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競争社会、移籍問題にも切り込む…JFA新役職の中村憲剛氏が“登録制度改革”へ意気込み「力になれると確信」

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メディアブリーフィングに出席した中村憲剛氏(オンライン会議アプリ『Zoom』のスクリーンショット)

 日本サッカー協会(JFA)登録制度改革本部の「JFA Growth Strategist(JFAグロース・ストラテジスト)」に就任した元日本代表の中村憲剛氏が15日、オンラインでのメディアブリーフィングに出席した。「スタッフの方々が『思い切って何でも言っていい』と言ってくれたので、やらないよりやってみる、言わないより言ってみるの精神で日本サッカーを盛り上げるためにやっていきたい」と熱く意気込みを語った。

 メディアブリーフィングは同日に行われた初回ミーティング後に実施。「自分でもびっくりするくらいに話が出てきた」とミーティングでの様子を自ら振り返った中村氏は「思ったとおりの大役だが、これからの日本サッカーの強化・普及に向け、自分が経験したことが何かしらの力になれるのではないかと確信に近いところがある」と手応えを語った。

 JFAの登録制度改革は、選手・審判員・審判・一部運営役員が登録する現行の登録制度を、より幅広いサッカーファミリーへと広げることを目指したもの。JFAによると、チームに所属していない元競技者、ファン・サポーター、少年・少女選手の保護者などが無料で登録でき、さまざまな情報にアクセスできるメンバーシップ制度の創設などを検討しているという。

 6歳でサッカーを始め、中学・高校・大学年代で地道な努力を続け、川崎フロンターレで18年間にわたってプレーしてきた中村氏。そうした実績が評価されてJFAロールモデルコーチとしての役職にも就いたが、グロース・ストラテジストとしては、そうした選手としての貴重な経験の他、サッカーをプレーする息子・娘の父親として感じたことも積極的に提言していく構えだ。

 この日のメディアブリーフィングでは、サッカーに関わる人々の裾野を広げることの重要性も熱弁。自身もかつて経験した「エリートではない」選手に思いを寄せていた。

「いまはどんどん情報も溢れてきていて、子どもたちも指導者の皆さんも親御さんも、情報はなんでも手に入る時代になっている。環境自体は僕が小さい頃より格段に、段違いに良くなっていると思う。ただそのぶん、サッカーをうまくやれる子、強い子たちだけが楽しむ世界になっていると感じている。サッカーが上手ではなかったり、そこまで勝てなかったり、負けが多い子が面白くなかったり、続けられない世界になっている」

「でもサッカーは勝ち残っていく子の方が圧倒的に少なく、そうじゃない子のほうが圧倒的に多い。彼らにサッカーをずっと好きでもらって、大人になってもサッカーファンでいてもらわないといけないと僕は思っている。競争でサッカーが嫌になって、サッカーが嫌いになって、サッカーを応援しなくなるのはすごく悲しいことなので、そこも含めていろんな子どもたち、学生のみんなが楽しめるような環境になっていったらいいなと思っている」

「僕は一応、小学生の時は全国大会に出たけど、その後はサッカーがつまらなくなる時期もあった。そこで幸いやめなかったからいまがあるけど、そこでやめていてもおかしくなかった。競争は悪いことじゃないけど、弊害はどんどん出ているなと。サッカーってみんなで楽しめるものじゃないですか。そういう意味では、いろんなどんな世代の、どんなカテゴリの、どんなレベルの人たちでも、サッカーは生涯のスポーツとしてでやれないといけない。そういうところでやっていけたらいい。サッカーをやっていて楽しいと思えるようにしないといけない」

「もちろん競争は悪いことだけではなく、日本がW杯で勝つためにはそういう子たちを育てないといけないとは思うけど、そうじゃない子たちもいてサッカー界は成り立っている。いろんな方々をフォローできるような形にしていけたらと思っている」。

 そうした環境づくりのためには、クラブと選手のミスマッチを生み出す原因の一つとされている育成年代の移籍制度問題にメスを入れていくことも辞さない構えだ。

「僕自身もエリートじゃなく、綱渡りのようにサッカー選手になった人間。同じように発掘されず、見出されずにサッカーをやめていった子がすごくいると思う」と危機感を語った中村氏は「学校もあるので簡単ではないことだと思うけど、いろんな機会を与えることがこれから必要になってくる」と指摘する。

 その上で「早熟な選手も晩成な選手もいる中、より裾野を広げないといけない。その裾野を広げることが日本代表の強化になる。自分の子ども、自分のチームの子どもだけがいいというわけではなく、みんなで育てていかないといけない」と力説。自身の経験も交えながら「誰がJリーガーになって、代表になるかは誰もわからない。自分が小中高の時、フロンターレに入って代表になるなんて自分でも思っていなかった。いつどの出会いで選手が変わるかは分からない。輝ける場所を少しでも提供できるようにやっていけたらいい」と見解を述べた。

 また新登録制度の周知・普及に向けては、川崎Fというクラブを成長に導いてきた経験を活かしていくつもりだ。

「僕らはサッカーだけでなく、いろんなことをやってお客さん、サポーターの皆さんを増やしてきた。自分たちがサッカーをやればいいというだけではない。応援してくれている人がいてこそ僕たちは存在できる。当時、自分たちがサッカーをしているだけではお客さんは増えなかった。僕たちが足を運んで認知してもらったり、僕たちの街でどういう選手がプレーしているかを知ってもらうところから活動を始めた」。

「見えないものを人はなかなか好きになれない。でもそこに自分たちが存在すれば、会いに行けば興味は出てくる。そこに皆さんを思う心があれば、人って心が動くんだなとこの18年間すごく思いながらやってきた」。

「今回の登録制度で言えばサッカーをやる子ども、学生、シニアの皆さん、女子の皆さんがいるが、それ以外にもサッカーをするために支えてくださる皆さんは本当に多くいて、レフェリーの皆さん、理事・役員の皆さん、親御さんもそう。ファン・サポーターや詳しい方もいるわけで、それがぶつ切りになってはいけないと思う。サッカーファミリーなので、みんなで登録制度を新しくすることで共有できる何かが生まれたらいい。情報の拡散も桁違いに速い世界になっているので、一瞬で遠く離れた人とも繋がれる世界になっている。いろんな形で、いろんな人たちが繋がれるんじゃないかと思っている」。

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