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JFL奈良が異例の新体制発表、欧州帰りの23歳をGM抜擢「2番目に好きなクラブを目指す」

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中川政七社長、矢部次郎副社長、林舞輝GM、幅允孝クリエイティブディレクター(写真左から)

 日本フットボールリーグ(JFL)の奈良クラブは9日、東京都内で『新体制&ビジョン発表会』を行い、新たな経営体制の狙いや目標を説明した。社長には株式会社中川政七商店の中川政七会長(44)が新たに就任。競技部門を統括するゼネラルマネジャー(GM)には、欧州での指導者経験を持つ林舞輝氏(23)が抜擢された。

 ホームタウンの奈良県ではなく、東京・南青山のイベント会場で行われた発表会。地元サポーターはネット配信で映像を観るという異例の形式となっていたが、あえて首都圏へと手を広げた理由は、23歳GMが掲げる「2番目に好きなクラブを目指す」というスローガンに表れていた。

「奈良の皆さんに愛されるようなクラブを目指していくのは当然のこと。ただ、そこにいない人にも愛されているクラブはある。もしどこかのJクラブのファンだとしても、自分たちのクラブの試合がないときは、何となく結果が気になってしまうようなチームをつくりたい」(林GM)。

 地域に根ざすサッカークラブは多くの場合、地元のサポーターによって支えられる存在。だが、日本国内に欧州クラブを愛する人々がいるのと同様に、ホームタウン外のファンを引きつけることもできる。奈良の場合、魅力のフックとなるのは「ゲームモデル」という考え方に代表されるクラブの『体系』だ。

 ゲームモデルとは「分かりやすく言えば、試合の模型を作ること」(林GM)。ピッチ内の戦略、戦術を定めるのは監督だと思われがちだが、試合の模型、すなわち「クラブのビジョンがあって、ミッションがあって、その上でどういうサッカーをしたいか」というモデルは、クラブ自体が設計すべきものだという。

「サッカーは体系的なもので、ビジョン、ミッションの先に戦術がある」。ゲームモデルの重要性をそう語る林GMにとって、試合は「奈良クラブのビジョンを表現する場所」という位置付け。クラブはビジネス、教育、デザインなど多分野の活動でも同時に挑戦を広げていく構えだが、そんな体系的な取り組みがピッチ上での魅力向上につながると考える。

 この確信は自身の経験から培われたものだ。林GMは高校卒業後、単身イングランドに渡って大学でサッカーを学び、修了後はポルト大学院の指導者養成コースに在籍。コーチング理論を深め、地元クラブの育成組織を指導するかたわら、現マンチェスター・Uのジョゼ・モウリーニョ監督が主催するスクールに日本人で初めて在籍した経験を持つ。

 そんな新進気鋭の指導者によると、欧州と日本のサッカー界の違いは体系の有無であり、「日本のクラブはビジョン、ミッションが足りない」。たとえば監督人事について。「監督が設計図を作って、チームの模型を作って、結果が出なかったらそれを潰して、また新しい監督がやってきて、設計図を作って…という形で積み上げがない」と課題を指摘する。

 一方、欧州では「すでに歴史のある家が建っていて、修繕したり、改善したりしつつ、そのために監督を呼んでくる。だからこそ積み上げがある」。奈良は来季から、昨季のJ3リーグを制した経験を持つ杉山弘一監督を招聘することが決定しているが、「こういうサッカーをやりたい。だから杉山さんお願いしますと言って来てもらった」と経緯を明かした。

 最初の仕事である監督選びを無事に終え、現在は来季に向けた選手編成に取り組む最中だが、役割はそこで終わらない。シーズン中にはスタジアム近隣のカフェで「将棋の感想戦のような」イベントを開催する予定。「どういう狙いがあったのか、なぜ起用したのか、どんな予想外なことが起きたのか、全部喋ります。ぜひ奈良に来てください」と呼びかけた。

「サッカーの結果に関する責任は自分がすべて負う」。23歳でのGM起用、それも国内での指導経験がない人物となれば、アマチュアサッカー界でも超異例の人事。しかし、欧州クラブのような歴史の礎を築くため、若さを言い訳にするつもりはない。クラブが掲げる成績面での目標は『5年以内でのJ2昇格』。23歳の前例なき挑戦が、古都・奈良の地で始まろうとしている。

(取材・文 竹内達也)
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