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金メダル獲得のユニバ代表、重廣、柴戸、鈴木に聞く!! 世界一までの道とこれから

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柴戸(左)、重廣、鈴木を単独インタビュー

 『学生スポーツの五輪』と呼ばれる第29回ユニバーシアード競技大会の男子サッカーは、ユニバーシアード日本代表が3大会ぶり6回目の優勝を飾って幕を閉じた。

 決勝戦から一夜明けた30日、主将のMF重廣卓也(阪南大4年=広島皆実高・京都内定)、副主将のMF柴戸海(明治大4年=市立船橋高・浦和内定)、DF鈴木準弥(早稲田大4年=清水ユース)の3人に単独インタビューを行い、大会を振り返ってもらった。

――優勝おめでとうございます。一夜明けましたが改めて大会を振り返って。

重廣:6試合を通して、個人的にも、チームとしても、一人ひとりが成長できたかなと思いますし、チームが一丸になったことで優勝にたどり着いたのかなと思います。

柴戸:チームの雰囲気も一人ひとりの意識も、優勝するチームの雰囲気や勢いがあったと思います。この経験を生かして、次のステージでもレベルアップしていきたいと思いました。

鈴木:個人的には、もっと良いパフォーマンスを見せられたら良かったなと思うところがありますけど、2人が言ったように、チームが本当に試合を重ねる毎に強くなっていったので、どこが相手でも負ける気がしませんでした。自信を持ってピッチに迎えたと思います。チームとしては最高の結果が出て、良かったです。

――大会のMVPを選んでいただけますか。

重廣:えーっ、1人ですよね? うーん……。

柴戸:オレはシゲ(重廣)です。このチームは(2年前の)立ち上げから「勝てないチーム」と言われて来ましたけど、その悔しさを一番感じていたと思います。試合に勝った後の涙を見たら、本当に苦労して来たんだなと思いましたし、このチームが結果を残すために人一倍努力して来たんだと思ったので。

重廣:泣けるよ、柴戸君(笑)僕は祥郎(戸嶋祥郎)と坂(坂圭祐)かな。2人になっちゃいますけど、バックアップメンバーから(大会1か月前に)追加招集された2人は、チームに馴染むのが難しかったと思います。同じ関東リーグの大学の選手はある程度知っていたと思いますけど、関西とか九州の大学のメンバーのことは知らなかったでしょうし。

 それでも、決勝ではサチが決勝点をアシストしたり、坂がハイボールをバンバン弾き返してくれたり、自分の力を出してくれたかなと思います。僕は、この2人にMVPをあげたいです。

鈴木:う~ん、これ、難しいな……。
重廣:「全員」って言っていいよ。

鈴木:間違いなく、全員ですよ(笑)。誰か一人が目立った大会じゃなかったと思うんです、本当に。誠也(中野誠也)とかジャメ(ジャーメイン良)が一人でバンバン点を取ってMVPという大会ではなかったし、シゲが言ったように、サチとかがボールを追ってくれて、相手GKからボールを奪ってパスをした場面もありましたし、本当にチームのために、誰が点を取っても良いという気持ちで全員がプレーできていました。一人は選べないです。

――今大会は、1日ごとに試合が行われる連戦を考慮して、試合毎に大幅に選手を入れ替えるターンオーバー制を採用しましたが、やりにくい点はなかったですか?

重廣:良い判断だったんじゃないかと思います。相手はメンバーを固定して来ますけど、僕らは総力戦。それぞれが高いレベルにあるし、スタッフも選手も、みんなを信じて戦っていました。次の試合につなげるために、それぞれの立場で頑張っていたので、良かったと思います。

鈴木:部分的にセンターバック2人の組み合わせなどは考慮された中での起用だったので、やりにくさはなかったですね。現地に来る前に、いろいろな組み合わせを試したから、自信を持って採用できたんじゃないかと思います。

――今日は3人に来ていただきましたが、他のメンバーについての話も教えて下さい。

重廣:台湾に来ているメンバーじゃないですけど、決勝戦の前に、今津(今津佑太※全日本大学選抜のメンバーだったが負傷で離脱)がチーム全員宛にメッセージをくれました。輝一(矢島輝一 ※同じく負傷で離脱)もそれぞれにLINEでメッセージを送ってくれていて、すごく応援してくれていました。

 モチベーションビデオの中には、過去に一緒に戦って来たメンバーも映っていて、みんなで一緒に戦って来たから、戦えない奴の分まで頑張ろうと思いました。

鈴木:祥郎(戸嶋)は、チームの荷物を運ぶ時も一番重い物を持っていましたね。それも最初だけじゃなくて、大会中ずっと、そういう姿勢でした。試合の後も、出場してもしなくても変わらずに、片付けは率先してやっていました。

 このチームには、そういう真面目な奴が少ないけど、みんなが面倒に思うようなことを率先してやってくれたのは良かったですね。祥郎はそれがプレーにも良い形でつながっていたと思います。チームに良い風を吹かしてくれたと思います。

