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元Jリーガーも絶賛! 新型コロナ禍で光った『Jリーグ×eSports』の魅力

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MCの羽染貴秀氏とゲストの播戸竜二

 世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルスの拡大を防ぐべく、Jリーグは2月25日、2011年の東日本大震災以来となる大規模な公式戦延期を決断した。当初は今月18日の再開を目指していたが、さらなる対策を講じる必要性から後に再延期が決定。現状では3月いっぱい公式戦を開催せず、4月3日のJ1第7節からリスタートする予定となっている。

 このアクシデントは1月のキャンプイン以降、新シーズンに向けて必死で身体を作ってきた選手たちに大打撃を与えた。それは新体制の構想を組み上げてきた首脳陣やコーチングスタッフ、新たなアイデアを練ってきたクラブ関係者も相違ない。さらに話を広げれば、出店を始めるはずだったキッチンカー、アウェー客の迎え入れを楽しみにしていた宿泊関係者、体制を整えてきた警備スタッフ……。そうした日本サッカーを支える人々の無念も目に浮かぶ。

 ただ、中でもひときわ大きな寂しさを抱いているのは、スタジアムに足を運ぶはずだった数多のファン・サポーターであろう。ウイルスという原因の性質上、練習を見に行くことさえ難しく、そもそも集まることが推奨されていないのだから具体的な行動も起こしにくい。延期が決まった直後にはSNSに「#エアルヴァン杯」「#エアJリーグ」というハッシュタグが登場し、大きな話題を呼んだが、こうした良い意味で狂気的なムーブメントも裏返せば喪失感の表れだ。

 そのうえ各チームはたった1度ずつしか試合ができていない。ネタがない中では盛り上がりも長くは続かない。そういった危機的状況の中で救いの手を差し伸べたのが、オンラインでイベントを完結させられる『eSports』だった。

■Jリーグ×eSports
 Jリーグは「#エア」が話題となった翌週の3月1日、『eJリーグ スペシャルオンライントーナメント』の開催を発表した。世界最大のサッカーゲーム『FIFA』を使用し、J1リーグ所属8クラブの代表選手たちが腕を競うという企画だ。金曜夜に試合を行う実際の名物イベントになぞらえて「フライデーナイトeJリーグ(#金eJ)」と銘打ったこの試みは6日、都内のスタジオを拠点にYoutubeを通じて世界にリアルタイム発信された。

 トーナメントのキックオフは午後7時過ぎ。同時視聴1000人を超えるサポーターがネット回線を通して見守る中、各クラブのユニフォームを身に纏ったeスポーツプレイヤーたちは事前に発表されていたように、中断前に行われたJ1リーグ第1節の先発メンバーと同じ実在選手たちをピッチに並べた。

 FW前田直輝が1トップに入る新布陣の名古屋グランパス、中盤3枚が攻守に絡み合う湘南ベルマーレ、新加入FWレオナルドが存在感を放つ浦和レッズ、顔ぶれが大きく生まれ変わった鹿島アントラーズ、開幕節で王者を倒して勢いに乗るガンバ大阪、堅守速攻スタイルを熟成させるセレッソ大阪、強力な3トップを擁するFC東京、超攻撃的なハイライン布陣の横浜F・マリノス——。ゲーム内の選手は実在の選手をモデルに能力値が設定されているため、現実のような試合が展開されていた。

 それでもひときわ「ゲームと現実の融合」が強く感じられたのは、画面の中ではなく、試合後に音声通話で行われた敗者のインタビューだった。

「ずっと埼玉出身で埼玉育ちなのでレッズを応援しています。昨季は残留争いをしていて心配だったけど、今季は開幕戦からいいサッカーをしているので期待してます」(浦和・かーる)

「グランパスを代表しての出場できたが、こういうふうな結果になってしまいすみませんでした。次にまたリベンジする機会があれば勝ちます!」(名古屋・ミノ)

「(C大阪との対戦で)大阪ダービーで勝ち星を挙げられず不甲斐ないです。だけどその分、吹田スタジアムに足を運んでガンバ大阪を応援していきたいです」(G大阪・青黒豆)

「(横浜FMとの対戦で)昨季も悔しい思いをして、今日も残念ながら負けてしまったけど、第2節で当たるのでしっかり応援したいです」(FC東京・ccv)

「リアル同様にセレッソさんは苦手です!優勝狙えると思っていたんですが、試合が始まった途端に萎縮してしまいました。マリノスファンの皆さん申し訳ないです!」(横浜FM・アグ)

 普段はJリーガーとしてピッチに立っている選手たちと同様、eスポーツプレイヤーである彼らもクラブを背負って戦っているのだ。

■元Jリーガーも絶賛
 この日、徹底した換気と消毒スプレーで対ウイルス体制が敷かれていた都内のスタジオには、ゲスト司会者として元Jリーガーの播戸竜二氏(元Jリーガー)も来場。「遠藤はドリブル遅いですね」「(自身が背負った)セレッソの11番は決めますよ!」と現実になぞらえながら大会を盛り上げ、「やはりゲームとリアルが混じって、ゲームの話だけじゃなく、リアルとリンクしているのが面白いですよね」とeスポーツの魅力を語っていた。

セレッソ大阪代表のつぁくと

 なお、大会を制したのはC大阪のつぁくと。『FIFA eクラブワールドカップ』にも出場した日本のトップ選手だ。大会中の勝利インタビューは何度も「セレッソらしく堅守、堅守で」と語ったように、プレースタイルはロティーナ監督が築いた戦術を踏襲。新加入のFW豊川雄太をジョーカーとして有効に使い、見事に頂点に立った。

