互いのことが嫌いなんだろうなというのが伝わってきました。街中でライバルチームの選手に会ったら、普通なら『おー、あのチームの有名選手じゃん!!』と握手やサインを求めると思いますが、レアルとバルサの関係で、それは絶対にない。もし相手の選手を見かけたら罵声を浴びせたり、石を投げつけたりするくらい、お互いのことが嫌いだと伝わってきます。レアルにはアトレティコ・マドリーとの「マドリード・ダービー」もあって、僕はアトレティコの下部組織に在籍していた時期があるので分かるのですが、レアルはアトレティコのことを相手にしていないんですよ。本当に嫌いで、意識しているのはバルセロナなんです。

 それはピッチ上にも反映されます。普通の試合なら自分たちの良いところを出し、プレーを楽しむこともありますが、クラシコでは相手を“こてんぱん”にしたい気持ちが強く、レアルだったらメッシを、バルサだったらクリスティアーノ・ロナウドを“こてんぱん”にしようとします。相手の良いところをつぶそうとするから、スペクタクルなプレーは見えづらく、意外とガチガチな試合が多くなりますが、だからこそ、いつもと違う両チーム、選手たちが見れると思うんですよ。

 例えばメッシには、華麗で、うまくて、きれいなイメージがありますが、ダークになる瞬間があります。クラシコだからこそ見せる本性や荒い部分、プレーだけでなく言葉づかいも荒く、表情も険しくなる。そんな選手たちの本性を見られるのはゾクゾクするし、それは画面越しでも伝わってくると思います。普段は“優等生”で“お利口さん”な選手たちが急に“やんちゃ”になるんです。彼らは何百人、何千人、何万人という選手を蹴落としてトップに立っているわけで、負けず嫌いなのは間違いない。その本性を出し、ピッチに立つ22人全員が“良い子ちゃん”から“悪ガキ”になる、こんな面白い試合はないですよ。


■テーマⅡ 今シーズンの両チーム…『代えの利くBBC、代えの利かないMSN』

 リーガでは優勝争いをしており、両チームともにチャンピオンズリーグは準々決勝まで勝ち上がっていますが、めちゃくちゃ苦労して今の位置にいます。試合を見ていない方は普通にレアルとバルサが1位と2位なんだと思うかもしれませんが、リーガはどのチームも力が均衡しているので本当に苦しんでいるし、実はもうボロボロの状態です。

 レアルは、復帰したベイルがしっくりきていないし、状態も40%くらい。C・ロナウドも要所要所で結果を残すけど、ジダンも100%信頼していないんじゃないかと感じるくらいで、彼やモドリッチも平気で試合の途中でベンチに下げます。今季は公式戦40戦無敗というスペイン記録を樹立しましたが、現実的に戦えるのがレアルの強みだと思っています。あれだけのスター選手たちが、試合終盤にここまで引きこもる必要があるのかと思うくらい、引いて守り抜く試合が何試合もあった。またリードを奪われていれば、ルーカス・バスケスとマルセロを“放り込みマシン”にして、セルヒオ・ラモスを上げてパワープレーに出るなど、手段を選ばずに勝ちに来ているし、割り切ったことで勝ち点を得た試合は何試合もありました。

 チャンピオンズリーグのパリSG戦のミラクルは本当にすごかったバルサですが、状態は決して良くないですね。パリSG戦のように絶対に勝たないといけない試合で本気を出したら、レアルでも簡単に止められないと思うけど、メッシ、スアレス、ネイマールがその試合ですご過ぎるのか、すご過ぎないのか、試合によって波が激しく、彼らの出来に左右されるところがあります。イニエスタがケガがちで、ラキティッチも本調子ではない時期が長かった今季は、より前線の3人頼みで勝ち点を積み重ねてきた印象です。

 レアルは“BBCトリオ”、バルサは“MSNトリオ”と、特に攻撃の部分は彼らに頼る部分が大きいですが、彼らの調子が悪いとき、負傷で欠いたときにうまくやり繰りしていたのがレアル、つまりジダンです。ベイルがいない時期にはルーカス・バスケスが活躍したし、イスコやハメス・ロドリゲスが出場すれば彼らも結果を残しており、だれが欠けても大丈夫という状態に持っていきました。うまくチームが回っているのは、もちろん選手層が厚いからとも言えますが、ジダンの手腕によるところも大きかったと思います。対する今季のバルサは補強を含めて行き当たりばったりな感じがあり、アンドレ・ゴメスもデニス・スアレスもパコ・アルカセルも機能しているとは言い難く、メッシやスアレス、ネイマールは代えが利かない状態です。

 おそらくクラシコでも“MSN”は最後までピッチに立っているでしょうが、ジダンは“BBC”の調子が悪かったとき、世界中が見守る中で『この交代か!!』『やっちゃうのか、これ!!』みたいなことをするかもしれませんよ。
(編集部注:ネイマールはその後、クラシコの出場停止が決まった)


