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アメリカ・サッカー留学の可能性 IMGアカデミーの最先端トレーニングに迫る Vol.1

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IMGアカデミーを体験した元日本代表FWの高原直泰氏と沖縄SVジュニアの當山颯琉

IMGアカデミーは“プロ養成所”なのか!?

 錦織圭を輩出したことでテニスの世界では有名になったIMGアカデミー。中学生、高校生を主なターゲットとし、短期キャンプや長期留学のプログラムを提供している。しかし、テニス以外の競技も盛んに行われており、近年は特にサッカープログラムも充実、拡大している。アメリカ・フロリダ州で行われている最先端のトレーニングとはどんなものなのか。世界トップ選手の育成はもちろん、驚異の大学進学率を誇るという学校を元日本代表FWの高原直泰氏が訪れ、その秘密に迫った。


 1978年に世界初となる全寮制のテニスアカデミーとしてスタートし、これまでに数々のトップ選手を輩出してきたIMGアカデミー。卒業生である錦織圭の活躍で日本でも認知は広がっているが、そのメソッドは80年代後半から他の競技にも拡大し、野球やバスケットボール、そしてサッカーのプログラムでも大きな成果を上げている。

 果たしてIMGアカデミーとはどんな場所なのか。元日本代表FWで現在は沖縄SVで選手兼監督として活躍する高原氏が現地に滞在し、そのトレーニングを体験。また、自身のチームからジュニアの當山颯琉(とうやま・そうる)も実際に1週間、キャンプに参加してみた。短期連載の第1回では、まずは実際にトレーニングを目にした印象を高原氏に語ってもらった。

―現地で実際にトレーニングを見て、全体的な印象を聞かせてください。
「まず選手たちに対して“海外の子だな”という印象を持ちました。日本人とはやっぱり違います。(サッカーの)スキルよりも、パーソナリティーが特に違いますね。フレンドリーだし、積極性がある」

―2016-17年度の実績として、世界中の85か国から選手が長期留学、短期キャンプに参加しました。日本の環境とは違い、多様なバックグラウンドを持った選手が集まっています。
「日本にいれば、どうしても日本人同士のコミュニケーションに限られますからね。もちろん、その中でもいろいろなタイプの子がいるけれど、海外の子と比べると日本の選手たちは全体的には内気だったり、個性を表現するまでに時間がかかったりするケースは多いと思います。それでも、日本語で話ができればなんとかなる。言葉が通じない環境に置かれると、自分を出すのが苦手な選手が多いと感じています」

―IMGアカデミーのキャンパスでは基本言語が英語になりますが、スペイン語やその他の言語も飛び交っています。ただ、細かく会話を交わすというよりは、とにかく“Yes!”と言ってアピールするなど、とてもシンプルなやり方です。
「世界で戦うには、待っているだけではダメですから。自分で言葉なり声を発してボールを呼び込まないといけない。日本の選手は足元のテクニックは優れているんですけど、それだけでは勝てない」

―何か欠けている、ということですね?
「“技術がある=良い選手”とはならないんですよ。日本人には上手い選手はたくさんいるけれど、良い選手ばかりかと言うとそうじゃない。ピッチで気持ちを出して、自分を表現できるかどうか。特に育成年代では個々の能力よりもチームで機能することが大事だったりしますから、自分がどこでボールが欲しいのか、何が得意なのかを分かってもらわないといけない」

国際的な環境にあるキャンパスには世界85か国から選手が集まっている

―短期キャンプや長期留学に参加した日本人の感想としては、外国の選手たちは練習中でも足を削ってきますし、積極的なプレーが多いようですね。
「実際の試合では、そういう状況でプレーしますからね。練習の段階で飛び込んでいけないなら、ゲームでいこうと思ってもできない。練習のための練習ではなく、試合で活かすための練習ができるかどうか。戦う意思が足りていないという声は、A代表でもよく聞かれます。僕がドイツでプレーしていたときはむしろ練習の方が(当たりが)激しかった。練習中から技術的なものだけではなく、どれだけゲームを意識してやれるか。やっぱり育成年代からそれが“当たり前”になっているかどうかが大事なんでしょうね」

