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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:リョンジェとヒョンジェ(東京朝鮮高・リ・リョンジェ、リ・ヒョンジェ)

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東京朝鮮高のリ・リョンジェ(左)とリ・ヒョンジェ

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「結構仲良いですね」という兄の言葉を伝えると、「そうですね。1回もケンカしたことないです」と弟も同調する。「お兄ちゃんがいい子みたいな感じで、クラス委員とかもやったりするのに対して、弟は弾けた感じで、バランスが取れているのかなと思います」と笑うのは東京朝鮮高を率いている姜宗鎭監督。リョンジェとヒョンジェ。双子の兄弟は家族への感謝を胸に、初めての全国を目指して日々奮闘を続けている。

 5月11日。T1リーグ第8節。東京朝鮮はリベンジマッチを迎えていた。相手の関東一高は2週間前の関東大会予選準々決勝で0-4と大敗を喫した相手。姜監督も「このタイミングでリベンジできるという意味で、『ポジティブに考えて勝ちに行こう』ということで準備をしてやりました」と話す一戦に並々ならぬ闘志を燃やしていたのが、左サイドバックを務めるリ・ヒョンジェだ。2週間前のゲームではオウンゴールで先制点を献上してしまい、結果的にチームも大敗。指揮官も「1人で戦っている訳ではないけど、『君にとっては凄くいい場面だろう』と今回試合の前にヒョンジェに声をかけた」そうだ。試合前日の練習で少し足を痛めていたが、当日の朝に出場を直訴。「オウンゴールしてしまったので、最低でも点を決められたらいいなと思って」リベンジのピッチへ向かう。

「前回は全然守備の部分で行けていない所もあったし、勇気を持ってできなかった」(姜監督)チームは、前半から戦う姿勢を打ち出しながら、互角以上の内容でゲームを進めていく中で、スコアが動いたのは後半20分。ムン・インジュが右から蹴ったFKに、ストライカーのリ・リョンジェが頭から飛び込む。

「『ひざ蹴りが入った』と思って倒れたらみんなが喜んでいて、ゴールを見たら入っていた」という先制点が記録されると、終盤は押し込まれながらも、何とかチーム全員で体を張って凌ぎ切り、試合はそのまま1-0でタイムアップ。弟がオウンゴールを喫してしまった相手へ、兄が決勝ゴールを叩き込むドラマチックな展開に、「僕も凄くカッコいいと思いました」と笑ったのはヒョンジェ。「家でも2人でよく話すんですけど、『オマエが決めないと後ろも厳しい』みたいな感じでよく弟に言われる」リョンジェが兄の威厳を示す格好で、見事にリベンジ達成。5月下旬から始まる総体予選に向けて、チームとしても弾みの付く勝利を手にすることに成功した。

 2人がサッカーを始めたのは幼稚園の頃。母親に「やってみたら?」と言われて、何となくボールを蹴り始めた。それから10年以上の時が経っているが、リョンジェとヒョンジェはずっと同じチームでプレーしている。「もともと僕はサイドハーフをやっていて、お兄ちゃんがフォワードをやっていました」と明かしたヒョンジェは、「僕のアシストでお兄ちゃんが決めたゴールもいっぱいありました」と嬉しそうに続ける。

 2人とも高校入学当初からフィジカルやスピードといった能力は目立っていたものの、姜監督が「周りが高校のレベルになってきて、今までやってきたことが通じなくなってきた部分もあったと思う」と指摘するように、昨年まではなかなかトップチームの公式戦に絡むことはできなかった。2月のT1リーグ開幕戦でもリョンジェはスタメン出場を果たすも、ヒョンジェの名前はベンチメンバーの中にも見当たらない。ただ、関東大会予選以降は兄がフォワード、弟が左サイドバックとして、同じピッチに立つ回数が増えてきた。

 前述したように性格は対照的だという。「弟の方からガツンと来るので、僕は受け止める感じです」とリョンジェが笑えば、「僕がガツガツしているのは間違いないです」とヒョンジェも笑顔を見せる。家ではだいたいサッカーの話をしている2人は、ピッチ上での意見が合わない時もしばしばあるらしい。それを「双子独特の息が合わない感じ」と表現したリョンジェの言葉もユニークだが、「裏でもらおうとしたのに、足元に出して来たりすることはよくあるので、『おい!』って言いたいんですけど、どうせこっちがまたガツッと言われるので、あまり言わないようにしています(笑)」と少し気を遣ってあげているあたりに、兄の優しさが見え隠れする。

 ちなみにヒョンジェにも“双子独特”だと感じていることがある。「練習だとマッチアップとかするじゃないですか。その時に兄にはあまり強く行けないです(笑) なんかちょっとやりにくいんです。それは昔からですね」。いろいろ考えてもやっぱりこの2人は、同じチームでプレーした方が良さそうだ。

 今年は高校生活ラストイヤー。ヒョンジェは「たぶん2人で一緒にサッカーをするのは今年が最後だと思います」と口にする。「今まで安くない授業料を出してくれたり、支えてきてくれたので、僕らはサッカーで家族に感謝の気持ちを伝えたいです」(リョンジェ)「『絶対サッカーをやりたい』と言った時も反対しないで、ちゃんと支えてくれて、良い家族だなと思います」(ヒョンジェ)。家族への感謝は兄も弟も人一倍強い。

 これからの目標をそれぞれに尋ねると、「僕たちの力で全国に行きたいと思います」(リョンジェ)「インターハイも選手権も全国に出て、東京朝高の名前をもっと全国に知らしめたいと思っています」(ヒョンジェ)とぴったり息が合った。家族はもちろん、今まで自分たちを支えてきてくれた方々に対し、何が最高の形の“感謝”に当たるかは、2人とも十分過ぎるぐらいわかっている。先輩たちが追い求め続け、それでも届かなかった悲願の全国へ。リョンジェとヒョンジェが仲間たちと立ち向かう未知への挑戦が、いよいよ幕を開ける。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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