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男女のデフフットサル日本代表がW杯渡航費捻出のため、2000万円集金プロジェクトを開始

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2月、タイで行われたアジア選手権後に男女で記念撮影

 難聴の人がプレーするデフフットサルワールドカップ(W杯)が11月にスイスで開幕する。日本代表は男女とも出場し、日本のフットボール界初のアベック世界一を目指しているが、大舞台を5か月後に控え、5月31日~7月31日まで2000万円を集めるクラウドファンディングを開始した。支援した人へのお返しとして、男子日本代表がフィジカルベースを上げるために立ち上げた選手主導のプロジェクト「Our Vision」が制作したオリジナルTシャツや男女の選手や監督による講演会をプログラムして、資金集めをすすめている。「Our Vision」を側面から支えてきた男子日本代表・川元剛監督が今回のプロジェクト実行の経緯をこう明かす。

「目標としてきた大会で、選手たちがお金の心配をせずにのぞんでもらいたい気持ちだったので、以前からこのタイミングでやりたいと思っていました。スイスに行って帰ってくるまで1人50万円、男女の選手スタッフあわせて40人分で計算しています。現在の代表の中にも実は経済的な理由で代表活動にすべて参加できないジレンマを抱えていた選手がいます。私たちは『世界一になる』と公言している以上、お金があるないではなく、実力のある選手で最強チームを作りたい。そして選手にピッチ外での不安を持たせずに集中させたいんです」

 男子の場合、代表選手の所属会社が支援してくれる場合もあれば、すべて自己負担しなければいけない選手もいる。その場合、年間200万円かかるという。さらにアルバイトする時間がない学生は資金不足に陥るため、筑波大蹴球部に在籍する若手のホープ、野寺風吹は昨秋、年末のスペイン遠征や2月のアジア最終予選の遠征費を捻出するため、自らクラウドファンディングを立ち上げて、2か月間で約110万円を集めた。一方、2月にW杯切符を獲得した女子は4月から毎月合宿を行っている。

「女子の経済的負担も他人事ではないと感じたので、男子主導でやっていたプロジェクトを拡大し、選手を守りたかった。日本の障がい者チームの中でこのような方法でお金を集めて現地に行ったという歴史も作りたいんです」(川元監督)

 2019年度がはじまった4月以降、選手にかかる経済的負担は増えた。フットサルは聴覚障がい者によるオリンピック、「デフリンピック」の競技種目ではないため、デフサッカーに対しておりた助成金の一部を回してもらって活動している。4月に行われた1泊2日の代表合宿も、選手が負担する参加費がこれまでより1人1万円アップした。このような現状では、日本ろう者サッカー協会から助成金が十分に回ってくる見通しは立たないため、今回のクラウドファンディングの実施はある意味、必然だった。

プロジェクトを主導する東海林主将(右)。左が川元監督

 乗り越えなければいけない壁は選手たちの心の中にもある。川元監督が続ける。

「自分たちから発信すること自体に、ためらいがあったんです。彼らは社会に出るまでに、聞き取れないことを疎まれて嫌な思いをして傷ついている子が多い。健常者と関わることがストレスになり、接触を避ける傾向がありました。語彙力なども健常者と同じようにはいかないかもしれませんが、それも聴覚障害からくるものなので、クラウドファンディングで一般の方と触れ合うことで、彼らの悩みや人生観を知ってもらういい機会です。選手たちが主体性をもって活動をすることに意義があるし、共生社会を作るきっかけになるのではと考えています」

 開始から5日目となった6月4日の夕方時点で110万円を超えた。各選手たちが思いをつづるリレー方式の活動報告も今後、積み重なっていくだろう。男子の東海林直広主将が明かす。

「期間内に目標を達成しようとすれば、1日30万円ペースです。そう考えるともっともっと僕たちが周りの方に発信していかないといけませんね」

 世界一になるために、現場主導で歴史を変えて見せる。デフフットサルの代表戦士はピッチ外でも戦い続けている(協力を希望する方はこちら)。

(取材・文 林健太郎)

●デフ/障がい者サッカー特集ページ
●日本障がい者サッカー連盟(JIFF)のページはこちら

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