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電話もとるし、Excel入力もやります…なでしこジャパンFW菅澤優衣香「働きながらやることで得るものも多い」

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女子ワールドカップでの活躍に期待が集まるなでしこジャパンFW菅澤優衣香

 日本女子サッカー界を取り巻く環境は、男子サッカー界に比べればまだまだ整備されているとは到底言えない。日本女子代表(なでしこジャパン)で国際Aマッチ62試合出場のキャリアを誇るFW菅澤優衣香(浦和レッズレディース)も、普段は会社に勤めながらの生活を送っている。

■女性アスリート像

―いよいよ女子ワールドカップの開幕が近づいてきました。菅澤選手にとっては前回大会のリベンジになりますね。
「前回大会は、周りは大先輩ばかり。自分がやって行けるのかどうかという不安を持ちながらやっていました。そんな中で実際にプレーさせてもらって、結果は準優勝。最終的には悔しい思いをしてしまった。今回選ばれたら、前回の悔しさをしっかりと返せるように、優勝を目指してやっていきたいなと思います。ただ選手も変わっているし、他国のレベルが上がっている。そういう難しさは大会の中で感じながらやっていく大会になると思います」

―やはり他国のレベルが上がっていると感じますか?
「2011年になでしこが優勝した辺りから周りの国が日本の女子サッカーをリスペクトしてくれるようになったと感じます。蹴って走ってというだけじゃなくて、ポゼッションの部分も質を高めてやってきているなと思いますし、レベルは年々上がっているなと感じます。あと周りの国が上手く世代交代が出来ている中で、日本はちょっと遅れているのかなと感じることもあります。でも結果がすべての世界。勝たないと人気も落ちちゃうんだなというのを肌で感じているので、結果を出し続けていくことが、これからの女子サッカーを盛り上げるためにも大事なのかなと思っています」

―世代交代。女子サッカー界、女性がアスリートとして活動を続けていく難しさも根底にはあると思います。
「浦和でも私たちより下の世代の選手が、早くに現役を引退することがありますが、私はもったいないなとすごく思います。代表もそうですけど、リーグを盛り上げるのに、そういう選手が辞めてしまうのはすごくもったいないなと。ただその一方でセカンドキャリア、サッカーだけじゃないというのも凄く分かります。女子サッカーを長く続けるかというのは、女子の場合は悩みどころかなと思います」

―菅澤選手は普段、会社で働きながらサッカーを続けています。なでしこリーガーにはそんな現実もある。
「私の場合も毎日保険会社に出社して、夕方トレーニングという生活を送っています。主にデスクワークをしていて、電話もとりますし、Excel入力などもやっていますよ。でも会社の方がサッカーに集中できるようにと、会社に出勤する時間を少なくしてくれています。移籍の時も異動で対応していただきました。先ほども言いましたが女子の選手はキャリアが長くはない。そうなったときに社会人を経験したことが活きてくると思う。プロ化も大事なことですが、働きながらやることで得るものも多いなとこの年齢になって感じています」

―NIKEも女性アスリートを支援し続けていて、菅澤選手にとっても欠かせないパートナーだと思います。
「NIKEはサッカーだけじゃなくて、数多くの選手をサポートしているのが凄く印象的。14年に契約する前から男子に限らず女性アスリートを支援しているなとは感じていました。スパイクを選ぶ際にも小さい頃から少しでも格好いいものをと選んでいた。可愛いより格好いいが小さい頃から好きだった。格好いいはサッカーでも私生活でも求めてやってきていることなので、NIKEは合っていると思います」


■サッカーキャリア

―サッカーはお兄さん(菅澤孝也)の影響で始められたんですよね?
「はい、兄の影響でサッカーを始めました。兄、弟がいる3人兄弟。兄には走り方が似ていると言われますが、小さい頃は試合の日が重なっていたので、すごい影響を受けたかというと……あんまりですかね(笑)」

―高校進学と同時に地元の千葉県を離れて、JFAアカデミー福島に進まれます。
「中学校サッカー部の顧問の先生と、クラブチームの先輩のお父さんがJFAアカデミーに携わる方で、直接お話をしに来てくれました。アカデミーは寮生活でサッカーに打ち込めるし、勉強面もしっかりとしているから、試験はあるけど一回受けてみないかということになりました。初めて親元を離れることになりましたが、人としても成長できたと思います」

―先日、東日本大震災の影響で閉鎖していたナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」の営業が再開されましたね。
「グランドオープンの前にチームで行かせてもらったんですけど、元通りというか、元よりももっと綺麗になっていました。再開はすごくいいことですし、またあそこで合宿だったり、試合をしたいなと思います」

―JFAアカデミーを卒業後、アルビレックス新潟レディース、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、浦和レッズレディースとキャリアを歩まれています。14年と15年には2年連続でなでしこリーグ得点王も獲得されました。
「でも周りからは性格が優しいので、もっと貪欲になれとはよく言われます。本当にその都度の指導者の方に言われています。自分ではゴールへの意識は強いと思っているんですけどね(笑)。でも最初のころよりは改善できていると思いますし、そこから意識を変えるようになったことで得点王も取れたのかなと思っています」

―同い年にはなでしこジャパンのキャプテンも務める熊谷紗希選手がいますが、彼女から受ける影響はありますか?
「ヨーロッパでやっている分、体の強さであったりとか、間合いだったりとかは普段やっている選手とは違うなと感じていて、そういう選手と一緒にプレーするのは楽しいですし、サッカー面以外も心に余裕があるなと感じます。私も海外ですか?少し考えた時期はありました。実際カナダW杯のあとに一回、スウェーデンのチームからオファーがあったんですけど、話が上手く行きませんでした。でも紗希からは代表で会うといつも刺激を貰っています」

―現在28歳。この先のサッカーキャリアをどのように考えていますか?
「確かに若い時よりは筋力トレーニングを意識的にしていかないといけないなと感じています。自分は東京オリンピックをサッカー人生の最後の目標に掲げています。そこまでは絶対にしっかりとプレーしようと思っています。そこからは自分の気持ちと体を相談して決めたいですね。また女子サッカー界としては、将来的には出産を経験した選手が出てきてほしい。海外なんかでは選手に戻るというのもあるし、日本の女性でも可能だと思う。そこの雰囲気から変えていければいいなと思っています」

●菅澤優衣香
1990年10月5日、千葉県千葉市生まれの28歳。プロサッカー選手になった兄・孝也の影響でサッカーを始める。中学までは地元でサッカーを続けたが、高校進学と同時に福島県のJFAアカデミー福島に入団。卒団後は在学中も特別指定選手としてプレーしたアルビレックス新潟レディースに進み、13年より地元である千葉のジェフユナイテッド市原・千葉レディースに移籍。17年より浦和レッズレディースに活躍の場を移した。なでしこジャパンでも2010年よりプレー。15年のW杯ではグループリーグのカメルーン戦でゴールも記録した。

(取材・文 児玉幸洋)

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