■テーマⅢ キープレイヤーと注目マッチアップ…『イスコとイニエスタは“ミニレスラー”』

 レアルのキープレイヤーはカゼミーロだと思います。アンカーに入る彼は当然利いていますが、相手にとっては狙いどころでもあり、意外とボールロストにつながるシーンが多い。特に今年に入ってからはストロングポイントであり、ウィークポイントにもなっています。そこを狙いどころにしたバルサがボールを奪えるか、レアルがポゼッションを高めて回避できるかは試合展開にも関わってくるでしょう。

 注目のマッチアップはメッシ対カゼミーロ+セルヒオ・ラモス。今、メッシは中央でプレーすることが多いですが、やっぱりメッシを止められるかどうかが試合の流れを左右するので、カゼミーロとセルヒオ・ラモスががっちり挟み込んで仕事をさせないようにできるかどうか。ここはバチバチ行くでしょうから、どう考えても乱闘みたいになるような気がします。

 あと、現地で試合を見て、別格だと感じたイスコにも期待しています。彼は細くてうまい選手のイメージがありますが、それは大間違いなんです。背筋が半端ないし、お尻もすごい。ムキムキの選手たちと比べても遜色ない体つきをしていて、当たられてもお尻でふっ飛ばしてしまうから、絶対にボールを取られない。これはバルサのイニエスタにも言えることです。普段歩いているのを見ていると、そういう印象はありませんが、ピッチに入ると『ミニレスラー』です。見た目、雰囲気に騙されちゃいけません。超うまいと思っているイスコとイニエスタが、実は『ミニレスラー』というのは、“現地あるある”なので、個人的に見どころの一つにしてほしいです。


■テーマⅣ 試合展開とスコア予想…『前半はガチガチ、選手交代で流れが変わる』

 毎回、この予想は外すので難しいですが(笑)、今の両チームの底力を考えると、レアルがボールを支配すると思います。前半戦のクラシコを現地で見て感じたのは、レアルが圧倒的にボールに触れるということで、イニエスタが後半途中から投入されるまでは完全にレアルのペースでした。カンプ・ノウでの試合なら今のバルサでも勝ち目はあるかもしれませんが、ベルナベウでの試合では、よりレアルに分があるでしょうね。

 バルサは良い意味でも悪い意味でも、メッシ、スアレス、ネイマールの気分次第のところがあるし、中盤をつくれずに前線にボールを運べなければ3人は生きません。レアルの中盤の構成はカゼミーロ、クロース、モドリッチが軸だと思いますが、イスコやハメスが先発する可能性もなくはないというドキドキ感があり、だれが出るのかを想像するのもすごく面白いです。でもだれが出ても今のバルサの中盤のクオリティーを上回ると思うし、そうなれば自然とバルサの前線の3人を殺すことにもつながります。世の中の人たちは、バルサにパリSG戦のようなミラクルを期待するかもしれませんが、そんなに甘くはない。僕は別にレアルファンではないけど、パリSGと一緒にしてもらっては困るでしょう。レアルは必要以上にバルサを恐れずに、ボールを保持していけばいいと思います。

 スコア予想は2-1でレアルが勝ちます。前半はガチガチの0-0でこう着状態が続き、オープンな試合にはならないと思うし、流れが変わるとすれば、ベンチワークですよね。ジダンは仮にクリスティアーノ・ロナウド、ベンゼマ、ベイルの調子が悪ければ、途中交代させることもあります。今回のクラシコに関しては、残り30分くらいになってから、ジダンが思うベストメンバーがピッチ上にいるんじゃないかなと思うくらいです。でも、ルイス・エンリケはメッシ、スアレス、ネイマールに固執するでしょう。その考えが、どう出るかですが、僕は柔軟に動けるレアルが試合の流れを引き寄せ、途中出場したイスコとルーカス・バスケスがゴールを記録して、ピケあたりが意地を見せて1点を返すんじゃないかと思っています。


■テーマⅤ リーガ・エスパニョーラの魅力…『クリアするだけのチームは皆無』

 上位チームから下位チームまで実力が拮抗しているリーグなので、クラシコ以外の試合も見てほしいなと思います。バルサもカンプ・ノウでの試合を除けば、本当に難しい試合をしているくらいで、リーガは下位のチームでもうまいし、足元の技術が高い。カンプ・ノウで押し込まれたパリSGは、身体能力を生かして必死に守ってクリアすることしかできなかったけど、リーガの選手は簡単にクリアするのではなく、そこからつなごうとします。クリアするだけのチームは皆無だから、レアルもバルサも苦戦する。ただクリアするだけでは、すぐにボールを回収されてレアルとバルサにずっと攻撃されてしまいますからね。

 それにたとえレアルとバルサが対戦相手でも、ただ蹴るだけのサッカーはサポーターが許しません。『レアルが相手だからといって、ただクリアするだけではダメだぞ』『自分たちのサッカーをしろ』とプレッシャーを与えてきます。もちろん試合に勝つことは大事ですが、たとえ1-6で負けようとも、自分たちのサッカーを貫けば、それで賞賛されることもあります。自陣深い位置からの組み立て方も監督、チームによって違うので、そういう部分は他のリーグとは異なり、リーガの魅力の一つだと思います。今回のクラシコを見ることをきっかけに、レアルやバルサ以外の試合も見てもらえたらなと思います。


(取材・構成 折戸岳彦)

●リーガ・エスパニョーラ2016-17特集

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