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攻撃に、守備に、そして声…破格の存在感示したMF田中碧「この試合のために準備していた」

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U-24日本代表MF田中碧(川崎F)

[3.29 SAISON CARD CUP 2021 U-24日本 3-0 U-24アルゼンチン 北九州]

 まさしく、チームの心臓部だった。U-24日本代表のボランチの位置に入ったMF田中碧(川崎F)はピッチ上の至るところに顔を出し、ボールを呼び込んでは正確なパスで攻撃にリズムをもたらし続けた。

 20年1月にタイで行われたAFC U-23選手権の第3戦カタール戦で一発退場に。その処分が26日の1試合目に適用され、出場停止となった。「僕自身、1試合しか出られない状況で呼んでもらっている」。だからこそ、2試合目に賭ける思いは強かった。「自分はこの試合のために準備していたので、それだけのパフォーマンスをしないといけないと思っていた。1試合目がそんなに良くなかった中で、2試合目が始まる前に僕自身にもプレッシャーをかけていた」。

 MF板倉滉(フローニンゲン)とともに中盤の底に入ると、圧倒的な存在感を示した。上下左右にこまめにポジションを移して、味方からボールを呼び込む。鋭いターンで前を向くと、前へ、右へ、左へとパスを的確に散らして攻撃を組み立てる。たとえ相手に寄せられてもフィジカル勝負に負けずにドリブルで運ぶなど、ボールを失う場面はほぼなかった。

 組み立てに苦しんだ際、ひとまず田中にボールが預けられる場面が目立ったように、チームメイトからの信頼も厚かったのだろう。田中自身も身振り手振りでボールを要求する姿を見せており、仲間の期待に応えるように攻撃のタクトを振るい続けた。

「常に間に立ちながら、色々な人をつなぐ役割ができればいい。前線に素晴らしい選手がいるので、そこにボールを届けることが大事だと思った」。前半26分にはFW林大地(鳥栖)へのロングボールで好機を創出。林がコントロールミスしたことで得点には結び付かなかったが、「何本か自分としても納得のいくパスが出せた」と振り返る。

 攻撃面だけではない。守備面でも激しい寄せでアルゼンチンの攻撃を寸断。1試合目ではフィジカル勝負で後手に回ったチームが、田中の激しいプレーに引っ張られるように、球際での勝負に果敢に挑んでいるようにも見えたほどだ。

 プレーでチームを引っ張るだけではなかった。その、“声”も特筆すべきものがあった。常に周りに指示を出し続け、仲間を動かす。相手のプレーの選択肢を削り、自らボールを奪い取って攻撃へとつなげる場面もあった。新たな感覚を覚えているという。

「自分が中央に立っている中で、最近は上から見ている感覚じゃないけど、どうすればハマるのか、ある程度は頭の中でイメージできるようになってきていた。それを仲間に伝えることで、自分自身もやりやすいし、チーム全体が良い方向に行くと思う。自分がプレーに関与することもそうだし、声で味方を動かしてゲームを作ることも大事だと思うので、それが少しはできた」

 攻撃、守備、そして声でチームを快勝へと導いた。しかし、満足することなど決してない。「自分自身、常に上を目指している。この試合に勝つことも目標だけど、自分自身が成長するためにやっている部分もある。今もA代表でプレーしている選手もいるし、そこに割って入っていかないといけない。海外でバチバチやっている選手がいる中で、自分は国内でやっているので、その差を生めないといけない」。チームの中心となるだけのパフォーマンスを、この試合で示したのは間違いないが、ここで歩みを止めることはない。代えの利かない選手となるべく、成長を続けていく。

(取材・文 折戸岳彦)

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