beacon

「東京五輪への推薦状」第41回:高く、強く、鋭く、何より尖る左利き。清水ユースの怪物FW平墳迅

このエントリーをはてなブックマークに追加

清水エスパルスユースFW平墳迅

 2020年東京五輪まであと3年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 平墳(ひらつか)という姓は全国でも数百人程度しかいないそうだが、日本サッカー界において清水エスパルスユースFW平墳迅の持つ個性は姓と同様、いやそれ以上に稀少で貴重なものだろう。高く、強く、鋭く、何よりゴールに向かって尖っている上に、左利き。平墳が持つのはストライカーとしての個性だ。

 もっとも、平墳は高い評価を受けるまでには時間が必要だった選手でもある。岐阜県にいた中学時代までは無名というほどではないが、決して有名選手でもなかった。高校入学を前に受けた名古屋U18のセレクションは不合格。静岡県内の強豪私立校から誘いは来たものの、「Jユースでやりたかった」という平墳は可能性を探し、清水ユースのセレクションはまだ応募が残っていることを発見。迷わず名乗りを上げた。

 迎えたセレクション当日はゲーム形式でゴールを決めるなど自身は手ごたえもあったと言うが、清水ユース・平岡宏章監督は「評価は分かれていた」と率直に明かす。パワフルでゴールへ向かえるストライカーなのは間違いない一方、技術・戦術面でのつたなさも目に付いたからだ。清水ユースの基準の高さを考えれば自然なジャッジだったが、「タイプの違う選手も必要」という判断から合格となった。

 そして、この決断は吉と出た。当初はぎこちなさも目立ったが、徐々にチームへフィット。昨季までは周囲の度肝を抜くような凄まじいシュートを決めたかと思えば、「ずっと消えている試合もあった」(平岡監督)と波の大きさを感じさせていたものの、今季の彼は明らかに違う。特にトップチームデビューを果たしてからは、「ルヴァンに出てから変わった」(MF滝裕太)と周囲も驚くほどの変化を見せてきた。

 よりこだわるようになったというボールの収め方でポストワーカーとして機能しながら、「FWは一番ゴールの近くにいて、点を決めるポジションなので」とフィニッシュへのどん欲さは失わない。相手DFにとって何とも“怖い”選手へと進化を遂げてきた。

 自然、これまで縁のなかった年代別日本代表入りも見えてくる活躍ぶりだろう。本人は「これまで1回も入ったことがないので」と選ばれる基準に達しているのかという確信が抱けない様子だったが、「やるからには代表にも入りたい」と意欲自体は隠さない。

「(平墳は)たまたまセレクションに来てくれた選手だったのだけれど、いまは余裕をもって、自信を持ってやってくれている。この3か月か4か月くらいで凄く大きな刺激を受けて変わってきた」(平岡監督)

 日の丸を付けての国際経験というさらなる刺激を受けたとき、このタレントがさらに化ける可能性もあるのではないか。そんな期待感はあるが、何よりも平墳が持つ「もっと上手くなりたい」というシンプルな野心がそうした期待感の源泉にはある。その思いを平墳が保ち続けている限り、自ずと道は開けていきそうだ。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
▼関連リンク
東京五輪への推薦状 by 川端暁彦一覧へ

TOP