―なるほど。
「もう一つ、選手の問題ではなく、練習環境の違いも大きいです。日本なら、ほとんどの場合は土か人工芝で練習するので、たとえばスライディングがヘタクソだとか以前から言われています。IMGアカデミーは恵まれていますよ。すべて天然芝で16面もフィールドがありますから、常に試合を想定できる環境です」

16面のサッカーフィールドのほか、55面のテニスコートなど、合わせると東京ドーム50個分以上になる広大なキャンパス

―環境が恵まれすぎている、ということはないですか? ハングリー精神が磨かれないとか、工夫が生まれないとか、マイナスな部分はないでしょうか。
「そこは問題ではないです。本人が意識を持ってトレーニングできるか、なので。意識があっても、それを活かす環境がなければどうしようもないですから。自分次第でいくらでもできる環境があるのは素晴らしいです。ただ、“自覚を持って取り組ませる”というのがなかなか難しいかもしれないですが……」

―コーチのあり方も問われますね。
「練習を見ていて子供に対するアプローチの仕方は違うと感じました。日本では基礎技術をとにかく徹底的に教え込むので、足元が海外の子より上手い選手が多い。ただ、サッカーはボールを持っていない時間の方が多いので、状況を読んで動いて、どうポジションを取るかが大事です。基本的な理論は教えられますが、やっぱり自分で考えて行動することを養わないといけない」

―IMGのコーチは練習中に生徒によく問いかけます。自身がどう考えているか、常に意識させるようにしています。
「正しいと思います。サッカーでは同じシーンが二度とないので、対応するには“今”、何をすべきなのか、その判断力が問われますよね。攻撃、守備と状況がめまぐるしく変わるので、瞬時に判断しないといけない。言われたことだけやるのでは選手としてはいずれ壁にぶつかるでしょう」

―一般的な話として英語と日本語の違いもあるかもしれませんが、英語でのコミュニケーションは基本的に話し手が責任を持ちます。聞き手が察する、というようなカルチャーもないので、何かを発信する側が積極的に自分を表現しないと分かってもらえません。
「我を出さないとボールは来ないどころか、プレーに絡むこともできないですよね。これは感覚的な問題でもあるので、早い年齢で体験できるかは大きいと個人的には思います。小学、中学、高校と、どの段階で感覚的に理解できるかによって、成長の仕方が違うと感じます。もちろん若い年代にすべて考えさせるのは難しいですし、ある程度、指導者がリードはしないといけないと思います。IMGのコーチも自主性は尊重しながらもケツを叩くべきところはしっかりそうしていたので、バランスがとても良いように感じました」

―今回は沖縄SVから中学2年生の當山颯琉君が実際にキャンプに参加してくれました。フライトも一緒だったと思いますが、どんな様子でしたか?
「だいぶ緊張していましたね」

―キャンプ初日、オリエンテーションのときの写真を見るとその感じが伝わってきます。
「ちょっと、おじいちゃんみたいに見えますね……どこか申し訳なさそうな雰囲気を出してます(笑)」

毎週月曜に行われるオリエンテーションで他のキャンパーと初顔合わせ。緊張する當山は写真前列右から2番目

―確かに(笑)。言葉の壁も大きかったのかもしれません。
「日本にいるときは自分でゲームを作ろうとするタイプですけど、初日の練習ではボール回しをしているときに当たり障りのない場所にいたり、フィールドの外に逃げるような形になったり、消極的でしたね」

―フィールドでも寮生活でも基本的には英語でのコミュニケーションなので慣れない環境なのは間違いないですね。
「寮で同じ部屋になった子とは仲良くなったみたいですよ。さっきすれ違って、手を振り合ってましたね」

―練習で一緒だったイタリアから来た子ともだいぶ打ち解けていたようですね。週も後半になってから撮影した写真がこれです。練習中にコーチが選手を集めたときで、輪の中でも前の方に出ていました。
「顔つきもだいぶ変わりましたね。1週間のキャンプなので短い期間ですけど、非常にいい体験ですよね。うらやましいですよ。自分が最初に海外に出たのはU-15のときでしたし、日本のチームとして行ったのであくまで日本人と行動を共にしてましたから。世界中から集まった選手たちに囲まれたチームに放り込まれて、言葉ができないなりにも友達ができて……。サッカーを抜きにしてもかなり大きな経験になったと思います」

