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静学から世界へ!選手権Vの主将DF阿部健人、18年全米王者で難関のメリーランド大合格!

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静岡学園高で主将を務めたDF阿部健人が、2年前の全米王者・メリーランド大に合格。(写真協力=高校サッカー年鑑)

 静学から世界へ――。1月の第98回全国高校サッカー選手権で優勝した静岡学園高(静岡)で主将を務めたDF阿部健人が、2018年の全米王者・メリーランド大に合格したことが分かった。

 アメリカの首都、ワシントンD.C.近郊に位置するメリーランド大は全米大学選手権優勝4回、準優勝3回の歴史を持つ強豪。アメリカ代表選手を輩出しているほか、近年では日本人MF遠藤翼がMLS(メジャーリーグサッカー)のトロントFC入りを果たしている。

 学業面も優秀で、教育体制の充実度や研究内容の評価、国際化の度合いなどを総合的に評価する2020年の世界大学ランキングで91位(日本でトップ100入りは36位の東京大と65位の京都大のみ)。かつては宇宙飛行士の山崎直子氏や西村康稔経済再生担当大臣(大学院)も在籍していたという文武両道の大学だ。

 阿部はアメリカのボストン生まれ。9歳までアメリカで生活していた帰国子女で、英語も使いこなすバイリンガルだ。選手権優勝とプロ入りを目標に静岡学園へ進学。2年時に攻撃力も備えたSBとして台頭すると、昨年は主将、CBとしてチームの要石となった。そして、選手権では全6試合に先発フル出場。厳しさと犠牲心を持って静岡学園を牽引し、24年ぶりとなる全国制覇の立て役者となった。

 これまでの勉強面、サッカーでの努力や選手権での活躍が認められての難関大学合格だ。昨夏、「静学から世界へ」を打ち出す川口修監督からアメリカの大学進学に対する興味を尋ねられた阿部は、「日本よりも海外の方が合っているかなと。(中高で遠征も経験したが、)海外は居心地が良かった」と渡米を希望。姉もアメリカの大学に通っているという阿部は、夏から必要な準備を進めた。

 プリンスリーグ東海や選手権予選が毎週のように組まれている中、英語や数学の勉強を重ねてアメリカの大学進学希望者を対象とした共通試験SATやTOEFLを受験。「サッカーもそうですけれども、学業のテストが大変だった」という阿部だが、必要な点数を獲得し、また大学アスリートの選抜ネットワークであるNCSAに自身のプレー動画を投稿して自身をアピールした。

 選手権全国大会時はまだ進路が決まっていなかったが、青森山田高に3-2で逆転勝ちした決勝(1月13日)の2日後に渡米。阿部は学業、サッカーの両面ですでに多くの大学からの評価を得ていたようだ。当初は施設面が充実していたフロリダの大学で見学・面談。さらに、米代理人の協力によって、阿部が興味を抱いていたメリーランド大と面談する機会が急遽得られ、父とともに5時間掛けてワシントンへ移動したという。そして、自身のプレー映像や選手権優勝時のダイジェスト映像、英語力から評価を得た阿部は、メリーランド大の環境や「生まれ育ったボストンに似ている」ことを決め手に進路を決断した。

 将来のために、日本高校選抜候補合宿招集を辞退してアメリカに渡って決めたメリーランド大進学だ。5月に入り、合格通知に当たるNLIが届いてサイン。すでに、新生活へ向けてメリーランド大の監督とZoomミーティングをしたり、トレーナーからトレーニングメニューを伝えられたりしたという。今後は9月の入学、シーズン開幕を目指して7月末もしくは8月に再渡米。19年静岡県高校選抜にも選ばれている技巧派DFは、身体の強さや速さを持つアメリカ人選手たちとの競争に挑む。

「自分は線が細い方なので、体作りを頑張っているところなんですけれども、対応できるように成長していって、いずれMLSでプレーできるようにしたいですね。また、日本で1位を取ったので、次は全米で1位を取れれば、と思っていました。それは自分にしかできない目標なので目指したいなと思います」と力を込めた。

 川口監督は「サッカーと学力も必要。静学サッカー部から世界へ、ということで目指しているけれど、これは快挙だよね」と喜んだ。そして、恩師から「彼はチームが良くなるためだったら、自分が犠牲になっても良いという性格。犠牲心を持っているし、周りに影響されずにブレずにキャプテンシーを発揮した。優勝も阿部の功績は大きい」と評価される阿部は勉強、サッカーを両立させてきた3年間に感謝する。

「自分の個の幅を広げたり、自分の強みが増えそうだと選んで、選手権も優勝できて、(齊藤)興龍先生は学業面、サッカーでは修さん、他のコーチとあらゆるところで成長させてもらいました。(後輩たちから)どこの高校が良いですかと聞かれたら『静学が良いよ』と自信を持って言えるようになりましたね」。その静岡学園から新たな道を切り開く阿部は、自分のペースを守りながら、後輩たちに勇気を与えることも目標だ。

 メリーランド大での4年間はこれまで以上に勉強も、サッカーも努力しなければならない。一般生も深夜まで課題に取り組んだりしているという環境だが、先輩たちは学業も、サッカーにも全力で取り組み、高いレベルで両立させているという。日本で一つ目標を達成したDFはアメリカでも挑戦するだけ。プロ入りを果たしたMF松村優太(現鹿島)や、大学経由でプロを目指す静岡学園の同級生たちにも負ける訳にはいかない。「(周囲の誘惑などもあるかもしれないが、)高校サッカーで培った常に自分の道を貫くということをアメリカでも継続したいと思っています」という阿部が、日米での全国制覇、日米での文武両道を達成する。

(取材・文 吉田太郎)

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