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「単位より、順位。」宣伝効果を狙った学生と“認めた”オトナたち

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勉強する気があるかどうか……学生たちは当たり前に勉学に励んでいる

 『単位より、順位。』――。そう描かれたポスターが議論を呼んでいる。これは、15日に開幕した第91回関東大学サッカーリーグ戦ポスターのキャッチコピー。関東大学サッカー連盟が作成したポスターは“確信犯的”につくられたものだった。

 関東大学サッカー連盟ではリーグ開幕に合わせてポスターを作製。今季も例年通りに外部の企業から3つほどのキャッチコピーを提案され、学生たちが議論した。当初は「安全なもの」を選んでいたが、校了まで約6時間を切った段階で「インパクトがない」「大学サッカーと一目で分かるものを」との声が強まり、一転して『単位より、順位。』に決まった。

 『最強の仲間は最高のライバルだ!』『本気で闘うからわかり合える。』『一人じゃ出せないチカラが出てくる。』――。これらと比較したうえで、決まった言葉。一目で大学サッカーとわかってもらうためにはどうしたらいいかを熟考したなか、大学生に最も馴染みがある言葉=“単位”が含まれているものになったという理由もある。

 関東大学サッカー連盟広報部の岡田祐奈さん(青山学院大3年)は「いつも安全策でやってきましたが、このままではあまりに“安パイ”なんじゃないかと。リスクを避けるやり方もありましたが、やってきたことのない刺激的なデザイン、新しいやり方でチャレンジしようと思いました。批判は仕方ないかなと」と振り返る。

 同幹事長の笠原惇さん(明治大4年)は「最初は個人の感覚として、攻めすぎているなと思いました。それでもこれをきっかけに普段は目にすることもない人が見て、さらに試合会場まできてくれたら……という思いもあったので。批判もあるのは当然ですが、話題になる可能性もあったので」と言う。

 学生たちは批判覚悟で“確信犯的”にこのポスターを作った。狙いは的中。大学生ながら、学業よりもサッカーを取ることを宣言するポスターは話題となり、議論を巻き起こした。普段は目にするはずがない人々が関東大学サッカーリーグが4月15日に開幕したことを知った。一部の大学では掲出が認められないなどの事態があったようだが、多くの人の目に留めるモノを作り上げ、ひとつの“成功”を収めた。

 そもそも実際に学業を疎かにしている集団だったのならば、『単位より、順位。』という言葉は、オトナたちの手によって阻止され、絶対に採用されないだろう。それでも承諾されたのは「大学サッカー=教育の場」という共通意識が加盟校全体に根付いているからに他ならない。

 “プロ予備軍”と言われる大学サッカーだが、あくまで教育の延長線上にある。インカレ覇者・筑波大の小井土正亮監督が「筑波大では単位を取るというのは当たり前の基準。あくまでそれに加えて、サッカーをやっているというスタンス」と言うとおりだ。流通経済大の中野雄二監督もかねてから「大学サッカーは人間教育の場」と言い、「人としての成長がなければ、サッカー選手として成長するわけがない」と言い切る。

 またかつてジュビロ磐田を率いた日本体育大鈴木政一監督も「アマチュアの環境のなかで、どこまでプロに近づけるのか、プロ選手はどういう選手のことをいうのか。サッカーだけでなく人格の部分も含めて、大学の制限がある環境のなかでそういうのを見に着けていくことが大事」と説く。サッカーだけをやっているチームは関東大学サッカー連盟にはいない。

 では、実際にこのポスターを各校の指導者はどう見たか。明治大の栗田大輔監督は「いやいや、順位より単位だろと思いましたよ」と苦笑い。「それでも学生が考えたことですし、語呂で選んだのもあるのかなと。(学生の)気持ちは分かります」と理解を示す。筑波大の小井土監督は「もう少し言葉がなかったのかな」と言いつつも、「学生たちが色々と考えたんでしょう」と気遣った。学業にも励んでいると知っているからこそ、工夫を凝らした学生たちの選択を尊重する。

 選手たちはどう感じているのか。磐田内定のFW中野誠也(筑波大4年=磐田U-18)は「自分は筑波大なので、単位を取るのは当たり前。そういうなかで“単位より順位”という考えがあってもおかしくないと思います。両方にしっかり取り組んだなかで、どちらかといえば順位を優先させるというのはおかしなことではないと思うので」と語った。

 建前ばかりのキレイなだけの言葉が並んでいても、人の心は動かせない。学連の大学生たちはリスクを承知で“攻めた”言葉を選び、見守るオトナたちはこれを尊重した。実際に『単位より、順位。』というパワーワードに一部の人々は翻弄され、議論している。批判は批判として受け止めつつ、広報として例年以上にポスターが認知されたことはひとつの成功。これまでも、これからも、大学サッカーの認知度向上へ学生たちは取り組み続ける。

(取材・文 片岡涼)

●第91回関東大学1部L特集

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