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躍進導く指揮官は元神戸CBの33歳柳川氏…初全国&プロ輩出の甲南大が九州王者破って2回戦進出!

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甲南大がFW木村太哉(4年=札幌大谷高/岡山内定)のミドルなどで初戦突破

[1.6 #atarimaeniCUP1回戦 甲南大 2-0 日本文理大]

 2020年度の大学サッカー日本一を決める『#atarimaeni CUP』が6日、無観客で開幕し、全国初出場の甲南大(関西3)が日本文理大(九州1)を2-0で破った。8日に行われる2回戦では北海道教育大岩見沢校(北海道1)と対戦する。

 夏の総理大臣杯、冬の全日本大学選手権ともに出場経験なし。コロナ禍の厳しいシーズンで確かな躍進を見せてきた甲南大が、今季限定の全国選手権『#atarimaeni CUP』で全国への扉を開いた。

 率いるのは“調子乗り世代”の一員として2007年のU-20W杯に出場し、Jリーグではアカデミー時代から過ごしたヴィッセル神戸などで活躍した元センターバックの柳川雅樹監督(33)。昨季は就任1年目ながら関西学生リーグ1部昇格に導き、2年目で同校史上初の全国舞台にまでたどり着いた。

「見ている人がいろいろ感じてくれるサッカーを絶対にしようと思っている。なんとなくセットして、なんとなくボールをつないで、ゴールに向かう、ゴールを守るではなく、見た人がサッカー面白いなとか、こういうチームすごいなと思ってもらえるサッカーを目指している」。

 結果を残してきたというだけでなく、内容にもこだわってきた。自身が選手時代に師事したスチュワート・バクスター氏、松田浩氏が得意とするゾーンディフェンスを土台としつつ、現代サッカーの潮流に合わせた“プラスアルファ”にトライ。「まだまだ目指すところには足りない」としながらも、この日の全国初戦では九州王者を立ち上がりからほぼ完璧に制圧していた。

 システムは4-4-2。GK善村龍真(2年=作陽高)を最後尾に置き、4バックは左からDF今西宏輔(4年=立正大淞南高)、DF井上聖也(3年=県立西宮高)、DF小田健聖(4年=東福岡高)、DF藤永涼(2年=G大阪ユース)。中盤は左からMF久保勇大(1年=G大阪ユース)、MF坂本樹(3年=履正社高)、MF藤原貫大(3年=センアーノ神戸ユース)、MF室井陸(4年=就実高)で、2トップにはFW稲森文哉(4年=阪南大高)と同校初のプロ入りを果たしたFW木村太哉(4年=札幌大谷高/岡山内定)が入った。

 対する日本文理大も4-4-2。GK清水羅偉(3年=大分U-18)がゴールを守り、最終ラインは左からDF折尾敏輝(4年=神村学園高)、DF竹内悠力(1年=神戸弘陵高)、DF中面成斗(4年=日本文理大附高)、DF田中真輝(3年=福岡U-18)の4枚。ダブルボランチにはMF永松涼介(4年=大分高)、MF岡野凜平(2年=長崎U-18)が並び、サイドは左がMF横道俊輔(2年=鹿児島高)で、右がMF村松凌(3年=静清高)。2トップはFW広瀬椋平(4年=大分西高)、FW平嶋僚太(3年=市立科学技術高)が務めた。

 試合は序盤から甲南大のペース。相手のギャップに上手く顔を出す藤原を使いながらビルドアップし、適度な距離感を保ったサイドプレーヤーが相手のプレスをかいくぐり、ボールを前に進める。またパスにミスが出て相手の攻撃ターンとなっても、2トップを起点としたプレッシングで自由な組み立てを許さず、ピンチの少ない立ち上がりを過ごした。

 そして前半26分、先に試合を動かした。相手のパスミスを中盤で奪った久保が素早く縦につけると、これを受けた木村は相手の最終ラインにプレッシャーをかける持ち上がりから右足を一閃。豪快なミドルシュートを左ポスト際に突き刺し、先制点を奪った。来季から岡山に加入する木村はこれが全国初ゴールとなった。

 さらに甲南大は前半29分、中央に絞ってボールを受けた久保がドリブルで敵陣を打開しようと試みると、ペナルティエリア内で相手に倒されてPKを獲得。自らキッカーに立った久保は、落ち着いたシュートをゴール右に決めた。関西学生リーグで新人賞を獲得した久保はルーキーイヤーの全国デビューで得点を挙げた。

 ところが、甲南大はここから苦しんだ。「2点リードがあるのでゼロで抑えれば勝てるという気持ちが出たかもしれないし、相手が点を取らないといけないという中でより点を取りにきたのもある」(柳川監督)。そんな言葉どおり、やや出足が緩くなったところで相手にボールを握られる時間が増え、後半になると押される時間帯が増えていった。

 日本文理大は後半5分、岡野の右展開から田中がミドルシュートを放ってGKを強襲。15分には主将の永松のミドルシュートがゴールわずかに上へ外れた。さらに25分、甲南大が右サイドからの速攻を久保が決め切れずにチャンスを逃すと、26分には立て続けにゴール前でシュートを許して波状攻撃を展開された。

 もっとも、この時間帯でも最後の粘り強さは光った。藤永の顔面ブロックなどで耐え凌いだ甲南大は187cmの長身を誇る井上が相手のパワーある攻撃を許さず、前線では時折サイドにポジションを変える場面も見られた木村が凄まじい運動量で相手の攻撃起点を潰す。結局、最後まで失点することはなく、2-0のままタイムアップのホイッスルを迎えた。

 試合後、柳川監督は「2-0になってからもっともっと試合巧者にならないといけない。もっとボールを持てば良かった」と試合運びの課題を指摘。ピッチサイズに工夫を加えたトレーニングにより、エリアに応じた守備の対応策を統一しているというシステムは機能していたものの、指揮官は「まったく満足はしていない」と振り返った。

 そうした基準の高さは、自身がプロ生活で積み上げてきた経験を踏まえ、その舞台に立てる選手を育てあげようという姿勢に他ならない。「楽しみな選手もいるので、数人はプロに行ってほしい。プロに行って活躍できる能力はあると思う。ただ、足りない部分はあるので、しっかりと身につけて上でも引き取ってもらえる選手を育てていきたい」。今大会の目標はベスト4。戦術的な土台と選手の成長を追い求める関西の新勢力が、全国舞台で躍進を狙う。

(取材・文 竹内達也)
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