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初の降格から1年…「チョウさんが来て変わった」流通経済大が“2部から日本一”に向け初戦突破!

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初戦突破を果たした流通経済大

[1.6 #atarimaeniCUP1回戦 流通経済大 2-1 北陸大]

 2020年度の大学サッカー日本一を決める『#atarimaeni CUP』が6日、無観客で開幕し、流通経済大(関東1)が北陸大(北信越2)を2-1で破った。8日に行われる2回戦では仙台大(東北1)と対戦する。

 昨季の関東大学リーグ1部を11位で終え、現行のリーグ制で初めて2部で戦うことになった今季の流通経済大。1部復帰を目指すシーズンは新型コロナウイルスの影響を受け、一時は大会の開催さえ危ぶまれる状況に陥るなど、先の見えないリスタートとなった。それでも同校が先導して公式戦の開催にこぎつけると、秋には1部も参戦するアミノバイタルカップを制覇。関東制覇の勢いそのままに2部リーグも制し、来季の1部リーグ昇格と全国大会出場を決めた。

 そうして迎えた全国大会の目標は「2部から日本一」だ。総理大臣杯では2014年、全日本大学選手権では17年を最後に王座から遠ざかっているが、「絶対に優勝したい。関東を獲ることができて、2部リーグでも優勝したので、全国でも優勝して『今季を通して流大は強かった』と言われるようにしていきたい」(DF伊藤敦樹)という高いモチベーションで挑んでいる。

 大事な初戦は4-1-4-1の布陣で臨み、プロ内定の3選手も先発に名を連ねた。GK鹿野修平(3年=流通経済大柏高)がゴールを守り、4バックは左からDF佐々木旭(3年=埼玉平成高)、DF伊藤敦樹(4年=浦和ユース/浦和内定)、DFアピアタウィア久(4年=東邦高/仙台内定)、DF宮本優太(3年=流通経済大柏高/22年浦和内定)。アンカーにMF安居海渡(3年=浦和学院高)を置き、2列目は左からMF永井颯太(3年=中央学院高)、MF菊地泰智(3年=流通経済大柏高)、MF仙波大志(3年=広島ユース)、FW満田誠(3年=広島ユース)。1トップにはFW熊澤和希(2年=流通経済大柏高)が入った。

 対するのは前回インカレで初戦敗退のリベンジを期する北信越2位の北陸大。4-2-3-1の布陣で臨んだ。ゴールマウスを守るのはGK豊島啓(4年=山城高)で、最終ラインは左からDF竹林晃輝(4年=富山一高)、DF遠藤一真(2年=習志野高)、DF飛田大輝(3年=日本航空高)、DF新井健太郎(4年=青森山田高)。ダブルボランチはMF高嶋竜輔(4年=北陸高)とMF村松鉄修(4年=日本航空高)が組み、サイドハーフは左にMF深田竜大(4年=関大北陽高)、右にMF矢島芽吹(4年=日大藤沢高)。トップ下はプロ入りを果たしたMF東出壮太(4年=津工高/熊本内定)が務め、1トップにはFW川地博幹(4年=四日市中央工高)が入った。

 試合は前半7分、流通経済大が早々と先手を取った。伊藤の持ち上がりから左サイドを崩し、ゴール左斜め前の位置でFKを獲得すると、キッカーに立ったのは安居。相手GKが壁上のコースを狙って動いたのに対して、壁のない方向に縦回転気味のボールを蹴り出し、ゴール右隅ギリギリのところに直接決めた。

 その後も流通経済大が優勢を保ち、満田や菊池が次々に決定機を迎える。しかし、北陸大は豊島のビッグセーブでなんとか耐え抜くと、徐々に全国のレベルに慣れてくる様子が見られた。そして前半26分、北陸大は村松のスルーパスに深田がフリーで抜け出し、ゴール前に向かって折り返しのボールを供給。これは惜しくも相手DFに阻まれたが、最初のビッグチャンスをつくった。

