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「懸けていた」地元インハイが中止。切り替えた伝統校・前橋商は選手権で攻めて勝つ

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躍進を狙っていた地元・インハイは中止に。前橋商高は切り替えて選手権で輝く

 新型コロナウイルス感染拡大によるインターハイ中止。特に群馬県の高校サッカー部員は、地元で初めて開催されるインターハイへ向けて準備していただけに、落胆は大きかった。

 高校進学前から「20年インハイ」の存在と、地元開催で出場枠が2つあることを知っていた選手も多く、全国へのチャンスを掴むために続けていた努力。インターハイ中止のアナウンスを受け、「最初は信じられなかった」「ショックでした」という。それでも、選手たちは気持ちを切り替えて冬へ向かっている。

 白と黒の縦縞のユニフォームをまとう“ゼブラ軍団”前橋商高は、県内最多18回目となるインターハイ出場を目指していた。88、89年度に2年連続で全国高校選手権3位に入った伝統校も、近年は宿敵・前橋育英高や桐生一高の私学強豪校の前に苦戦。12年と16年のインターハイに出場しているものの、選手権は04年度大会を最後に全国から遠ざかっている。だが、今年は県新人戦準々決勝で桐生一を延長戦の末に破って弾みをつけた。

 さらに決勝戦(対高崎経済大附高)は、延長前半に鮮やかなパスワークから先制点を奪う。延長後半終了間際に失点し、PK戦で敗れたものの、先を見据えた戦いで準優勝。昨年からより攻撃的なスタイルへ舵を切っていたチームは、その成果を発揮する戦いを見せた。

 今年の前橋商は、2年時からレギュラーのMF石倉潤征主将(3年)や2年時から10番を背負うエースFW坂本治樹(3年)、FW仲宗根純(3年)、MF山口涼太(3年)、上野大空(3年)といった異なる特徴を持った攻撃陣。また2年生もMF大熊葉薫やCB庄田陽向、FW今泉諒陽といったポテンシャルの高い選手がいる。彼らがショートパスでの崩しやアーリークロスなど多彩な攻撃。小柄な選手が多いが、「足が速かったり、足元が巧かったり、攻撃が魅力というのがある」(石倉)というチームは、人数を懸けた攻守、多彩な攻撃で相手を上回るチームになってきていた。

 だが、新型コロナウイルスの感染が拡大し、関東大会、インターハイが相次いで中止に。GK長谷川翔(3年)は「インターハイは群馬県開催だったので全国に絶対に行く。育英と桐一を倒して2強に入ってインターハイに出るという気持ちで臨んでいました」と悔しがる。例年よりも全国のチャンスを掴む可能性が高いという理由で前橋商を進路に選んだ選手も。地元開催の全国大会で活躍するという夢は叶わなかった。

 ただし、他の部活動の生徒たちが集大成の場を失ったのに対し、自分たちにはまだ選手権がある。また、札幌などでプレーした経歴を持つ笠原恵太監督からは再開時に「インターハイはなくなったけれど選手権がある。これだけ休んでいてサッカーやりたくなったんじゃないか? サッカー好きだから、サッカーやろうぜ」という声がけもあったという。インターハイ中止はもちろん悔しい。それは指導者たちも同じ。選手たちは大好きなサッカーを頑張り、選手権で全国出場、活躍することへ目標を切り替えた。

 エースの坂本は「(インターハイに)めっちゃ自分は懸けていました」と悔しがったが、「自分は今、腹くくっています。選手権一本で頑張ろうとなっています」と前を向く。笠原監督によると、再開時の選手たちの「モチベーションは高かったです」という。ただし、活動休止期間が長かったため、まずは有酸素運動などからコンディションを回復させてきている状況。再開後の練習で前橋商は、相手に縦パスを入れさせない部分など守備面での成長を見せており、攻撃面でのさらなるレベルアップも期待できそう。これからこだわって精度を高め、連係を再構築していく。

 定期試験後には県内限定で対外試合を再開する予定。Aチームはアウェー戦ばかりを組み込み、少しでも不利な状況の中で力を磨くプランだ。石倉は今後へ向けて「(インターハイ中止は)決まったことだから、切り替えてやっていくしかない。選手権は3年間最後なので、悔いのないようにというか、全力を出し切るしかない」と力を込め、長谷川は「育英、桐一が2強と言われる中でも、勝つことで『前商が強いじゃないか』と言われることがモチベーション。中学から全国を狙ってきた。全国に行って夢を叶える」と宣言。ライバルたちは強力だが、夏の悔しさも力に成長を遂げて、選手権で16年ぶりの全国切符を掴み取る。

(取材・文 吉田太郎)
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