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ブラインドサッカー日本代表が「雰囲気の健康診断」のため、女性精神科医を招へい

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メンタルアドバイザーに就任した木村好珠。右は後藤史メンタルトレーナー

 ブラインドサッカー日本代表が、現役精神科医でタレントとしても活動中の木村好珠をメンタルアドバイザーとして招くことを決めた。強化指定スタッフの登録手続きも済ませた。日本代表・高田敏志監督が木村をスタッフに招いた経緯を明かす。

「これまでは監督とコーチの関係、コーチと選手の関係はすごくいい。コーチが優秀だからチーム力が上がってきているんですが、チーム全体として僕の言うことが絶対になってきていて、一方でチームの成長とともに問題が起こるリスクもこれから出てくると想定しています。僕は過去にACミランやバイエルンで研修を受けたとき、必ずセラピストのような方が大学からチームに派遣されていて、その方の視点で監督と選手、監督とコーチの関係を分析して、監督を評価する人に報告していたんです」

 きっかけはメダルまであと1歩届かず、4位に終わった3月のワールドグランプリ。グループリーグを1位で突破しながら、準決勝でイングランド、3位決定戦でスペインに敗れた。客観的に分析しても「勝てる」と踏んでいた両国に敗れた原因は、グループリーグを終えてから1日の休養日を挟んで準決勝に至る約48時間の過ごし方にあったと分析している。1日休みを挟んだだけで、敗戦の結果以上に選手のパフォーマンスがぐっと落ちてしまった原因は、体の疲労をとり切れなかった、という単純な理由ではないと考えている。大会後の4月、高田監督はイングランドにわたり、今季プレミアリーグを連覇したマンチェスター・シティのチーム関係者と接触。ペップの愛称で知られる世界的名将のジョゼップ・グアルディオラがどんなマネジメントをしているのか情報収集した。

「たとえばトレーニングのときの選手の表情を見て、体や心だけでなく、『脳』の疲労状態を推測する。そこはサッカーの指導者というよりドクターの領域になりますが、そういう人がペップも周りにいるそうです」

円陣にもチーム状態は出る

 チームの雰囲気や表情から、選手やスタッフにかかるストレスの度合いを限りなく客観的に推測し、うまくいく場合の兆候やうまくいかない場合の兆候を把握したい。そのために複数の候補者から、木村に白羽の矢が立った。木村は週4日、山形県長井市の吉川記念病院に勤務し、患者と向き合う現役の精神科医。世界的名門、レアル・マドリードファンデーションが結成する若年層クラブのメンタルアドバイザーもつとめながら、タレントとして情報番組のコメンテーターもつとめる。熱狂的なサッカーファンとして、数多くの試合を観てきており、精神科医として培ったノウハウを、サッカーという集団スポーツに即して落とし込める、と見込まれた。正式就任前に、日本代表合宿のミーティングにも参加し、選手の顔の表情を見て、どういうキャラの持ち主かを大体、言い当てたという。高田監督が続ける。

「本番までのあと1年半、一番心配しているのはすごいプレッシャーにさらされるスタッフがパンクしないかどうかです。彼らが抱えるストレスを放置すると、チームの成長を妨げることもある。(木村には)彼らのストレスを聞いてあげてほしいし、チーム全体の雰囲気の健康診断をしてほしい」

 これまでもチームを支えてきたメンタルトレーナーの後藤史は選手個々と向き合うことに専念。対照的に、チーム全体の診断を求められた木村は、8月のイングランド遠征や9月にタイで行われるアジア選手権も代表チームに帯同予定。雰囲気が悪くなる兆候が見られた時、その未病をいかに早く察知し、すぐにケアするか。日本のサッカー界ではあまり例をみない”未病予防士”が、「初出場でメダル獲得」の偉業をアシストする。

(取材・文 林健太郎)

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