松岡修造や石橋貴明のモノマネでおなじみの芸人・こにわが、ハイテンションで参加者を盛り上げる。ただし、参加者の面々はパソコンやスマホの画面の向こう側だ。モニター越しでも参加者がこのイベントをどれほど待ちわびていたかが、弾ける笑顔から読み取れた。

　日本障がい者サッカー連盟(JIFF)が主催する「インクルーシブフットボールフェスタ2020」は、12月20日、5年目にして初のオンラインイベントとして、東京都多摩市のフットサルステージで開催された。

「大変だという言葉は使いたくないんだけど……」そう前置きして北澤豪JIFF会長はインクルーシブフットボールフェスタへの思いを続ける。「やれないかもしれない状況の中で無理にやることでもない。でも歩みを止めたくなかった」。インクルーシブフットボールフェスタが初めて開催されたのは2016年12月24日。その年の4月1日にJIFFが設立され、初代会長に北澤が就任した。インクルーシブフットボールとは、障がいの有無に関係なく、誰もが一緒に楽しむまぜこぜのサッカーのことだ。「毎年世の中が少しずつ変わってきている印象を受けている」とこのイベントへの実感を込めた。「できないことが一番あってはならないこと」と北澤豪JIFF会長は、インクルーシブフットボールフェスタへの想いを明かす。それはJIFFの理念にも通じるものだ。

　今年はリアルで一緒にボールを蹴ることはできなかったが、「(リアルだったら)来られない人も参加することができた」とオンラインでのポジティブな発見もあった。新たな形を見出しつつ、来年1月16日には、新型コロナウイルスの影響で延期となっていた「インクルーシブフットボールフェスタ広島2020」もオンラインで開催、広島では2019年以来2回目となる。「全国展開して、最終的には我々がいなくても地域の活動としてこうしたイベントが行われることが理想」と北澤JIFF会長は先を見据える。

最前線で汗を流す姿が印象的な北澤豪JIFF会長

　インクルーシブフットボールフェスタは、FC東京、FC町田ゼルビア、東京ヴェルディ、日テレ・ベレーザ、スフィーダ世田谷FC、フウガドールすみだ、ペスカドーラ町田と在京のJリーグ、Fリーグ、なでしこリーグのクラブが協力し、実際にコーチ陣を派遣している点も大きな魅力といえる。この日行われた45分に及ぶプログラムは、FC東京の鯨井健太普及部コーチ&グラスルーツコーディネーターが中心となって「できないではなく、どうすればできるか」を考えたという。

「いろいろなコーチが関わって、いろいろなアイディアを出しながら、オンライラインでも参加者が楽しめて、コーチも楽しめたので、非常によかったと思います。コロナの状況が続いていますが、ボールひとつで笑顔になれるところが、このインクルーシブフットボールのよさかなと思います」

　選手で参加した、デフサッカー日本代表の仲井健人は「最初は子どもたちが楽しんでもらえるかという不安がすごいあった」というが、大成功で終えることができた。東京ヴェルディの安齋将人普及コーチは、「子どもたちが喜んでいる様子や画面を食い入る様子を見ることができたのでよかったです」と笑みをこぼす。ロービジョンフットサル日本代表の岩田朋之は「スタッフのみなさんが念入りに、コーチたちと意見を交換して、誰ひとり取り残すことなく楽しむ場をつくること考えたからこそ、この場がつくれたと思います」。ライブ配信中に何度か場面転換があってもテンポよくイベントは進行していた。

躍動感あるプレーとスマイルを見せていた石川直宏

　ゲストとして3年連続での参加となった石川直宏FC東京クラブコミュニケーターは、「多種多様なサッカーをやっている子たちがいて、ピッチでひとつのボールを追いかけると、ゴールを入れてゴールを守って、勝ちたいというシンプルな気持ちになる。それって社会の縮図じゃないですけど、世の中で幸せに生きているかそうじゃないかは、他人を認められるかどうか。それがこのピッチにあるな、ということを毎回感じています」と、ボールを笑顔で追いかけた。

　障がい者サッカー界としては、Jリーグをはじめとするクラブチームや都道府県サッカー協会、7つの障がい者サッカー団体、障がい者サッカーチームなどが連携をはかる「9地域障がい者サッカー連携会議」が2019年からスタートした。「それぞれの団体が活動していたことが『それ一緒にやれるじゃん』という広がりを持ってきた。そういった連携はこの4〜5年でまったく違うものになってきている」。北澤JIFF会長を旗頭に目指す共生社会の実現へ、着実に歩みを進めている。

(取材・文　奥山典幸)

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