柴戸:僕は、ヒデ(守田英正)と同じポジションで、ヒデに負けたくないと思いながらやって来ました。ヒデがどう思っているか分からないですけど、ライバルと思っていたので、ヒデのおかげで互いにレベルアップできたと感じています。

重廣:2人とも相手からボールを奪うのが得意な選手ですけど、すごく良い関係でした。準決勝のメキシコ戦は、ベンチでヒデと並んで試合を見ていたんですけど(柴戸が)すごくボールを奪っていたので、ヒデは応援をしながらも嫉妬をしていたというか「オレ、まだまだだな。海(柴戸)の方が……」と言っていたのを聞いていて、今は(柴戸から)そういう話を聞いたので、こういうのが本当に成長し合える関係なんだなと思います。

――優勝という目標を達成できたわけですが、ターニングポイントを挙げるとしたら?

鈴木:福島県のいわきでの最終合宿ですかね。いよいよ本大会が始まるという時期に(東北大震災の)被災地に行くとか今までにはなかった経験をして、自分たちは大学生の代表だけど、いろいろな人の気持ちを背負って、国を背負って戦わなくてはいけないと思いましたし、応援してくれる人が日本中にいるんだということを大会に入る前に認識できたのは、大きな経験だったと思います。

重廣:試合前に見るモチベーションビデオかな。児玉さん(児玉進二GKコーチ、福岡大)を中心に作ってくれていたものなんですけど、スタッフの思いが込められていて、選手が感じ取ってピッチで表現するということが毎試合できていたかなと思います。

柴戸:デンソーカップチャレンジ(2016年2月、1回戦で北海道・東北選抜にPK戦の末に敗戦。今年2月の大会も決勝戦で関東選抜Aに●1-2)とか3月の日韓戦(デンソーカップ大学日韓定期戦。全韓国大学選抜に●1-2)で負けたことも、このチームを強くしてくれたと思います。タイトルを取っていないという危機感があって、大会中も「タイトルを取れていないから、世界一になって見返そうぜ」という声が出ていました。

――優勝の瞬間以外で、大会で一番印象に残っているシーンを教えて下さい。

柴戸:準々決勝のイタリア戦ですね(※イタリアは、試合開始2分で退場者を出した上に失点。その後、リードを広げられると反撃せず、攻め続ける日本に対して「もう攻めるな、十分だろう」という態度を示した)。

 僕は途中から試合に出たんですけど、本当にあり得ない、悔しさを感じました。日本人だったら6点差でも諦めませんし「点を決めるな」なんて態度は取りません。文化の違いがあるにしても、悔しいというか、怒りを覚えました。今大会で一番、印象に残っています。こんな選手やチームもあるのかと思いましたけど、僕は絶対にこんなふうにはなりたくないと思いました。

 イタリアは、以前は“カテナチオ”と呼ばれるような伝統を持った国。それでも、試合の立ち上がりのちょっとしたことでチームが崩壊してしまうんだと感じたので、日ごろから意識して取り組まないと、自分もいつかそんな感覚になる日が来てしまうのかもしれないとも思ったので、イタリア戦で学んだことは多かったです。メキシコ戦で個人的に良いパフォーマンスを出せたのは、イタリア戦の悔しさをぶつけられたからだと思います。

鈴木:サッカーの中では、自分が出場した準決勝のメキシコ戦だったり、決勝のフランス戦で優勝を喜んだことだったりしますけど、それ以外では、宮崎監督の言葉が印象に残っています。普段、あまり士気を上げるような声をしきりにかけるスタイルじゃなくて、選手が自分たちで自由にできる環境を作ってくれました。

 その中で、どの試合だったかちょっと忘れてしまったんですけど、試合の日の朝に、この大会は駅伝に似ているという話をしてくれました。僕たちは、ターンオーバー制を使って20人全員で勝ちに行くというところで、1試合毎に次の試合に出るメンバーに襷をつないでいくんだという話をしてくれたのは、すごく印象に残っていますし、チームとして全員で戦う意識をあらためて強く持てたと感じました。

重廣:あの話は、めっちゃ印象的。ウルグアイ戦の次だっけ? あれ、何の試合だった? 場所も覚えているんだけどな……。熊の人形(大会マスコット像)の裏で話したときだよね。

鈴木:そうそう。初戦じゃなかったと思うな。
柴戸:カナダ戦の前?後?

重廣:カナダ戦の前か後のどっちかです、多分(笑)

――外から見た率直な意見ですが、皆さんが普段戦っているリーグや大会と比べて、ユニバーシアードの参加チームのレベルが格段に高いという印象は受けませんでした。ただ、国際大会ならではの難しさなどはあるのかなと感じましたが、いかがですか?

