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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第75回:運営は大変だ

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12日、鈴鹿会場の準決勝で電光掲示板を準備する運営スタッフ

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 大会を付きっきりで見るのは、コアなサッカー観戦者でも難しい。応援しているチームが最後まで勝ち上がり、結果的に継続して見ることはあるかもしれないが、それぞれに仕事や学業があり、毎日会場に通うのは簡単ではない。我々、取材者が目にしている光景は、希少かもしれない。

 三重県で開催された全国高校総体は、開会式を含めて8日間の日程で行われた。大会には、多くの地元関係者が、運営担当として携わっている。駐車場の案内、パンフレットの販売、ピッチやベンチの設営、会場の施設管理、ボールパーソン……ありとあらゆる場所に、ボランティアとして協力するスタッフの姿があった。

 当たり前に見えるかもしれない。ただ、積極的に取り組んでくれる人々の表情は嬉しい限りだが、自分たちが試合をするわけでもないのに酷暑の中で駆り出され、自分たちの時間を注がなければならないのだから、内心嫌々ながら……という人がいても不思議はない。心地よく大会を過ごしていけるのは、彼らの尽力があるからだ。

 12日の準決勝は、四日市市、鈴鹿市の両会場が雷雨に見舞われ、試合の中断を余儀なくされた。試合の中断、チームへの説明、試合再開までの手順確認と伝達、シャトルバスの時刻変更手続き……それだけでなく、観客の避難誘導も行わなければならない。鈴鹿市会場では一部が停電し、電光掲示板が止まったため、新たな時間表示計を用意した。マニュアル通りには進んでくれないものだ。鈴鹿市の会場では4時間半も中断して時間が遅くなったため、学生ボランティアを先に帰宅させていた。試合再開時には、ボールパーソンの年齢が大幅に高くなり、場内アナウンスも野太い声に変わった。「担当じゃない」などと言っていられない。

 あまり考えたくないことだが、試合中に選手が大ケガをしてしまうこともあり得るし、選手や観客が熱中症にかかることもある。普段は無縁な応急処置や救急車の要請などを行わなくてはならないケースもある。過密日程の問題を筆頭に、そもそもの設定が万全かと考えると課題はあるように思うが、現場は、とにかくトラブルを解決していかなくてはならない。誰も、大会運営のプロではなく、簡単ではない。

 それでも、ある運営担当者は、こう言って対応していた。

「何もないのが一番。試合の記憶だけが残ってくれたら良い」

 多くの人の記憶に残るのは、ピッチ上のシーンのみだが、その背景には、多くの人のサポートがある。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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