「少しでも力になれるならという形でお受けしたんですが、かなり大会自体も盛り上がっていて、個人的にも色んな方から応援を頂いたのですごく良かった」。そう振り返ったつぁくとはサポーターからの応援も力にしたという。「プレッシャーはなかった。逆に色んな方面から頑張ってくれという声援をいただいたので、逆に力になった」と感謝を語った。

 一方、優勝候補と目されていた選手が敗れるという波乱もあった。昨年のJリーグ大会を制した名古屋・ミノは初戦敗退。「何よりグランパスを勝たせられなかったのが悔しい」と肩を落とした。またスタジオで参戦した世界大会経験者のナスリ、ドイツ帰りのスレッジもそれぞれ準決勝、決勝で敗れた。そんな2人には終了後、詳しく話を聞いた。

鹿島アントラーズ所属のナスリ

■アジアNo.1プレーヤー/ナスリ
 2018年には『FIFA eワールドカップ』に出場し、今季もアジアナンバーワン選手として世界大会『FUT Champions Cup』にも参戦したナスリ。昨年までは横浜FMの契約選手として活動していたが、今年からは鹿島のユニフォームを身に纏っている。新天地で初めて参戦した『eJリーグ』は準決勝敗退。ともにスタジオ参戦したスレッジに敗れてしまった。

 絶対的な優勝候補とあり、敗れた直後は悔しそうな表情を浮かべていたが、終了後には「Jリーグが中断しているぶん注目度が高いので、いつもより気持ちが入って楽しい感じで試合ができた。嬉しかったです」と晴れやかな言葉も。その裏には「横浜FMに所属していた頃よりサポーターからの反応も多くて、社長の小泉(文明)さんも僕のことをたびたびツイートしてくれたり、クラブに受け入れられているなと思う」という充実感があるようだ。

 一方、鹿島はJリーグ通算20冠を誇る常勝軍団。そのエンブレムを背負う重圧は計り知れない。「世界大会の予選のとき、みんなに応援してもらってるから勝たなきゃというプレッシャーが増えました」。そう正直に明かす若武者は「今までここまでのことはなかったので、初めての経験で対策はわかっていないけど、難しいメンタルコントロールが必要になる」と課題を指摘する。

 それでも、ネガティブな気持ちはないという。「こういった経験を海外の選手はもっと前からしていたと思うので、メンタル面でも向こうに追いつけるように頑張りたい」。プレッシャーから逃げるのではなく、向き合うべきは自らの成長。そうしたメンタリティーはまさに、他のクラブから鹿島へとやってきたサッカー選手のようだ。

「表現が難しいけど、新しい感情が湧いてきたなという感覚」という周囲の期待とともに、目指すは2年ぶりのW杯出場。ナスリは「これだけ応援してくれているので期待に応えられるよう、世界大会とかeJリーグとかで結果を残して、もっと多くの人、いま興味を持ってもらえていない人にも応援してもらえるように頑張りたい」と先を見据えた。

湘南ベルマーレ所属のスレッジ

■ドイツ帰りの期待株/スレッジ
 準決勝でナスリを破ったスレッジは、昨年から湘南の契約選手として活動する期待株だ。今年2月にはドイツでの武者修行も経験し、世界トップレベルとの対戦を通じてスキルを高めてきた。試合後には「彼は日本トップの選手なので自分とプレッシャーもあると思う」とナスリを気遣う言葉も聞かれたが、強みの一つはメンタルだ。

 高校サッカーの名門・市立船橋高でプレーヤーを経験しており、プレッシャーとの向き合い方はお手の物。大会中にも動画内コメントで湘南サポーターから多くの声援が送られていたが、「リアルなサッカーをやっていたぶん、ストレスなくやれている」とさらりと語る。それどころか「応援してもらっている感覚で非常に嬉しく思うし、応援の期待に応えたい。ポジティブに捉えている」といたって前向きだ。

 市立船橋高ではDF杉岡大暉(元湘南、現鹿島)、MF金子大毅(湘南)と同期。eスポーツ選手として彼らと再びチームメートになった。「クラブハウスに行った時に話したり、試合を見に行った時は『お疲れ』ってメッセージを送りますね」。そうした彼らと同様にクラブを背負っていく構えだ。「大会では結果を残すべき立場にある。結果にこだわりつつ、ベルマーレのeスポーツ選手としては結果だけじゃなくイベントもあるので、すべてに全力で関わっていきたいです」。

■5月には「W杯」につながる大会も
 今大会は新型コロナウイルスによる中断期間を活用したエキシビジョン大会だったが、5月8〜9日には正式な大会も控えている。それが『FIFA 20 グローバルシリーズ eJ.LEAGUE』だ。2018年にスタートし、今年で第3回を数えるビッグタイトル。世界大会につながる『FIFA 20 グローバルシリーズ』の一つで、好成績を残せば『FIFA eワールドカップ 2020』出場権を争うプレーオフに出場するためのポイントが獲得できる。

 オンラインで行われる予選ラウンドは3月28日、29日、4月5日の3日間。昨年のJ1リーグ所属クラブを使って参加でき、各クラブ2選手ずつが5月の決勝ラウンドに進むことができる。決勝ラウンドの優勝賞金は100万円。準優勝者にも30万円が授与される。参加資格は①4月1日時点で満16歳以上、②国内在住で日本語でコミュニケーション可能なことの2点。『FIFA20』の腕に自信があるファン・サポーターにとってはクラブを背負って戦う大きなチャンスとなる。

 応募は「FIFA 20 グローバルシリーズ eJ.LEAGUE」特設ページから。

(取材・文 竹内達也)

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