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見えてきた新たなキャプテン像。堀越MF宇田川瑛琉は“発信力”でチームを牽引する

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チームメイトを鼓舞するキャプテンのMF宇田川瑛琉(6番)

[6.13 インターハイ東京都予選準々決勝 堀越高 2-0 成立学園高]

 このチームでキャプテンを務めることの大変さは、おそらく自身が一番よくわかっている。だが、一度やると引き受けたからには、できることに100パーセントでぶつかっていくと覚悟を決めている。「前に立って伝えるべきこととか、言わなきゃいけないことは、練習の時も試合の中でもやっていこうという意識はありますし、チームを勝たせることが役割だと思っています」。堀越高のピッチ上の監督。MF宇田川瑛琉(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)には、新たなキャプテン像がおぼろげながら見え始めている。

 成立学園高と激突したインターハイ予選準々決勝。前半から堀越はリズムを掴めない。「成立さんが上手く立ち位置を取って、バランスも良くて、狙いもハッキリしていて、自分たちがやりたいようにはできていなかった印象でした。なので、少しずつ選手間で『どうして欲しい』とか、こまめに伝えることを最初の20分はメインにやっていました」。宇田川はチームのバランスを取り戻そうと、必死にチームメイトとコミュニケーションを重ねていく。

 前半終了間際に1点をリードして、迎えたハーフタイム。「相当迷いました。収まる選手を入れるべきなのか、動ける選手を入れるべきなのか、それとも高谷をそのまま使っていくのか」。前半の40分間でほとんど機能していなかった1トップのFW高谷遼太(1年)を代えるのか、代えないのか。代えるなら、誰を投入して、配置をどうするか。キャプテンは逡巡する。

 最後は自分の決断の正しさを、自分に信じこませる。「前半の最後に1点が入ったので、『様子を見よう』と監督からも話があって、『もう少し様子を見ていこう』と思いました」。高谷には端的にやって欲しいことを伝え、チームともここからの戦い方を改めて共有し、後半のフィールドへ飛び出す。

 後半13分。そのまま1トップを任されていた高谷は、パーフェクトなループシュートを相手ゴールに沈めてみせる。「高谷はフィールドプレイヤーの中でも結構監督から言われた方なので、あの1点は彼自身もそうですけど、自分たちにもプラスになったんじゃないかなと思いました。ビックリはしましたけど(笑)、1点が大きかったので嬉しかったです」。まさに采配的中。2-0で手にした勝利に対して、宇田川の決断が大きな要素を占めていたことは間違いない。

 昨年から主力を務めていた宇田川は、前任のキャプテンに当たる日野翔太(現・拓殖大)の行動を近くで見てきただけに、その存在の大きさを痛感することも少なくないという。「日野くんみたいに自分で前に立って、チームを引っ張る姿を見てきたので、自分もそういったことも意識していますけど、日野くんのようになるにはまだまだ遠くて……」。

 とはいえ、もちろん宇田川には宇田川の良さがある。「自分なりに伝えることとか、発信できることは、自分の強みだと思うので、前に立つこともそうですけど、しっかりチームを上に持っていけるように、伝えることや発信することは、さらに強みにしていきたいです」。この日の勝利後、試合に出ていなかった選手たちの練習に混じって、楽しげにボールを蹴っていた姿も印象的。誰からも親しまれるようなパーソナリティも、彼にしか出せないしっかりとしたキャプテンとしての個性だ。

 新チームが立ち上がり、ここまで歩んできた道のりは決して平坦ではなかった。「関東予選でも東海大菅生高校さんと戦って、苦しい試合を勝ち切れなかったという課題から始まって、たとえば決定力の所とか、自分たちは常に課題に取り組んできました。その中で、今日みたいに苦しい時間帯で点を決められるということは、練習から自分たちがやっていることがピッチ内で表現できているので、そこは今後も引き続き生かしていけたらなと思っています」。

 辿り着いた準決勝。帝京高を倒せば、再び全国の舞台に返り咲くことができる。「今の自分たちにある課題を来週の土曜日までに突き詰めることが最優先で、選手1人1人のマインドを揃えることもそうですし、しっかりピッチ内でアピールすることがこの1週間は本当にカギになってきますし、そこから勝つために必要な要素をどんどんプラスできれば、あとは自分たちが持っているモノを最大限に生かすだけだと思います」。

 この半年間の集大成。悩んで、もがいて、それでもチームを牽引してきた宇田川が、堀越を束ね、堀越を最高のステージへと連れていく。

(取材・文 土屋雅史)
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