練習後のミーティング風景。1週間経って精悍な顔つきになった

―フィジカル系のトレーニングなどサッカー以外のプログラムにも参加してもらいました。
「率直に言って、施設がすごい(笑)。設備という意味もありますが、フィジカルトレーニングのデータがしっかり管理されていたり、サッカーコーチだけじゃなく、それぞれの専門家がサポートしていたり……。日本の環境と比べると本当にうらやましいですよ。ジュニアの代表クラスが受ける内容も、ここまではそろっていないでしょう。プロチームでも用意できないレベルです。Jリーグのチームが一部でハートレートモニターを使ってパフォーマンスを記録していたり、データ分析を取り入れたりしていますが、サッカー界全体の話ではなくて、まだ個々の意識の高い人やチームが実施している程度だと思います」

―いわゆる科学的なアプローチと言われるトレーニングは日本でも求められていますか? データよりも根性論が根強いなど感じたりはしますか?
「設備をそろえる資金さえあれば、やりたいと考えていると思いますよ。特にプロやトップの選手でなく育成年代で取り入れたいんじゃないですかね。自分の場合はドイツに行ってから特に意識が変わったんですが、100%の状態かどうか、そこに近づけるために何をすればいいか自覚して、たとえばアスレチックトレーナーなどと相談しながら積極的に把握します。データも大事ですが、それがなくとも身体の違和感や状態をプロだったら自分で理解しないと、でしょう。でも育成年代では、そこまで理解しろというのもまだ難しいでしょうから、客観的なデータも見せながら管理していくのはとても有効だと思います」

データを元にトレーニングメニューを確認するサッカーコーチとフィジカルトレーナー

トレーニングに設置されたデータ管理パネル。長期留学生の場合、一人ひとりの情報が個別に蓄積され、それに基づいて指導を受ける

サッカーのスキル系練習のほか、スピード/モーブメントトレーニングも専門のエキスパートにより行われる

―他にIMGアカデミー全体に対して持った印象などありますか?
「基本的な考え方として、ここは“学校”なんですよね。来る前はIMGアカデミーに対してどうしても“プロの養成施設”というイメージが強かった。錦織圭選手の印象が強いのもあって、ここに来るのが“プロへの近道”というか。でも実際に来てみると、もちろんそういうエリート選手もいるけれど、まず学校であって、人間形成を大事にしているという意味では、印象はだいぶ変わりました」

―「錦織圭選手のようになれますか?」という質問を受けることもあります。
「競技問わず、トップを目指すトレーニング環境は間違いなくそろっていると思います。でも、それだけではない。学校で勉強するし、世界中の子供たちと接して人として成長する。日本の選手がここに来ると、まず言葉の壁が大きくあって、それを克服していくだけでも大きな成長になると思うんですよ。錦織選手だってテニスだけじゃなく人間形成という意味でもこの環境が合っていたんじゃないでしょうか」

―来た当初はもちろん英語もできないので苦労したのは間違いないです。
「スポーツと勉強、人間形成とがなかなか結びつかない日本で、認識を変えるのは少し難しいかもしれません。自分のチームの子たちによく言うんですけど、“バカではサッカーができないよ”と。単純に数学とか勉強ができるということではなくて、自分の頭を使って考えられるようにならないとサッカーは上手くならない。人にやらされるだけではダメだし、練習一つとっても、なぜその練習をするのか自覚しながらやらないといけません。“なぜ?”を常に持たないと、成長しない。スポーツ選手としてだけでなく、まずは人として成長するのが大事ですし、IMGアカデミーにはその環境が十分あると思いました」


同じ敷地内にある学校施設。教室は15名以内と少人数制。勉強そのものの他、コミュニケーションスキルが磨かれやすい環境になっている


 明日更新の第2回ではサッカーからフィジカル、メンタルやビジョントレーニングまでIMGアカデミーのプログラムに高原氏が実際に参加した体験談を紹介します。

※IMGアカデミーでは1週間単位で年中どのタイミングでも参加できる短期キャンプ、アメリカの高校卒業と大学進学を目指す長期留学などを提供しています。また資料の送付や無料のカウンセリングも受け付けています。興味のある方は以下のIMGアカデミー日本窓口にお問い合わせください。
メール:imgajapan@img.com
電話:03-6758-7891
日本語公式サイト: https://www.imgacademy.jp/

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