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「チーム練習がなくとも強くなれる⁉︎」。年代別日本代表・小粥コンディショニングコーチを直撃

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U-19日本代表でMF久保建英らを指導した小粥智浩コンディショニングコーチ

 新型コロナウイルスの惨禍によってサッカー界も広汎な影響を受けることとなった。日本サッカー協会が高円宮杯U-18プレミアリーグの延期を決めたのを始めとして東京都で高体連が6月までのサッカー以外の種目を含む全公式戦中止を発表し、また各地で休校措置が実施されるなど、この影響はサッカー界の育成年代にとっても長期化する見通しとなってきた。

 チーム単位でのトレーニングについては地域差やカテゴリーごとの差も大きいが、まったくできなくなっている地域も少なくない。そこで今回は日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフで、年代別日本代表などのコンディショニングコーチを務める小粥智浩氏を直撃。「チーム練習がない状態でのコンディショニング」について聞いた。

―厳しい状況の中でウェブ経由の取材を承諾していただき、ありがとうございます。
「難しい状況にあるのは間違いありませんが、個人的には前向きな考え方にシフトチェンジしていこうと思っているところです。昨年は、年代別日本代表の活動が非常に多く、自分自身、整理する時間、インプットする時間が少なかったと感じていますので、それらをするための良い時間にできればと思っています。サッカー界として苦しい状況なのは間違いありませんが、この現状から回復した後、または現状での情報発信に備えることも踏まえて、個人としては、逆に良い時間にできればと考えているんです」

―選手にとっても「この時期だからこそ」という部分はあるでしょうか。
「ほとんどの選手は日頃、チーム練習と試合の繰り返しに追われていると思います。なかなか自分の体とじっくり向き合う時間というのは作ってこれなかったのではないでしょうか。ここで体をしっかり整えて、鍛えておけば、サッカーを再開できるようになったとき、『あれ、前より動きにキレがあるぞ』とか、『力強くなって簡単に倒れなくなったな』と感じられるようになる可能性は多々あると思いますよ」

―それは室内で行う個人練習でも可能なのでしょうか。
「もちろん機具を使ったトレーニングもいいですが、特に中高生の選手たちならば、自体重を使ったトレーニングでも十分に効果を得ることができます。よく誤解されるところですが、『体を鍛える』ことと『サッカーのプレーを高める』ことは別のものというわけではありません。体のバランスが良くなっていればプレーの精度も上がりますし、相手に当たられても視野を保つことができます。安定したスクワットができるようになったら、鋭いターンを見せるようになったなんて選手も珍しくありません。体を作るトレーニングは、サッカーのパフォーマンス向上に繋げることができますし、サッカーに繋げる意識を持って取り組むことも重要ですね」

―ケガをしたり、病気になったりといった理由でボールを蹴る練習ができなくなっていた選手が、復帰したら逆にパフォーマンスが上がっていたというケースもありますよね。
「サッカーでも復帰初戦でいきなりゴールを決めるような選手は珍しくないですが、他の競技でも復帰初戦で自己ベスト更新なんてことも少なくありません。もちろん、サッカーの場合はボールフィーリングやゲーム感覚を戻すまでに時間も必要になりますが、『中断前より良い選手になる』ことは十分に可能ですし、その意識を持ってトレーニングしてほしいですね」

―しかし個人で練習するとなると、気持ちの部分がかなり厳しいですよね。
「そこは間違いありませんね」

―リバプールなどがZOOMなどのウェブアプリを使って、ネットで繋いだ状態で個人のトレーニングを「チーム」で行っていますが、小粥コーチから観ていかがですか。
「素晴らしい取り組みだと思いますし、日本でも数チームが実施していますね。の育成年代のチームでも似たような取り組みは可能ですよね。チームとしてでなくても、仲の良い選手たちが5人でも10人でもいいと思うのですが、『毎日朝10時にやろうぜ』と示し合わせてオンラインで一緒に取り組むというのもいいと思いますよ」

―日本サッカー協会も自体重を使って自宅で行える練習メニューを公開していますよね?(育成年代向けコンディショニングプログラム※外部サイトへ移動します)
「ええ、参考にしていただければと思います。チームのコーチやトレーナーからメニューを渡してもらえるならそれに取り組むのがいいと思いますし、そうでないのならば、JFAで公開しているメニューをそのまま取り組んでみるのもいいと思います。公開しているプログラムは、①コアエクササイズ(体幹)、②ムーブメントプレパレーション(体の安定性と可動性を改善するトレーニング)、③インディビジュアルトレーニング(個々での弱い部分を改善するメニュー)、④リジェネレーション(筋肉の状態を戻す)の4つに分けてあります。それぞれテーマを日毎に決めて実施するのも良いですし、①から④まで全てを数種目ずつピックアップして実施するのも良いと思います」

―何もやらないよりは何かやったほうがいいですよね。
「そういうことです。1カ月何もやらなかった選手と、取り組んできた選手には大きな差が付きますから、『何か』はやっておいたほうがいいと思います。自分の体としっかり向き合うことは、チーム練習に復帰してからの負傷の予防にも繋がりますから」

―意識の差が成長の差になるんですね。
「日本代表DFの冨安健洋選手なんかはU-15年代から日本代表に選ばれていましたが、何より意識の高さが素晴らしい選手でした。代表でトレーニングの課題を出すと、所属先のチームメイトにも呼び掛けて『一緒にやろうぜ』と誘って取り組みを続けたといいます。それが今の彼に繋がっていると思います。今の年代別日本代表選手たちも、練習ができたりできなかったりという状況にあると聞いていますが、きっと冨安選手のように周りの選手も巻き込みながら、意識高く取り組んでくれると、期待したいですね!」

―そういう部分にこそ代表選手のプライドを期待したいですね。
「次の合宿で集まったときに体を観れば、やっていたかやっていないかはすぐに分かりますしね(笑)」

―しっかり寝て休んで、しっかり食べて、しっかり鍛える。これを安定して回せる時間というのは意外に貴重なものかもしれません。
「そういうことです。本当に『ピンチはチャンス』なんです。ボールを思い切り蹴れない、試合ができないというストレスはきっと大きなものがあると思いますが、こうした時間は自分の体を整えて大きく変わる可能性もありますし、変えていってほしいと思います。キツい時間だと思いますが、ぜひ自分を高める時間に変えて、試合ができるようになったとき、その成果を思い切り表現してもらえればと思います」

(取材・文 川端暁彦、取材協力=日本サッカー協会、小粥智浩氏)

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