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ドイツ挑戦中のデフサッカー日本代表・林滉大の告白「様々な”壁”を超えるためにやってきたこと」

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写真提供:world football connection株式会社

 聴覚障害がある選手がプレーするデフサッカーとして初めてドイツに渡り、ドイツ7部相当のTuSモンタバウアーの所属するMF林滉大が新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リーグが中断したため、3月下旬に一時帰国。シーズン再開の動向を国内でこのほどオンラインインタビューに応じた。シーズン中に右ひざを負傷しながらも昨年11月に初ゴール。リーグ戦全30試合のうち、19試合を消化、林は11試合に出場、4ゴール8アシストと結果を残し、首位を走るチームの戦力となっている。

ブンデスは16日に再開も林は国内で待機

 新型コロナの影響で3月8日を最後に中断していたドイツ最高峰のリーグ「ブンデスリーガ」が今週末の5月16日に再開する。林がプレーする7部相当のリーグ再開はまだ決まっていないが、林はいつ再開してもいいように、日本で心身共に準備はすすめている。

「ブンデスはプロリーグなので、政府の承認と厳しい新型コロナ対策のおかげで再開できる可能性はありますが、僕たちアマチュアはまだわかりません。ただ帰国後、自宅でできる筋トレ器具を買ってトレーニングを続け、食事も制限しながら生活しています」

 日本のデフサッカー界で初めて林はドイツのクラブとの契約が成立し、昨年7月に海を渡った。立場はアマチュアだが、所属先の株式会社メルカリの支援があったため、仕事はせず、サッカーだけに専念できた。練習以外にも週4日間、筋トレを積んできたことにより、筋肉だけで5㎏アップした。

 チーム内に聴覚障害がある選手は林だけ。実力を認めてもらう前に、周囲の選手とのコミュニケーションをどうとれるかも課題のひとつにあった。

「僕は(入団の)トライアル時に自己紹介パンフレットを用いて説明し、それを理解した上でチームは僕を獲得してくれました。コミュニケーション方法はカタコトのドイツ語とジェスチャーです。チームは個々の技術が高いチームなので練習や試合を重ねるたびに攻撃面での連携はスムーズに出来るようになりました」

 シーズンは昨年8月に開幕し、途中右ひざを負傷し、8試合欠場したが、復帰後の11月17日、Tus グッキンゲン戦で初ゴール。以降、4ゴール8アシストとレギュラーに定着し、コミュニケーションの課題を忘れさせるほど、チームに溶け込み、戦力の一員となっている。

「フィニッシュ面を克服すればまだ成長できると思うので、シンプルにシュートを打つことを意識しています。そのためのポジショニングを磨く必要があると思っています。(得意の)ドリブルのほかに、味方がボール持っている時のオフ・ザ・ボールの面でゴールを狙えるポジショニングを磨きたいです」

オンライントレーニングの模様(写真提供:林滉大)

選手主導でオンライントレ
 ドイツのウィンターブレイクとなった年末年始、日本に一時帰国し、デフサッカーの日本代表合宿にも参加した。4月と5月にも代表合宿が予定されていたが、新型コロナの影響で中止。その時に日本代表メンバーで何かできることはないかと話し合い、5月4日に”オンライントレーニング”を敢行。集まれる時間帯に約1時間、参加者20人全員でヨガを行ったという。

 すでに、2021年12月に聴覚障がい者によるオリンピック「デフリンピック」がサッカーの本場・ブラジルで行われることが発表された。しかし、そのためのアジア予選がいつ行われるかは未定。日本ろう者サッカー協会は今年いっぱい、協会主催の活動を行わないことを9日に発表し、全日本選手権も中止となった。

「いつ合宿できるかわからない状況で、定期的に顔を合わせることは大事だなと思いました。デフリンピックは過去4度出場して一度も予選突破をしたことがないので、予選を突破して、ベスト8以上を目指しています。特に攻撃面でドイツでの経験を生かして、壁を超えたい」

 新型コロナの感染拡大がどう収束し、活動をいつ、どのように再開できるかは誰もわからない。ただ林はドイツに挑戦することをひとつとっても、誰も歩いたことのない道を切り開いてきた。今シーズンが再開しなくても、新シーズンもドイツでプレーする気持ちを固めている。林は「世界で通用する点取り屋になる」ために、ブレることなく、技と心を磨き続けるつもりだ。
 
(取材・文 林健太郎)

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