 すると前半31分、良い時間帯を過ごしていた北陸大が試合を振り出しに戻した。ハイボールを有効に使いながら右サイドを攻め込むと、自身のスローインからリターンを受けた新井が浮き球のパスを中央に供給し、巧みな胸トラップで収めた東出がペナルティエリア右から右足を一閃。ふわりと浮かせたボレーシュートをゴール左隅に流し込むというスーパーゴールが生まれた。

 一方、苦しい展開に追い込まれたのは流通経済大。しかし、選手たちの間に動揺はなかったという。

「昨年までは先制されたり追いつかれたりしたら勝てないのかなって思っていたりしたけど、今年は追いつかれたりしても焦りがなくなって、そのうち1点取れるでしょという心理状態でサッカーができている」(満田)。

 彼らを支えていたのは、アミノ杯と関東2部を高い得点力で勝ち抜いてきた自信——。後半から再び持ち直したチームは後半7分、再び勝ち越しに成功した。ロングボールに飛び出してきた相手GKのキックが低く流れると、これを拾った満田がすぐさま右足を振り抜く。ロングレンジから放たれたシュートは真っ直ぐにゴールマウスへと突き刺さった。

 その後は足が止まりつつあった北陸大を流通経済大が圧倒。途中出場のFW加藤千尋(4年=流通経済大柏高/仙台内定)、FW齊藤聖七(2年=清水ユース)がアグレッシブな攻撃を仕掛け、北陸大ゴールに迫った。最後は竹林、飛田の鬼気迫るシュートブロックに阻まれて得点を重ねることはできなかったが、優勢を保ったままタイムアップ。苦しみながらも初戦突破を決めた。

 試合後、流通経済大の中野雄二監督は「終わってみて勝利したので厳しい試合になって良かったと思えますが、シュートが素晴らしかったとはいえ同点になった時はちょっと嫌だなと思いました」と苦笑い。それでも「後半になって自分たちが何をしてきたかを冷静に発揮してくれたので成長してくれている」と手応えも語った。

 満田が話していたとおり、昨季は失点後の立て直しに苦労していたという流通経済大。「ほとんどこのメンバーでやっていたけど、ああやって同点になったりすると自滅していた。1年の経験を積んだことで慌てなくなった。2部リーグだから勝ったというより、自分たちで駆け引きをして、流れを捉えられるようになったから勝てた。大人のサッカーをできるようになった」(中野監督)。降格からの1年間で確かな積み上げがあったようだ。

 またそうした変化の裏には、今季から加わったチョウ・キジェコーチの貢献も欠かせなかったという。チョウ氏は今年10月、湘南ベルマーレ時代のパワハラ行為によって下されていた1年間のライセンス停止処分から明け、来季から京都サンガF.C.監督に就任することが決定済み。今大会が最後のベンチ入りとなるが、流経大での1年間について中野監督は次のように語る。

「キジェさんにああいうことがあって、うちで1年間預かることになりましたが、わずか数か月で選手一人一人の能力をここまで引き出して、チームをこれだけ整備できているわけですから素晴らしいですよ。去年はこのメンバーで僕がやっていたわけですからね……。降格させた監督ですから。でもキジェさんを見ているとサッカーが楽しいですし、勉強になりますよ」。

 20年以上にわたって名門大をつくり上げてきた中野監督が特に目を見張るのがチョウ氏の「選手の能力の引き出し方」だ。選手たちからも「練習からプロの基準で指導してくれている」(伊藤)、「チョウさんが来て自分たちのサッカーが変わった。自分でもいまの流経は強いチームだと思う」(満田)といった前向きな言葉が次々と聞かれた。

 流通経済大にとって、今大会はそうした進化を結果で証明するための絶好機となる。「『2部だから勝ったんでしょう』ではなく、ここで優勝して『全国で勝ったんだよ』というのが大切。それは選手たちもそうなりたいと思っている。キジェさんのためにも笑って終わろうよ、と」(中野監督)。現行ルール初の降格を機に蘇った名門流経が、日本一奪還に向けて好スタートを切った。

(取材・文 竹内達也)
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