鈴木:うーん、確かに。でも、準決勝のメキシコとか、決勝のフランスは、ある程度レベルが高かったと思います。相手に色々な特徴はありましたけど、そんなに気にしないかな……。

重廣:日本人はすごく真面目だし、頑張るし、諦めない。常に本気。僕たちは普段から、そういう環境でプレーができています。それに比べれば、緩さや隙が見えて来るし、そこを突けたからファーストステージなどで点差をつけて勝てる試合があったのだと思います。

――ユニバーシアードは、皆さんにとっては国際大会を経験する貴重な機会だったと思いますが、どのような特徴を感じましたか?

重廣:国際交流ができるところですね。選手村の中で、片言の英語を使って会話をしたり、バッジを交換したり。日本では経験できないことなので。ピッチ外では、特に日本代表だからと背負うこともなく、普通に交流を楽しめていました。

柴戸:全チームが選手村にいるので、対戦した相手チームの選手が顔を覚えていてくれて「頑張れよ」という感じで声をかけてくれたこともありました。貴重な経験でしたし、楽しかったです。

――選手村はどうでしたか。選手ミーティングなども行ったのでしょうか?

重廣:選手村の雰囲気自体は、前回と変わらなかったです。大会中にみんなで固まって話すことは、あまりなかったですね。同じポジションの選手が話すくらいでした。国内にいるときの方が話しました。

柴戸:選手村の部屋が結構、大人数だったので、同じ部屋の仲間で話すことは多かったですし、連係はうまく取れていたと思います。

重廣:6人、7人、7人で3部屋だったんです。

――ピッチ外の話をもう少し聞かせて下さい。決勝戦の朝、選手村の前にある林口社区運動公園のゴミ拾いをしたそうですね。

鈴木:大会が終盤に差し掛かって来て、あの公園は、試合の終わった外国の選手たちが飲食をしたり、騒いだりしていました。それで、かなりゴミが出ていたようで、監督の宮崎さんが「お世話になった場所だから、開催地への感謝の気持ちを込めて、掃除をしよう」と言って、全員でやりました。

――坂選手が「そういう行いが運につながった」という話をしていました

重廣:「運」拾いですよ。みんな「運を拾おう」と言いながら、やっていました。決勝に向けて、良い運が回ってくればと思っていました。

柴戸:回ってきましたね。「勝負は細部に宿る」とも言っていましたから(笑)。ちょっとしたことでも世界大会では大事になるのかなと感じました。

――最後に、今回のユニバーシアード優勝という経験を、それぞれの今後にどのようにつなげていきたいか教えて下さい。

重廣:自分の特徴(運動量)はこれからも出し続けないといけないですけど、この大会で、攻撃面のラストパスの精度を上げるとか、シュートももっと積極的に狙うとか課題を感じました。阪南大に戻れば、また自分の役割は少し変わると思いますけど、得点やアシストといった数字にこだわりながら、課題にしっかりと向き合いたいと思います。

柴戸:ユニバーシアードでは、同じポジションの仲間から刺激を受けましたし、大会を通して色々なプレーも見られたので、もっと自分をレベルアップさせたいと思います。今年は、明治大で3冠(総理大臣杯、関東リーグ、全日本大学選手権)を獲るという目標を掲げていて、まったくぶれていません。9月1日から総理大臣杯が始まるので、僕は昨日の時点で気持ちを切り替えました。

 プロになってから大事な部分もあると思いますけど、プロになるまで成長させてくれた明治大に感謝しているので、まずは、絶対に3冠を獲るという気持ちでどこまで突き詰められるかやっていきたいですし、大学で結果を出してから、浦和で活躍していきたいと思っています。

鈴木:今回のメンバーは、大学のトップクラスの20人。今後、Jリーグで活躍する選手も出て来ると思います。そういう人たちと一緒にプレーすることで、自分も上手くやれてしまう部分があったと思いますけど、同じような状況ばかりではないので、どんな状況でも自分自身が高い意識で、高いパフォーマンスを望んでいきたいと思います。

 僕は1年生の頃から試合に出られるような選手ではなかったですけど、このチームに選んでもらって、学ぶことは多かったです。みんなの進路(プロ内定)が決まって行く中で、自分はまだ決められていないという部分は悔しい。だけど、これからは、みんながバラバラになって敵になる。個人でどれだけ戦って行けるかと考えたときに「海に負けない、シゲに負けない」と、ポジションに関係なく、19人の誰よりも活躍したいと思うし、良い仲間は良いライバルでもあると思います。

 誰かがJリーグで活躍すれば、刺激になる。天馬(松田天馬・湘南内定)が特別指定選手としてJリーグに出たとか、ジャーメインが(内定先の仙台のPSMで)点を決めたとか聞けば、嬉しいけど、悔しい。自分もみんなに与えられるようになって、一緒に成長していきたいです。

 最終的に、今回のメンバーの中から少しでも多くの人数がA代表で日の丸を背負って一緒に戦うということは、目標。そのために、僕はまず、早稲田大の1部昇格を果たして、プロに行けるようにと、一つひとつやっていきたいです。

――ユニバーシアード経由のフル代表入り、期待しています。
重廣:みんな、そこを目指していますからね!

(取材・文 平野貴也)
●ユニバーシアード競技大会2017特集

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