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[MOM2178]日大藤沢MF菊地大智(3年)_度胸満点。後半終了1分前投入の「戦う男」がAT同点弾!

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後半アディショナルタイムに劇的同点弾を決めた日大藤沢高MF菊地大智。(写真協力=高校サッカー年鑑)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[8.3 総体準決勝 日大藤沢高 1-1(PK5-3) 市立船橋高 みやぎ生協めぐみ野サッカー場Aグラウンド]

 ベンチに呼ばれた時点で時計の針はすでに終了の35分に迫りつつあった。実際に投入されたのは後半34分のこと。だがそれでも、日大藤沢高MF菊地大智(3年)は燃えていた。

「こんな時間じゃボールまったく来ないかもしれないなとは思ったけれど、ここまで全然使ってもらえなかったし、『見返してやる!』という気持ちはあった。GK丸山洋平とDF栫俊輔も全然出られていなかったので、『あの二人の分もやってやる』と思ってピッチに立った」(菊地)

 佐藤輝勝監督は理詰めの判断から菊地を投入した――というわけでは必ずしもなかった。もちろん戦術的な理屈はあったのだが、決断を促したのは「やってくれるかもしれない」と感じた、指導者としてのもっと直観的な部分だ。

「実を言うと、試合前のミーティングをするために僕がロッカールームへ入ったとき、菊地は寝ていたんですよ。思わず笑っちゃいそうになりましたね。でも『こいつ、本当に度胸あるなあ』と(笑)。だから最後の3分か5分か、そのくらいを彼に託しましたし、PK戦の5番手に指名したのも、その様子を観ていたからなんです」(佐藤監督)

 そこで笑ってしまう佐藤監督の度量もすごいが、それに応えた菊地も確かに非凡だった。アディショナルタイムのラストプレーで巡ってきたのは、GKが蹴ったボールが跳ね返されて戻って来たその場面。慎重にいきたくなっても不思議はないが、「相手DFとの距離も近かったし、とりあえず打ってみようと思い切り蹴ってみた」(菊地)と迷うことなくシュートを選んだ。

「(シュートの)軌道を観て、『これは入る』と思った」と言うDF安松元気主将(3年)は、「あそこでビビるようなやつじゃないですよ。戦う男で、投入されたあとの一発目のプレーはファウルに行くようなタイプ」と笑う。市船守備陣も見送るしかなかったシュートがゴールネットを揺らし、歓喜の輪が弾けた。

 このシーンについて「本当はよく覚えていない」と言った菊地は、迎えたPK戦でも「むしろ絶対に蹴りたいと思っていたし、自信もあった。1番手をやらせてほしかったくらい」と至って強気。5番手として見事なキックを見せて決勝進出をたぐり寄せると、「気持ち良すぎて泣きそうだった」と歓喜に震えた。

「いまは本当に全員で戦っている感覚がある」と語ったのは安松主将だが、菊地も「応援組には『なんでこいつがベンチにも入れないんだ』と思える選手がたくさんいる。そんな選手たちが本気でこっちを応援してくれていて、あいつらの気持ちを感じられていたから、あのシュートも入ったと思う」と胸を張った。

 日替わりヒーローが現われてチームを救っていく今大会の日大藤沢。前年度王者を向こうに回しての準決勝でも、ここまで活躍の場がなかった男が全員の思いを背負ったシュートを叩き込んで、勝利をたぐり寄せてみせた。

(取材・文 川端暁彦)
●【特設】高校総体2017

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