beacon

「形はどうであれ、絶対に越えたい存在」JFA田嶋会長を父に持つ兄弟が大学リーグで奮闘中

このエントリーをはてなブックマークに追加

田嶋凜太郎(左)と田嶋翔。筑波大は天皇杯を勝ち上がっていることから、翔は「優勝して(父に)表彰されたい」という密かな夢を抱いている

 筑波大慶應義塾大。リーグ戦では9位と10位に低迷するチーム同士の対戦だったが、スタンドには日本サッカー協会(JFA)の田嶋幸三会長の姿があった。母校の筑波大の試合に姿をみせることに何ら不思議はないが、この対戦はそれ以上の楽しみを持って観に来ていたはずだ。筑波大に田嶋翔(4年=暁星高)、慶大に田嶋凜太郎(3年=三菱養和SCユース)。何を隠そう、2人の兄弟の父は田嶋会長なのだ。

 今季、3年ぶりに慶大が1部リーグに昇格してきたことで、兄弟対決に期待が集まっていた。しかし前期の対戦では先発した凜太郎が後半26分に途中交代。翔が同42分から出場するというニアミスで対戦は叶わず。そして期待された後期の試合では、ともにベンチで戦いを終え、残念ながら人生初の公式戦マッチアップが実現することはなかった。

「小さい頃はサッカーについては細かく言われました。海外に行く時も最初は相談しました。でも今はそんなに言われることはありません。試合をよく観に来てくれるけど、簡単な試合の感想を伝えてくれるくらい。(父がJFAの会長ということで)昔は多少気にすることはあったけど、今はいじられることはあっても、特に意識することもなくなりました」

 兄は凜太郎。現在、慶應義塾大ソッカー部に在籍する3年生だが、年齢は97年生まれの23歳。慶大に入学した年の夏にVVVと契約、休学してオランダに渡った。同シーズンにオランダ2部でトップチームデビュー。翌シーズンはクロアチアの名門であるディナモ・ザグレブのセカンドチームでプレーした。ただ思うように出場機会を得られなかったこともあり、18年に帰国して慶大に復学。昨年はチームの3年ぶりとなる1部昇格に貢献した。

 弟は翔。父と同じ筑波大に進学した現在4年生。しかし一歳違いの兄とは中学まで同じ三菱養和巣鴨SCに在籍していたが、翔はユース昇格を逃したことで、そこから異なる道を進むことになる。兄弟で暁星高に通ったが、兄は三菱養和SCユース、弟は高体連でプレー。弟は筑波大への進学も、サッカー部員のほとんどが受験する体育専門学群の推薦ではなく、国際総合学類に一般推薦で入学した。

 そんな2人だが、まずはプレーヤーとして羽ばたきたいという考えを一致させている。翔は卒業年度を迎えているが、就職活動はしておらず、プロサッカー選手として生きていくことを決めていて、欧州でのプレーを目指して活動していくことになるという。「父は最後は自分の選んだ道を応援すると言ってくれている。そこは覚悟を持って挑戦したい」。

 ただ世界を股にかけて活躍したいという大きな夢もある。幼少期に海外で生活していた経験があることから、「日本に留まるんじゃなくて、サッカー界もそうだし教育面とかいろんな仕事がしてみたい」という漠然とした思いを持っている。「大きな夢で言えば、FIFAとか世界のサッカー界に関わった仕事ができればいいなと思っています」。

 プレーヤーとしても日本サッカー史に名を残す伝説的な活躍をした父。同じ道を志す人間として、偉大さは嫌というほど感じている。ただ奮い立たせてくれる存在にもなっている。「形はどうであれ、絶対に越えたい存在です」。いつの日か必ず。今は“JFA会長を父に持つ兄弟”と紹介される2人だが、その枕詞が取れる日を目指して、成長を続ける。


(取材・文 児玉幸洋)
●第94回関東大学L特集

TOP