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[MOM659]常葉大MF加藤隼登(1年)_ルーキーのドラマチック決勝弾「あんな劇的なゴールは決めたことがない」

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劇的弾を決めたMF加藤隼登

[大学サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ supported by KIRIN]
[12.11 大学選手権1回戦 北陸大0-1常葉大 柏の葉]

 いつもと違うチームメイトの動きを察知すると、あとは体が勝手に動いていた。「柊哉くんがファーに流れた時に『折り返しかな』と思ったので、触る準備だけしていました」。目の前に届けられたボールを必死に頭で流し込む。「あんな劇的なゴールは決めたことがないです」。気付けばMF加藤隼登(1年=磐田U-18)の視界には揺れたゴールネットと、自分へ折り重なるチームメイトの笑顔がほとんど同時に飛び込んでくる。

 大事な全国大会の初戦に、チームの要のボランチでスタメン起用された。「使い始めたのは夏からですね。ハードワークができるようになってきたので使うようになったんです。僕の場合は動かない選手は絶対使わないので」と澤登正朗監督も口にしたように、ゲームを読む力に運動量がプラスされた1年生は、中盤でいわゆる“効いている”プレーを積み重ねていく。

「東海リーグに比べたら全国ということで緊張はあったんですけど、高校時代の経験があったからこそ、いつも通りのプレーができたのかなと思います」。昨年は磐田U-18の主軸として、高円宮杯プレミアリーグEASTのリーグ戦全試合に出場。ハイレベルな舞台で、ハイレベルな相手と対峙してきたことが、自らの基準を一段階引き上げた。派手さはないが、確実な仕事ぶりでゲームを円滑に進めるのが彼の持ち味だ。この日もきっちりと求められる役割をこなしつつ、前線へと顔を出していく姿が頼もしい。

 スコアレスのままで突入した後半のアディショナルタイムも所定の2分を経過。おそらくはラストプレーとなるCK。その時、高校時代からのチームメイトに当たるDF速水修平(1年=磐田U-18)とDF山下柊哉(3年=作陽高)の“異変”を加藤はキャッチする。「いつもだったら速水がニアなんですけど、相手もたぶん分かっていて、9番の大きい選手がニアで弾いていた中で、柊哉くんがファーに流れた時に『折り返しかな』と思ったので、触る準備だけしていました」。

 FW土井智之(4年=神戸弘陵高)が丁寧に蹴ったキックは、2枚のマーカーを引き連れたニアの速水を越えて、ファーの山下へ届く。高い打点から撃ち下ろされたヘディング。目の前に届けられたボールを必死に頭で流し込む。「あんな劇的なゴールは決めたことがないです」。気付けば視界には揺れたゴールネットと、自分へ折り重なるチームメイトの笑顔がほとんど同時に飛び込んでくる。数秒後に聞こえたのはタイムアップのホイッスル。まさに“サヨナラゴール”。加藤のインカレデビュー戦は、あまりにも劇的なドラマに彩られる格好で幕を閉じた。

 大学生活は失意から始まった。「シーズン初めの4月でケガしちゃって、足首の捻挫だったんですけど、1か月ぐらいサッカーできなくて…」。大きな希望を抱いて門を叩いた常葉大での日々はリハビリからスタートする。ただ、ある仲間の存在が加藤のメンタルにポジティブな作用をもたらす。「1年生のチームキャプテンのタカノって子がいるんですけど、ポジションもボランチで一緒だったので頑張ろうって時にお互いケガしちゃって。でも、同じ環境でリハビリをしていく中で、アイツと切磋琢磨してやれたのが心の支えだったかなと思います」。

 結果的にコンディションを取り戻すのには3か月近く掛かってしまったが、下のカテゴリーでトレーニングを重ねたことで、改めて自分のウィークを見つめ直す時間ができたことも大きかった。「あの経験があったから、いろいろなことが良くなって帰ってこられたので、それが今に生かされていると思います」。サッカー面もメンタル面も一回り成長し、夏以降はトップチームでの出場機会を伸ばしていく。ルーキーイヤーから仲間の大切さや自身を見つめる時間の大切さを知る貴重な経験を手にしたことは、これからの加藤にとっても間違いなくプラスに作用していくことだろう。

 この日は同級生たちもピッチで躍動した。前述した速水に加え、途中出場したMF岸孝宗郎(1年=作陽高)、FW小松慧(1年=青森山田高)など、1年生がチームの中でも存在感を高めている。澤登監督も「オレは学年関係なく調子良い選手は絶対使うって言ってるし、そういう中で彼らは1年生だけれども成長している部分を、この全国の舞台で出せるという所の強みはあるのかなと思います」と言及。その中でもスタメン起用されていることの意味は十分に感じている。

「トップチームの選手という自覚もあると思いますし、その中でもやっぱりスタメンで出ているという責任は大きいのかなと思います」。ベンチには上級生も多数控えている。とりわけインカレという大会の意味も考えれば、自ずと背負うべき想いは決まってくる。それでも、加藤にはそれを背負えるだけの覚悟が定まっているように見える。

 次のゲームに勝利すれば、9年ぶりの全国8強を手繰り寄せることになる。相手は桐蔭横浜大。関東の強豪校ではあるが、だからこそ、自分たちの力を見せ付けるためには格好の相手とも言えるはずだ。

「練習でも日頃から関東を意識してやっている中で、僕らは関東の選手に技術で劣ると思うんですけど、そこをサッカーの理解度だったり仕組みで補ってきているので、今日で自分たちのやるべきことをやれば通用することがわかりましたし、自信を持ってやれればいいかなと思います」

 加藤隼登。背番号24。“効いている”1年生の成長曲線が、次の90分間でもきっとまた予想を超えるカーブを描いていく可能性は十分過ぎるほどにある。
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(取材・文 土屋雅史)


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