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元日本代表戦士の北澤豪氏が銅メダルを逃したブラサカ日本代表に“愛のムチ” 「期待してもらうには、勝たなきゃ」

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銅メダルを逃し、うなだれる佐々木ロベルト泉(中央)、黒田智成(右)、川村怜

 2020年の東京五輪パラリンピックにむけた「プレ・パラリンピック」と位置付けられる「IBSA ブラインドサッカーワールドグランプリ 2019」は23日、順位決定戦が行われ、3位決定戦に出場した日本代表はスペイン代表に残り3分で失点。0-1で敗れ、銅メダルを逃した。仕事の合間を縫って会場に駆け付けた日本障がい者サッカー連盟の北澤豪会長は、身を乗り出して戦況を見つめた。試合直後、感想を求めると、その目はかつて日本代表として戦った当時の勝負師の目だった。

「こういうところで勝たなきゃ。障害者スポーツの中のブラインドサッカーを知ってもらうという部分で、協会を中心に普及と並行して(代表強化を)頑張ってくれているとは思います。でも、知ってもらうとか、少しでも多くのファンの皆さんに見ていただくという意味でも勝たないと。(ワールドグランプリは)ホーム開催で2回目。来年にはパラリンピックがある。そういった意味でも3位にならないと。周りに期待を持っていただく意味でもね。(ブラインドサッカーは)もうそういう立ち位置なんですよ」

 東京五輪と同じ8か国で争い、大会方式も同じ。世界ランク2位のアルゼンチンを筆頭に強豪国も集まり、チーム関係者やメディアも本番をイメージするには絶好の大会となった。そんな中、21日にはチケット完売でキャンセル待ちまで出たスペイン代表戦を、東京五輪パラリンピック担当の櫻田義孝・国務大臣や、五輪に関わる複数の官僚がスタンドに視察に訪れていた。櫻田氏は他の仕事もあったため、ハーフタイムまでしか見られなかったが、観戦者の大半が選手の家族や関係者しかない他の障がい者スポーツとは違い、ブラインドサッカーが入場料をとってお客さんを集めることができていることや、運営内容について好印象を持っていたという。

 国務大臣が訪れるほど注目されただけに、3位という結果は欲しかった。高田敏志監督就任後、リオ・パラリンピックの金メダル、ブラジルや銅メダルのアルゼンチンには引き分け、銀メダルのイランには初めて勝つなど、確実に成長の跡は見せてきた。ただアジア選手権では5位に沈み、昨年の世界選手権出場を逃すなど、公式戦ではなかなか結果が出てなかっただけに、そのイメージを払拭したかった。

 試合内容で格段に進歩してベスト4に残ったため、「体格差を補って健闘した」「世界ランク4位のスペイン代表に1度は勝った」と1年半後の東京五輪でのメダル獲得を期待するような論調になりがちだ。北澤会長自身もブラサカ日本代表に勝ってほしいと思っているがゆえに、3位決定戦に敗れた現実から目をそむける「甘さ」を戒めたかった。

仕事の合間に駆け付けた北澤豪氏

 北澤会長はかつてサッカーの日本代表として、ふがいない戦いをすれば批判にさらされ、サポーターからパイプ椅子も投げられるような緊張感の中に身を置いた。だから「日本代表は勝たないといけない」という信念は、現役を離れても体に刻み込まれている。今は障がい者サッカー連盟会長という立場で、障害者と健常者がいかに混ざり合う社会を作るか、という大きなテーマを実現するため、健常者の意識を変えることで障がい者と健常者に平等にチャンスを与えたいという思いで奔走している。だからこそ、「批判を浴びる」ということについても、健常者と障がい者は平等であっていい、と考えている。そういった現象がおこることによって、北澤会長が目指す、真の共生社会に近づく第1歩になると信じている。北澤会長が続ける。

「お客さんもリスペクトのある応援をしていただき、有難いと思います。ただ、前回(21日は)勝っているわけだから、『なぜ負けたんだ』という議論ができるようになってこないと(その競技は)成長しないんだ。それがスポーツの見方ですから。障がい者だから(負けても)許される、ということじゃないんですよ」

 選手たちの具体名もあげて、こうメッセージを送った。

「今大会、(3ゴールをあげた川村)怜の成長はあったのも確か。ただ、あそこで点をとらなければいけない。アキ(田中章仁)の感覚の鋭さ、ディフェンスはすごかった。でも、もう1歩いかないといけない。もう1歩いかないととれないんだよ。それが勝負。ロベルト(佐々木ロベルト泉)もそうだけど、幸い、今回の日本代表の選手たちはその勝負の世界(の厳しさ)を嫌がっていない。(コメントが厳しくなるのは)期待が大きいですから」

 日本ブラインドサッカー協会の内部では「最低でも決勝進出」という目標を掲げてこの大会にのぞんでいた。今回の日本代表はそのノルマは達成できなかったことになる。他国は総じて、年内に行われる東京五輪予選に備えて、選手の経験値を増やすためにいろんな選手を起用しながら成長を促したが、対照的に勝敗にこだわった日本代表は、全く起用されない選手が2人いた。協会はメダル獲得のためにこの大会の戦いぶりをどう総括し、選手層の薄さを改善するプランをどう出すのか。選手各自がそれぞれ仕事を持っている環境でそれをひねり出すのは容易ではない。ただその厳しさを乗り越えれば、今回わずかな差で手にできなかったメダルが見えてくる。

ワールドグランプリ 日本代表メンバー
ワールドグランプリ日程 / ルール

(取材・文 林健太郎)

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