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「東京五輪への推薦状」第38回:J入りの“異能”に迫る“万能”山下勇希。「パスだけじゃない」新・昌平のシンボル

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昌平高MF山下勇希がドリブルで運んで二人を引き付けながらパス

 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 “弱いパス”を使えるボランチは良いボランチだ。攻撃を加速させるパススピードの速さが強く求められるようになった現代サッカーだからこそ、あえて弱く蹴るパスが威力を発揮することもある。攻撃をあえて減速させて緩急を作ることもあれば、取れそうで取れない弱いパスで相手DFを釣り出しておいてから仕掛けることもある。Jリーグでは名手・遠藤保仁も得意とするところである。もちろん、失敗するとリスキーなプレーでしかないのだが、ポゼッションスタイルで勝ち切るために“弱いパス”の使い手は不可欠とも言える。パスの強弱は受け手へのメッセージにもなるからだ。

 昌平高のボランチ、山下勇希はこうした“弱いパス”にあえてチャレンジしているのが印象的な選手だ。斜めに付けるパスを小粋に入れたかと思えば、トリッキーなノールックパスを通すこともあり、そのパスの発想を観ているだけでも十分に面白い。パスの強弱にメッセージを込めることも、さらりとやってのける。そのプレーぶりは昨季昌平の司令塔として名を馳せた針谷岳晃(磐田)を自然と彷彿させるもので、本人もその影響は認めるところ。偉大な先輩の背中を観ながら、盗めるプレーを盗んできた成果が今年に入って出て来ている。

 もっとも、針谷のコピーと呼ぶには少しタイプが違う。昨季は主にサイドハーフでプレーしており、そこで際立っていたのはパスよりもドリブルのセンス。「ボールを運ぶ力は針谷よりもある」と藤島崇之監督が評価するように、ボランチでプレーしているときも少しのスペースを利用してボールを縦方向に運べるプレーから変化を生み出していく。運動量も豊富で、球際の潰しもアグレッシブ。キックの精度やバリエーションという意味では“異能”と言うほかなかった針谷に見劣りするが、より“万能”なのは山下だろう。

「今年はパス、パス“だけ”にならないようにしたい」と指揮官が意識するのも山下の万能性に代表される「パワフルさは昨年よりある」と言う今年のチームの特長を考えてのもの。山下も「紅白戦をやってもどちらが勝つか分からない。本当にいい選手が多い」と仕上がりに胸を張るチームと共に、昨季を超える躍進を目指す。4月30日には、昨季のチームが為し得なかった関東大会埼玉県予選の制覇を達成、「まず県内5冠を目指す」と目標は明瞭だ。

 その上で意識するのは、「チームとして結果を出せば付いてくると思う」と語るプロ入りと代表入り。U-17関東トレーニングキャンプに招集されるなど、代表入りの一歩手前までは来ており、プロのスカウトからも注目されるようにはなってきた。あとはもう一段のスキルアップを図りながら、チームとしても結果を積み上げるのみ。かつてFW玉田圭司(名古屋)らを擁するド派手なタレント集団だった習志野のハンドルを握って全国を沸かせた藤島監督の新たな門下生が、今年もまた夢をつかむための挑戦のシーズンを戦っている。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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